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第60話 呼び止める者

火祭と楽しくランチをし終えて建物内をぶらつく。いやー、周りからは俺達カップルとして見られているんじゃないだろうか。うはー、照れちゃうっ。いつもはカップルなんて幸せ二人組を見たら、死ねばいいと毒づいていた俺が今やその死すべき対象となっているのだ。ふっ、昔の俺よ、俺は死なないぜ。そしてカップル万歳! イチャつけばいいじゃない。立場が変われば主張も変わるもんだい!


「あ、本屋」


ん? 本屋? 確かに目の前には本屋がある。店頭には最近話題の本やエッセイが置かれてあり、なかなか大きなスペースを取っている。そっか、火祭って本が好きだったよな。図書委員もしているし。


「ちょっと見ていく?」

「え、いいの?」


いいも何もあなたが誘ったんだからあなたの好きなようにしてくれたらいいのさー。俺は特に寄りたい店もないし。


「買い物は後でもいいだろ。ならちょっと本屋にも行ってみようよ」

「うんっ」


案の定、火祭は嬉しそうに本屋に入っていった。さすがは文学美少女。本の虫とはこのことか。推理小説のコーナーでピタリと静止し、本の世界へと旅立った火祭。どうやら戻ってくるのに時間がかかりそうだ。俺は本とか小説とか読まないので、漫画コーナーへ直行。と、その前に参考書のとこへ向かおうかな。参考書でも眺めて知的アピール。誰にかって? とりあえず俺の自己満足。可愛い女の子とかが見ていてくれたら、という願望をこめてます。H大と書かれた赤くて分厚い本をペラペラとめくるが……全く理解できない! 難しいというか無理というか……まず英語の長文の長さに引いた。いつも授業で見る長文レベルをはるかに超えている。授業の英文なら、マイクが頼まれたケーキを間違った種類のやつを買ってきてアイムソーリーのところが、ここではアーノルドとジェニファーとシンプソンがおそらくバイオテクノロジー技術の実用性とその在り方について小生意気なディスカッションをかましていやがる。アンビリーバボー! 自分にはH大は無理だと痛切に理解して、漫画コーナーへ逃げこむ。最新巻出てるかな? おぉ、あるってばよ!











三十分経っても火祭が根がついたように動かないので無理矢理火祭を引っ張って本屋から出る。あの調子だと何時間もいそうだったからな。


「も、もう少しだけ……!」

「だ~め! お買い物に来たんでしょうが」


本来の目的を見失ってはいかんよ。あなたは買いたい物があるんでしょうに。


「そういえば火祭の買いたい物って?」


なんやかんやで聞いてなかったな。一体何だろ? 下着とか勘弁してよ~。


「お母さんへのプレゼント」


……下着とか思っちゃってすいません。変態思考回路だった自分が恥ずかしいッス!


「お母さん、もうすぐ誕生日とか?」

「えっと、お母さん病気で入院していたんだけど最近退院してね。そのお祝いとして何かプレゼントを贈りたいと思って」


うお! なんて親孝行なんだ! お母さん泣いちゃうよ。良い娘さん持ったね火祭のお母さん! 親へのプレゼントかぁ。そういえば春日も親父さんにプレゼントするって……ああぁ、もうっ! だ、か、ら! 春日のことは忘れなさいって! 何をそんなに気にする必要が………そういや春日と親父さんへのプレゼントを買いに行く約束していたよな……。もう先週のことだけど……春日、ちゃんと買えたかな……? い、いや俺が気にすることはナッシング……のはず。約束守れなかったこと謝るべきかな……?


「それでね、何を買えばいいか分からなくてさ、選ぶの手伝ってくれる?」

「っお、おう! 喜んで協力しましょう」

「ありがとね」


……謝るくらいは喋ってもいいよね? それくらいの接触なら……あとでメール送ってみよう。


「どんなのがいいのかな?」

「う~ん、花とか。ベタかな?」

「お母さんお花好きだから、いいかも」


とりあえずは火祭母のプレゼント選びに集中しないとな。






「こちらプレゼント用に包装いたしましょうか?」

「はいお願いします」


とある雑貨店、今はお会計中である。プレゼントとして買ったのはアニメキャラクターのミトンとなった。使っているミトンが古くてちょうど買い替え時だったらしい。あと、お母さんはあの有名な白い猫ちゃんのキャラクターが大好きとのこと。


「ありがとうございましたー」

「うふふ、良かった」


満足そうな火祭。ホクホクとした笑顔に思わずこっちも嬉しくなっちゃう。


「選ぶの手伝ってくれてありがとうね」

「そんなのお安いご用ですよっ」


可愛らしい火祭のためならば、たとえ火の中、水の中であろうとってやつ?


「せっかく来たから色んなお店回ってみる?」

「勿論!」


火祭と一緒ならどこへ行っても楽しいぜ! それは学園祭で実体験済み。じゃあ行きましょう。


「兎月様」

「え?」


突然の様付け、そりゃびっくりするさ。振り返るとそこには紳士服を着た清楚な佇まいの初老の男性。あ、この人は……


「前川さん」


春日家の運転手、前川さんであった。礼儀正しくて俺の中で良い人ランク、トップ3に入る人物である。


「お久しぶりです、兎月様」

「だから様付けはいいですって。普通に呼んでくださいよ」


俺、庶民だから。なんかこそばゆいんですよ。


「ねぇ、知ってる人?」


火祭がちょいちょいと服を引っ張ってくる。そりゃ火祭は知らんわな。


「まあ、そんなとこ」


あなたのクラスメイトの専属運転手とは説明できない。ただの知り合いということにしておく。


「こんなところで会うなんて奇遇ですね。お買い物ですか?」


何買ったんだろうか。車のワックスかな? 運転手だからという安易な発想でごめんなさい。


「いえ、実は兎月様にお話が……」


俺……?



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