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第6話 誘拐は突然に

「米太郎」

「おぉ、将也ぁ。大丈夫だったか? 怪我はないか?」

「…あのなぁ、火祭はそんな狂暴な奴じゃないからな」


ブルブルと震える手で俺の体を触ってくる米太郎。ひどく不快だ。


「お前……火祭に洗脳されたのか? 奴は十数人の不良相手に圧勝するような怪物だぞ」

「それがどうした」

「だってヤバイじゃん! 他の皆も火祭のこと恐がって誰も近寄らないんだからな。それぐらいヤバイんだよ!」

「もういい」


こいつとは話にならない。別に喧嘩が強くたっていいじゃないか。それは火祭の一つの顔でしかなくて、火祭はもっとたくさんの顔を持っているぞ。今日知り合ったばかりの俺でさえ火祭のいいところはすぐに見つけれたのだから。


「だから火祭はヤバイんだって」

「私はそうは思わないよ」

「お、マミー」

「マミー言うな。私も火祭さんと話したことあるけど素直でいい子だったよ?」


さすが水川。よく分かってらっしゃる。


「二人とも正気か? 頭のネジが取れてるぞ」

「それはお前だ」











放課後、俺はトイレの個室でじっとしていた。別に便意があったわけではない。お腹を壊したわけでもない。これも全て春日と会いたくないというただそれだけの理由のみ。パシリなんてもうゴメンだ。俺にだってプライドがある! これ大事!


「……そろそろいいかな?」


トイレでの長期滞在を終え、辺りを警戒しつつ鞄を持って廊下を進む。よし、春日の姿はどこにもない。はははっ、やったぜ!


「兎月」


……まだいたのかよ。つーかどこから現れた? 人の気配なんて感じられなかったのに……怖いよ。


「どこにいた」


足を一歩下げたかと思いきや、勢いよく蹴りつけてきやがった。春日のローキックが膝にヒットする、って痛っ!


「がっ………と、トイレに行ってた」

「鞄持ちなさい」

「い、嫌だ」

「持ちなさい」

「はい」


……なんか少し慣れてきた。そんな自分に溜め息が出る。はぁ、情けない。

春日の数メートル後ろを歩きつつ校舎を出る。………ん? あ、そういや春日はバスだったな。けど俺は……


「俺、今日自転車なんだけど……どうする?」


昨日みたいに同じバスなら鞄持ちできるが、今日は自転車だ。つまり鞄持ちはできないというわけですよ。


「アンタ、私の降りる停留所で待ってなさい」

「な、なんで」

「待ってなさい」

「はい」


まぁ、帰り道の途中だしな。特に支障が出るというわけでもないし、その程度のことなら文句一つ言わずにやってやるよ! つーことで自転車を取りにいこう。


「言っとくけど私より遅れたら駄目だから」


だ、駄目って何!? 何が駄目なのさ!


「……えーと、つまり春日の乗るバスより先に停留所に着けと?」

「そ」


……まぁ、大丈夫だろ。バスごときに遅れを取る俺ではないし、バスもちんたら小銭を両替する奴と老人のゆっくり乗車下車にもたつくだろうし。

自転車のカゴに二人分の鞄を入れ、鍵を外す。自転車に跨がりレッツゴー。颯爽と校門を出る。と、坂道を春日が下りていた。


「アンタは先に行くな」


……はいはい。命令に従えばいいんでしょ。自転車を降りて、のろのろと春日についていく。くそ、坂道を自転車で降りる爽快感を味わえないなんて……じいちゃん! 俺も風になりたいよ!

停留所でバスを待つ俺と春日。いや、俺は待たなくても……。これも春日様のご命令ですか……はぁ。

待つこと数分。バスが来た。


「……これさ、俺とバスの競争になるくね?」

「……」


無視してバスに乗り込む春日。発進するバス。取り残される俺…って、おいおい!?


「い、急がなくちゃ」


慌ててバスを追いかけるが、バスが意外に速い!


「速ぇ! 信号はどうした?」


信号はもれなく全て青だった。グングン速度を上げるバス。差が……差が拡がるぅ!


「ぬ、ぬうおおぉああああぁぁぁっ!」











「ぜぇぜぇっ」


全速力で漕いだ甲斐があって、バスとはさほど距離を空けられずに済んだ。だが最後でしくじった。信号が赤になってしまい、バスは通過したが俺は渡れなかった。目の前には春日の降りる停留所……うわ~、春日がバスから降りてきた。春日の命令で先に待っていないといけなかったのに。


「これはまたローキックの餌食になりそうだな……はぁ…………ん?」


バスが発車した直後、突然黒い怪しげな車が春日の前に停車。中から二人の黒いスーツの男がぬっと現れた。


「な、なんだ?」


黒スーツの男達は春日の腕を掴むと強引に車内に押し込んだ。そしてドアを閉めて発進。あっという間に消えていった。残されたのは静けさと俺だけ。

その光景を見ていた俺から一言だけ言わせてもらおう。


「今の……誘拐じゃね?」


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