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第59話 晴れの日デート

六月中旬、晴好の青空。夏本番前なのになんだこの暑さは、と愚痴りたくなるほどに太陽が燦燦と輝いている。憎い野郎だな。もし太陽がブログしていたら炎上しているぞ。二つの意味で。そんな太陽に相対して俺は駅前の広場で突っ立っている。無意味に立っているわけではない。そんなクレイジーじゃないぞ俺は。本日、土曜日。火祭とショッピングモールに行く約束をしているのだ。しかも火祭と二人きりなのだ。それはつまり……デートというわけなのだ! なのだ! なんて幸せなことだろう。今や二年生の中で一、二位の人気を誇る美少女、火祭からデートのお誘いなんてテンション上がりまくりってわけだ。太陽と向き合うのも全然苦にならないってわけだ! わけだ!

待ち合わせ場所、駅前の広場。待ち合わせの時間、十二時。たったこれだけの連絡事項を遠足のしおり並に確認しまくった俺にミスはない。なんと三十分前にはここでスタンバっているのさ。おかげで二十分間近くも直射日光に晒され続けているのだが……あ、それはミスだった。


「だ~れだ?」


突然、両目が眩しい日光から遮られた。人肌の温もりが優しく両目を覆い、視界は真っ暗。そして後ろから聞こえるのは耳をくすぐる心地好い美声。こ、これはもしや……!


「ひ、火祭……?」

「正解」


パッと視界が明るくなり、振り返ればそこには予想通り火祭が。な、なんと……私服だ! いや、そりゃそうだろ。そして私服姿の火祭……超可愛いっ! うわぁ、制服から私服になるとこうも印象が変わるのか……! なんか新鮮というか……思わず見とれてしまう。もう普通にモデル雑誌とかに載ってるんじゃねぇのってくらいに私服姿の火祭は可愛かった。やっぱ火祭自体のポテンシャルが高いのは当然のこと、私服姿がさらなる相乗効果を生み出しているというか……うん超可愛い!


「待った?」

「いや全然っ。ちょうど今来たところ」


デートの王道マニュアルを実行。本当は待ち合わせ三十分前から太陽と根比べしていたけどね。しかしそんなこと言わないのが男らしさ。


「ところで火祭、あの……なんで目を塞いできたの? そんなカップルがやるようなイチャイチャアクションをしてくるなんて……」


俺と火祭は付き合っていない。というか俺みたいな奴が火祭と付き合えるはずがない。高嶺の花なのだ。桜だけに。あ、上手い。


「これをしたら君がテンション上がりまくるって真美が言っていたから……」


水川の野郎……! その通りだよ、超嬉しいよ。顔には出さないけど心の中ではハイテンションの浮かれまくり! あぁ、俺に彼女ができたら毎回これやってもらおう。火祭もそんなに顔を真っ赤にしてまでわざわざやってくれてありがとうね。そりゃ恥ずかしいわな。


「じゃ、行こっか」

「うん」


向かうはショッピングモール。駅から徒歩で三分ほどのところにある。様々なお店や専門店がずらりと並ぶ、地元では一番の品揃えを誇る大型ショッピングモールなのだ。火祭は何やら買いたい物があるとのこと。それを選ぶのを手伝ってほしいと頼まれたのだ。だからデートというのは言いすぎ浮かれすぎなのだが、デートと言った方が俺のテンションが上がるので勝手にデートと解釈しています。


「ところで買いたい物って何?」


買いたい物が一体何なのかはまったく聞いていない。


「それはまた後でね。とりあえず先にお昼ご飯食べない?」


確かにもうすぐお昼休みはウキウキウオッチングの時間だからな。お腹も空いてるし、何か食べるか。


「何食べよっか?」


ショッピングモールへと到着。さすが休日とあって大勢の人で賑わっている。家族連れが多いな。お昼時だし、飲食店は混雑していそうだな。


「私は何でもいいよ」


火祭よ、何でもいいってのがお母さん一番困るのっ。毎日晩ご飯考えるのは大変なんだよ。


「うーん、ガックとかどう?」


ガックとはガクトナルドというハンバーガーチェーン店名の略語だ。イケメン男性がマスコットキャラクターを務めており子供受けの良いおもちゃもセットでついて、味とボリュームも最高な大人気ハンバーガーショップなのだ。


「うん、それでいいよ」

「よし、じゃあレッツゴー」


おー、とノッてくれる火祭。やっぱ出来た娘だよ、火祭ちゃんは。






案の定、ガックは混んでおり少しばかり待つ必要があった。


「お待たせしました。ご注文は?」


適当にハンバーガーセットを頼んで火祭と空いているテーブルに座る。この時間帯に座れたのはラッキーだった。神様ありがとぅ! あなたに感謝するのは高校受験以来ですわ。


「う~ん、さすがはガック。美味いよな~」

「うん」


ハンバーガーを両手で持ってモグモグと食べる火祭が……小動物みたいで可愛い! うはぁ、キュンとするわぁ。


「? どうかしたの?」


俺の視線に気づいた火祭は不思議そうにこちらを見てくる。なんてピュアな反応だろう。春日なんて見るなって言ってきたからな。………って、また春日かよ……もう春日とは関係ないだろうが。全くの赤の他人なんだよ。いい加減忘れましょうよ。何をそんな未練タラタラと……っ。


「……大丈夫?」

「へっ?」


俯いた俺の顔を覗きこむように火祭が上目遣いで見てきた……くあぁ!? マジでドキッとした!


「だ、大丈夫ぅ。ちょっとフリーズしてただけ」


そ、そうだよ。今は火祭と二人きりなんだよ。春日のことなんて気にかける必要はないんだから。何を俺は昔の女のことを……。いやいや! 別に春日とはそんな関係じゃなかったし、現在火祭ともそーゆー関係ではない。モテ男気取ってんじゃないわよ! 俺の馬鹿っ。


「本当~?」


うっ、そんな疑わしげな目を向けないでぇ! この辺り水川に似てきたな……。水川ぁ、火祭に変なこと教えちゃ駄目だからね!


「ほ、本当だよ」

「何か考えていたんじゃないの?」


くっ、鋭いぞ火祭さん。何か上手くごまかさないと……。


「ひ、火祭の私服姿が可愛いなーと思っちゃいまして……みたいな?」

「っ!?」


うおっ? 火祭の顔が一気にトマトみたいに真っ赤になっちゃった。ボンッみたいな音が聞こえてきそうだ。そ、そんな恥ずかしいこと言いました? なんか俺も恥ずかしい! きゃー恥ずかしい!


「あ、ありがとう……」


ごにょごにょと小さい声で火祭はそう言ってくれた。……ぐはぁ! 可愛いすぎ! なんて純粋な子! 春日とは大違い、って……くそっ、なんでここで春日が出てくるんだよ。か、春日は関係ないって……俺は何を考えているんだか。何をこんなに春日のことを………あぁぁっ!? 俺の馬鹿野郎、春日のことは忘れろって! あの人と俺は住んでる世界が違うっての。


「可愛いって言われない? 男子人気も凄いらしいよ」

「そ、そうかな?」


俺は庶民であっちは婚約者も決まった親が社長の大金持ち。……俺が傍にいていいわけがないんだから。俺なんか相応しくないんだよ。金田先輩のようなお金持ちで将来社長みたいな人が春日にはお似合いなんだ。今頃もきっと二人で高級レストランでランチでもしていることだろう。夜はオペラを観に行ったりとか……レベルが違いすぎるんだよ。


「水川情報だと五人ぐらいから告白されたんでしょ?」

「う、うん……」

「すげーじゃん。誰かと付き合ったりしないの?」


火祭ともレベルが違うや。ファンクラブもある程の人気の火祭とこうしているだけでも俺には勿体ないってわけだ。


「付き合わないよ。だ、だって……」

「誰か好きな人でもいたりして?」

「ふぇ!?」

「おっ、その反応はいるんだな? いいねぇ~青春だな」


こうやって火祭と楽しくお話ができるんだ。春日さんのことはもう綺麗さっぱり忘れて今を楽しもうじゃないか。そうでもしないと気持ちがモヤモヤして気持ち悪い。こう……消化しきれないこの表現のしようのない感情が胸の中をのたうち回ってすっきりしない。なんだよ、この気持ち……。って、いかんいかん! 何も考えるな、今を楽しめ。それがベストじゃないか!


「好きな人って誰? 俺の知ってる奴?」

「え、その……」


火祭の好きな奴って誰だろう? 俺の知ってる奴だと……米太郎かな。い~や、ないないない。そんなわけないっしょ。あんな野菜馬鹿を好きになるはずない。なら……山倉? う~ん、それもありえないわな。だとしたら……俺とか………な~いないないないないない。そんなわけないだろ。火祭とは仲良いけど、それは友達としてだし。火祭が俺のことが好き? そんなことは天鱗が出る確率くらいにありえない。


「へぇー、いるんだ。告白とかしないの?」

「い、いつかするつもり……」


そりゃなんともまあ! 火祭なら絶対成功するって。


「その時は俺も呼んでよ。陰ながら応援するから」


相手が誰か気になるしね。その相手思いきりぶん殴ってやる。火祭のハート射止めやがって。憎いったらありゃしない。


「も、もちろん必ず呼ぶよ!」


うおっ? そ、そんながっちりと約束してくれなくてもいいよ。俺がいなくても告白は成功するだろうし、もし相手が米太郎だったら俺立ち直れそうにないし。……米太郎よりは先に彼女作ってやるからな。米太郎には負けないから! 宣戦布告として米太郎に、負けないからな! とメールしたら意味が分からん、と返ってきた。そりゃそうだな。



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