第55話 邪魔者は退散
昼休み、春日と食堂でランチ。どことなく不機嫌なのは金田先輩のせいか、または俺のせいか。どっちにしても不機嫌なのに変わりはない。空気の悪さにちょっとだけ食欲も失せる。ちょっとなので全然食べますけどね!
「なぁ春日、食堂で金田先輩と会いたくないから昨日はうちのクラスで食べただろ。どうして今日は食堂なのさ?」
今日も売店でゲットしたあんパンの袋を開けつつ春日に問いかける。あんパン最高。飽きてきた感が徐々に増えてきたが、まだメーターの半分くらいだ。まだいける。あと二日はあんパンで乗りきってやる。後釜は決まっている。メロンパンだ。
「……」
春日は無言で携帯を取り出すと画面を俺に見せてきた。うわうわ、駄目だって。食堂で食べる教師もいるんだからそんな堂々と携帯出しちゃ。見つかっちゃうよ。
「ん? これって金田先輩から?」
『お昼休み、教室まで迎えに行くから待っていてください』
これは……お昼のお誘いというやつでは?
「……あの人が一組に来るから、隣の二組にいても気づかれそうだから」
は~、さいですか。って、駄目でしょ。そんな拒絶して……金田先輩が可哀相でしょうが。俺なんかと一緒にいていいのか?
「今日もパン?」
携帯をパタンと閉じた春日がそんなことを聞いてきた。何その急な話題転換。どんだけ金田先輩の話したくないんだよ。
「そうだよ。最近あんパンにハマってるんだ。ところで金田先輩はどうするの?」
「いつもどこで買ってるの?」
「うえ? っと、休み時間に売店で買ってる。昼は混むからその前に買わないとさ。ちなみに金田先輩は弁当なのかな?」
「自分でお弁当作れば?」
くおぉうっ!? 意地でもそっちの話題には触れないってか? なんでだよ、あなたの旦那さんの話でしょうが。
「あぁ……いや、俺料理できないから」
「そ」
「……」
「……」
なんで? そんなに金田先輩が嫌いなのかよ。あの人じゃ不満? それとも他に好きな人でもいるとか?
「……」
「……」
「……」
「……兎月」
「何?」
「……アンタはどうなのよ?」
はい? な、何が?
「あの人のこと、どう思ってるの?」
金田先輩のことか。いや~、俺は親しいわけでもないし、これといって会話もしてないし。なんとも言えないんですけど。まあ確かにいけ好かない人だとは思うけどさ。
「う~? いや良い人だなと思うよ」
「……そうじゃなくて」
「じゃなくて?」
「……私とあの人が一緒で兎月は何も思わないの?」
「……」
……………そ、それは……いや、俺は何も思うことはないぞ。絶対にだ、うん。お、俺は……別に…何とも………。
「ねぇ」
「お、俺は……」
「ここにいた。探したよ恵さん」
あっ、金田先輩。息遣い荒いけど……走りました? 息を整えつつ金田先輩は春日から視線を外さない。
「メール見たでしょ。どうして教室にいなかったの?」
「……」
露骨に嫌な顔するなよ春日。ちゃんと質問には答えなさいっ。
「まぁいいや。ここで食べようか」
と言って先輩は弁当箱をテーブルに置いた。そして目線を俺へと向ける。
「……」
その目はあれですね、お前は邪魔だからどっか行きやがれ的なメッセージを訴えかけていますね。はいはい、分かってますよ。俺みたいな庶民は立ち去りますって。
「あぁっ! 俺、今から大事な用事があったんだ! 急いで行かなくちゃ~」
パンを袋に戻してエスケープの準備。急げ俺。二人の大切な時間を潰さないように。
「兎月……?」
「じゃあな春日。あんまりアツアツしたら周りから見られるから気をつけてなー」
猛ダッシュでテーブルから逃げる。邪魔者は退散っと~。
「兎月」
「彼はいいから。さ、一緒にお昼を食べよう」
後ろから二人の声が聞こえたが振り返っちゃ駄目だぞ。二人の愛のランチタ~イムだからな。俺が邪魔したらいけないんだよ………。
「で、こっちに戻ってきたのか。ヘタレだな」
舞い戻った教室で米太郎にそんなことを言われた。
「ヘタレじゃない。俺なりに気を遣ったんだよ」
「はいはいそーですかーっと」
馬鹿にしてんのか。俺の英断を馬鹿にしてんのか。
「他の男にみすみす彼女を取られるなんて情けないぞ将也」
「あぁ! だからっ、俺と春日は付き合ってないっつーの!」
「ありえないっつーのみたいな? 花の男子気取りかお前は」
そんなつもりはない。お前が無理矢理そうとらえただけだろうが。
「……う~ん……本当に付き合ってないのか? えっと、下僕だっけ? それってマジ?」
「マジだ。春日はな、鞄持たせたりパシリさせたりと俺をこき使うんだ。俺は主人に忠実に仕える犬の性質を持っているんだとよ」
大体なんだよ犬性質って。でも実際、何も言い返せずに従っちゃうんだよな。これこそヘタレだ。情けないことこの上ない。
「……ふぅん」
「なんだよ?」
「いやな、だって将也と春日さんすげー楽しそうにしているからさ」
俺と春日が……?
「春日さんが楽しそうなんだよ。ああいった表情しているの、お前といる時だけだぜ?」
「そんなわけないだろ」
つーか、いつも無表情だから楽しそうかそうでないかなんて分かんないって。
「あと将也も。お前もすげー楽しそうじゃん」
「俺が?」
「ああ。楽しいんだろ? なんだかんだ言って」
「……」
「ま、要はお前はヘタレだってこと」
「何そのまとめ方!?」