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第54話 セレブのセレブな登校

春日婚約!? の翌日、今日もバスに乗る。今日は席が空いておらず立っているのだけど……春日が怒りそうだ。なんとか説得して他人の席を奪うのはやめさせたけど、立つとなったら春日がイラついて俺を蹴ってきそうだからなぁ。ちょっと欝だよ。などと思っているうちにバス停に到着。いつもみたいに春日が乗ってくると思いきや……バス停に春日の姿はなかった。あれ? おかしいな。春日が乗ってこないなんて。以前、この時間のバスに乗れって春日からメールがきたから乗っているんだけど……言った本人が乗らないなんてな。何かあったのか? いつもと違う光景に違和感を感じつつ、バスは発進した。











「お、将也~。おはよう」


一人学校に向かっていると、後ろから声をかけられた。振り返ればそこには米太郎が。朝から爽やかな笑顔しやがって。


「おはよう」

「今日は一人か。いつもラブラブ登校してる相手はどしたの?」


それは春日のことを言ってるのか。別にラブラブじゃないぞ。


「いなかったんだよ。今日は休みかもな」

「そうなのか。春日さん、皆勤賞逃したな~」


それは別にどうでもよくね? ちなみに俺は一年から皆勤賞だぜっ。昨日の遅刻はバレなかったのでまだまだ皆勤継続!


「ちなみに俺は一年からずっと皆勤賞だからなっ」

「き、聞いてねぇよ!」


くそっ。米太郎と同じ思考回路だった自分が腹立たしい! なんで同じこと考えてるんだよ。こんな野菜馬鹿と同類になりたくない!


「おい将也、あれ見ろよ」

「あ?」


次の瞬間には一台の黒光りする車が俺の横を通過していった。なんだか高級そうな車だな。黒光りの高級車は高校生の通学路に似合わない。すげー浮いてる。


「あんな高そうな車、うちの学校の教師陣の中で乗っている奴いたか?」


いや、いなかったはずだ。それにあんな車は一回も見たことない。だとすると誰の車だ? 通学する他の生徒らも注目する中、坂を登りきった車が校門前で停車する。ドアが開かれ、出てきたのは……あっ、


「春日だ。それと金田先輩」

「へぇ、あれが昨日話していた色白眼鏡お金持ち先輩さんか」


色白で眼鏡をかけた優等生オーラを出す金田先輩。対して不機嫌オーラ全開の春日。うわ~、あの春日相手によく微笑んでいられるなぁ金田先輩。俺だったら恐れ多くて無理だよ。


「すげーな、車で登校とはさすがはお金持ち。あと、春日さん皆勤賞続いてるじゃん」

「そうだなー。でも春日、機嫌悪いな」

「そうなのか? よく気づくな。さすがは彼氏」


彼氏じゃない下僕だ。いや、どう見ても機嫌悪そうだよ。普段から無表情だけど今は超ぶすっとしている。ちょっと怖いぐらいだ。


「春日はああいった送迎が嫌だって聞いたことがある」

「ほー、だからバス通学なのか。ところで兎月」

「なんだ?」

「行かないのか? 春日さんのところに」


俺が? いやー、今は婚約者の金田先輩といるみたいだし、邪魔したら駄目でしょ。


「許嫁同士の仲良し登校だぜ? 俺みたいなクズ庶民が行ったら邪魔だろ。無理して声かけなくていいんだよ」

「そうか?」


そうだよ。さ、俺達は俺達で仲良く登校しようぜ。米太郎と手を繋いで仲良く登校~、って思いっきり手を弾かれた。繋ごうとした手を弾かれて視線を横に向ければ、そこにはぐにゃぐにゃに歪んだ米太郎の顔。嫌悪の文字が色濃くはっきりと出ている。


「ちょ、やめてくんない? 俺、野菜と女性が好きなだけの普通の男子だから。そっちの気は全くないから」


おいおいおい!? ちょっとしたボケじゃないか。そのくらいノッてきてもいいんじゃないの!?


「違うって米太郎、俺なりのユーモアだって。そんなガチに引くなって」

「いやっ、近寄らないで! カヲル君のことは友達だとしか思っていないんだ」

「誰がカヲル君だあぁ!? 話を聞けよっ! ほんの冗談だって」


尚も絶叫する米太郎。落ち着けえぇ! 朝っぱらから騒いでんじゃねぇよ! ほらぁ、周りから変な目で見られてるよっ! 俺ら別にBLじゃないからこっち見ないでえぇ! うがああぁぁ、軽くボケたらこの仕打ち。俺はツッコミしかしちゃいけないのかよ!


「恵さん? どうしたの、早く行こうよ」


んあ? この声は金田先輩のだ。顔を上げれば、坂の上には俺を見下ろす春日とその春日を見つめる金田先輩。………これはあれだな。


「……」

「……うわぁ」


ヤベ、はしゃぎ過ぎた。春日に見つかってしまった。春日と金田先輩、二人は今から仲良く教室まで行くのだ。俺がいたらマズイでしょ……ぐあっ、こっち見ないで。


「……」


無言で横を通り過ぎる作戦実行。どうかこのまま何事もなく……


「兎月」


作戦失敗。なんで呼びとめるんだよ。そこにいるフィアンセと二人で登校しなさいってば。


「……あ~、おはよう」

「……おはよう」


挨拶を交わす俺と春日。こっちをじっと見つめてくるけど……見ないでください。俺はどうしたらいいんだよ。


「また君か。確か、恵さんの下僕君だったよね」

「あ、はい」


軽く牽制し合う金田先輩と俺。いや……なぜ牽制しなくちゃならんのだ。敵視の眼差しをぶつけてくる金田先輩。俺が何かしましたかい? おかしいおかしい、俺は何も関係ないし。


「君だね、恵さんに変なことを吹き込んだのは」

「はぁ? 変なものを吹き出した? 朝から下ネタは勘弁してくださいよ先輩」

「そんなことは言ってないだろ! 君が無理矢理そう解釈しただけじゃないか!」


おぉ、ツッコミだ。良かった、俺はボケてもいいんだ。ほんのジョークですって。だから俺の脇腹を抓らないでえぇ春日ぁ! 痛い痛いっ。


「兎月、行くわよ」

「え、ちょ、春日?」

「え、ま、待って恵さん」


抓っていた手を離して俺の手を持つと春日は早足で校舎へと向かう。ちょ……金田先輩はいいの? 未来の旦那さんでしょ?


「待っ」

「裏切ったな! 父さんと同じに裏切ったな!」


金田先輩の声は初号機パイロット佐々木米太郎の叫びによって遮られた。











春日と二人、手を繋いで早歩き。婚約者の金田先輩から逃げているようだが、俺的には花嫁を奪った男みたいな気分は一切ない。だって花嫁が自ら逃走したのだから。つーか俺と春日はそーゆー関係じゃないし。……あと、周りからの視線が痛いッス。男女が繋いで登校ってのは普通にありと思うが、走って登校なんて見たことがない。「何を急いでるの?」と言わんばかりの視線が突き刺さってくる。とても気まずい。


「……」

「……」


あっという間に正面玄関に到着。後ろから金田先輩が追ってくる様子はない。


「早く履き替えなさい」

「はいはい」


そんな急がなくても先輩は来てませんって。露骨に嫌がりすぎでしょ。そんなに嫌なのかよ。上履きに履き替えて、春日と二人教室へ向かう。


「昨日、お父さんから結婚の話聞いた?」


金田先輩が言うには、春日父とは話をしてあるらしい。春日が結婚のことを知らなかったのは親父さんが伝え忘れたからだそうだ。何してんだよ春日父。


「……聞いた」

「やっぱり結婚って本当?」

「……うん」


コクリと頷く春日。やっぱ本当だったのか。へぇ、あの春日父が婚約を認めたなんて。金田先輩の会社と提携結べるのがそんなにいいのかな? その辺の難しい話はよく分かりませんが。


「なるほど。だから車で仲良く登校ってわけか。金田先輩優しいじゃん」

「……」


あ、れ? 違うの? いやでも、そうじゃないか。優しいもん。


「……」

「……」

「……兎月、言ったよね?」

「え~っと何を?」

「……私と一緒に普通に登校したいって」


あ~、言ったようなそうでないような……。ああ、そうだ。確かに一度、本音を言ったことがあったな。


「うん、言った」

「……」


でもそれは俺のささやかな願いであって春日が無理に聞くことではないよ。フィアンセの金田先輩のことを優先しないとさ。


「そんなこと気にしなくていいよ。ただ俺は金田先輩と春日の邪魔はしたくないね」

「……なんで」

「なんでって……いや、俺みたいな庶民がセレブ夫婦の仲を邪魔しちゃ駄目だろ。所詮、俺はただの下僕だし」


俺がとやかく言う筋合いも資格もないだろ。金田家と春日家の縁談であって、兎月家の俺には一切関係なし。何も口出ししちゃいけない。


「……兎月はそれでいいの?」

「え……」


だ、だから俺には関係ないこと……それに俺があれこれと言うべきじゃないし……言える立場でもないし。春日に迷惑はかけたくないし……。


「……」

「ねぇ」

「別にぃ? 俺はどうでも? 特にこれといってないですよ」

「……」

「結婚だなんて俺にはまだ縁のないことだし。どうぞご勝手にって感じだよ」

「……」

「俺は何とも思わ……!?」


ふと隣を見れば、そこには春日の顔が。けど、それは今までに見たことのない悲しげな表情だった。ちょ、どうしてそんな顔してるの? 傷つけること言いました?


「えっ……ど、どうしたの?」

「馬鹿」

「ば、なっ、え?」


それだけ言って春日は自分の教室へと入っていった。悲しそうな表情のまま。な、なんですか急に。そんな顔しないでよ。俺なんかやらかしました……?


「……うーん」



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