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第53話 日月木の昼休み

「ほぉ、そんなことがあったのか」


昼休み、いつものように米太郎とランチタイム。ここ最近あんパンが美味しい。俺の中で密かに急上昇してます。安くて美味しいあんパンは子供の人気者。ばい菌もやっつけるんだぜ!


「びっくりだろ?」

「確かに」

「あとこの前、菜々子さんに会ったぞ」

「らしいな。茶髪にしてさ~……ププッ」

「……その笑いはどういう意味だ」

「いやいや、去年の将也の醜態を思い出してぶべらはぁ!?」


とりあえずグーパンチ。あんパンを頬張りつつ今朝の出来事を米太郎に話す。今朝の出来事というのは勿論、超スクープ春日結婚!? のことだ。もう大事件だよ。ハプニングだよ。


「ホントすごいな。それにしても許嫁か……。そんな人がいたら俺もう友達一人もいらないや。あ~早く会えないかなぁ、許嫁ちゃん」


架空の許嫁にデレデレする米太郎。気持ち悪い。傘をさすかどうか迷う程度の雨ぐらい気持ち悪い。つーかイラつく。小雨も米太郎も!


「許嫁だからとか関係ない。親父達の決めたことに従う気はサラサラないね。俺のことは俺自身が決める。だから許嫁はもう取り消しだ。……これからは恋人同士だからな。文句は言わせねぇぜ、俺自身が決めたことだから……みたいなっ!」


一人ヒートアップする米太郎。こいつの妄想力と一日の野菜摂取量は人一倍だからな。まったくもって気持ち悪い。野菜のように緑色に変色してしまえ。そしてナメック星に帰還しろ。


「兎月」

「ん? ……春日」


噂をすれば、ってやつか。今朝と変わらず無表情の無愛想の春日。お弁当箱を持った春日が後ろに立っていた。ぬおぅ、だから気配はどうした。自分の意思で消せるのかよ。


「ごめん、メール気づかなかった」


しかし携帯に新着メールはきていなかった。今日は迷惑メールしかきていないことにめげず、顔を上げる。ということはメールしてないってことか。アポなしで来ましたか。


「食堂で食べるんだろ? わりいな、米太郎。ちょっと行ってくる」

「……ここ」


えっ?


「ここで食べる」


どういった心境の変化か、春日がうちのクラスでランチをするらしい。俺としては食堂に行く時間が省けるからいいけどね。


「そっか。ちょっと待って、椅子持ってくるから」


春日を俺の椅子に座らして、別の余っている椅子を取ってくる。


「米太郎も一緒にいるけど問題ないよな」

「……」


無視するので問題なしということで。一方、米太郎のテンションは急上昇していた。


「やっほぅ! 春日さんと飯が食えるなんて超幸せだぜぇ。こんにちは、俺の名前は佐々木米太郎。弓道部に所属しています。よろしくっ」

「……」


ズバッと挨拶をまくし立てて俺と春日と米太郎の昼食開始。


「ま、将也ぁ。春日さんが無視する……」


涙目の米太郎が耳打ちしてきた。確かに無視してたけど俺はもう慣れたから気にもならないぞ。あの程度の無視、春日にとっては挨拶みたいなもんさ。


「春日はそういう奴だから。さ、食べようぜ」


あんパンをまた一口頬張る。上品な餡の甘みが口いっぱいに広がる。百円クオリティーとは思えない。これでこの美味さ、三ツ星パン屋で売っているあんパンは一体どれほど美味いのだろうか……食べてみたいものだ。いやいや百円あんパンで俺みたいな庶民には十分だけどね。


「春日さんも弁当なんだね~。俺も毎日手作り弁当。野菜を食べて元気モリモリさ!」

「……」


テンションが空回りの米太郎。春日じゃなくてもこれは無視したくなるわ。あ、また泣きだしそう。こいつメンタル面弱すぎだろ。


「大丈夫だって。表情には出てないけど、すげー喜んでいる。そのまま続けるんだ」


小声で米太郎にアドバイス。


「わ、分かった」


また変なテンションで話しだす米太郎。こうしていれば俺が黙っていても空気は悪くならない。黙々とご飯が楽しめて都合が良いや。だからファイトだ米太郎。


「これで一日分の野菜ジュースみたいなのがあるけどさ、俺からしてみれば野菜はそのまま摂取してほしいね。量とか効率とか云々じゃないんだ。太陽の恩恵を受けた野菜、厳しく壮大な自然の中で育った野菜ってのは温かいものを持っているんだよ。それがどのビタミンよりも大事で人に必要な……ビタミンLOVEなのさ」

「……」


不意に春日が足を踏んできやがった。痛ぇ! ま、まずい……米太郎のつまんない話に春日がイラついている……!


「家庭での料理によっても愛情をもらいビタミンLOVEは発生す」

「はいストーップ! その話はやめにしような。全然面白くないから」

「はぁ? 待てよ、こっからが盛り上がるシーンだぜ?」

「そんなこと知りません。いいから黙ってなさい」


シュンとする米太郎。もっと気の利いた話ができないのかお前は。仕方ない、いつもみたいに俺が話しかけるか。


「米太郎は変わってるからさ、気にしないでいいよ」

「……そ」


「どうしてお前には返事するんだよ!?」と叫ぶ米太郎の口を塞ぐ。モガモガうるさいぞ、米太郎君。


「なんで今日は食堂に行かないの?」


これは気になってたんだよな。食堂に行きたくない理由とかあるのかな?


「……あの人がいるから」


あの人……金田先輩のことか? そんな毛嫌いしなくてもいいじゃん。


「婚約者なんだから、もっと仲良くしたら?」

「うるさい」

「痛いっ!」


す、脛蹴られた。痛くて涙が出そう……。


「これもビタミンLOVEの一つの形だな」

「うるせえ米太郎! ビタミンLOVEってなんだよ!?」


そのままグダグダと昼休みは過ぎていった。



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