第52話 さらりとエスケープ
半端なところで終わります。
そんな半端ですいません。
「結婚んんんっ!?」
えぇ!? マジか!? ちょ、あ、えっと……マジですか!?
「ちょっと下僕君、静かにしてくれないか」
あ、すいません。でもびっくりするって、いきなり結婚だなんて。男と女が永遠の愛を誓うあの結婚ですよ。共に生きようとプロポーズしたんですよあなたは。うおぁ、驚いた。俺がびっくりしたんだから言われた春日はもっとびっくりしてるって。
「……」
ほら、驚いてるじゃん。というより、すごく不快そうな顔してるよ……眉間にシワが寄りすぎ。無表情が崩れて不快そうなオーラ全開。露骨に嫌がりすぎだろ……。
「もちろん今すぐにというわけじゃない。恵さんが高校を卒業してからでいいんだ。今は婚約という形で」
ペラペラと話しだす金田先輩。うわ~、こんな簡単に結婚って決まるのか? 人生ゲームみたいだ。
「どうして……私なんですか?」
そりゃ、あなたが可愛いからでしょ。
「僕は将来、父の会社を継ぐ。そして恵さんはあの有名な春日グループの社長の一人娘。これだけ言えば分かるよね」
お~、政略結婚的なやつですか。ドラマでよく見かけるよね。こういうことって現実にあるんだなー。いやこれだって小説だろ、というツッコミは禁止っ! あ、あれ? 俺、何言ってんだ?
「恵さんには悪いけど、これは恵さんのお父さんと話し合って決まったことなんだ」
親の決めた許嫁みたいな? でも私、本当はあの人ことが……みたいな? うわぁ、ドキドキの急展開。つーか俺はこれを聞いていいのか? 完全に部外者ですけど……今更ながら後悔しています。
「……」
「お父さんから話を聞いて話し合ってくれないかな。あぁ、中井は帰ってくれ。わざわざすまなかったな」
婚約とかそんな大事なことを娘に言わないなんてことあるか? 何やってんだよ春日父。
「じゃあ教室に行こうか。送っていくよ」
家まで送っていくよ的なノリで金田先輩は手を差し出してきた。さすがは婚約者。手を繋いで行こうってわけね。ラブラブですね。ちょっと妬けちゃいそう。
「……」
「え……」
「……うぇ?」
無言で手を取る春日。ただし握った手は金田先輩のじゃなくて……俺の手なんですけど……。金田先輩の手は空中で静止したまま。違う違う、春日さん。繋ぐ手を間違ってる。こっちじゃない。そっち。そっちで、こっちじゃない。
「ど、どうしたんだい?」
それでも上品スマイルをなんとか崩さずに尋ねる金田先輩。この人なかなか出来た人間だよ。大人だね~。
「行くわよ、兎月」
「ふえ、いいの?」
金田先輩固まってるよ? 中井とかいう執事さんも消えて金田先輩は一人ぽつん状態。なんだか可哀相なんだけど……。金田先輩をほったらかしにして俺と春日は手を繋いだまま教室へと向かう。片腕だけで鞄を二つ持つのは結構難しいや。そして春日の手の温もりが心地好い。
「あの……春日? あの人無視していいの? なんか失礼な気が……」
「……」
すげーしかめっ面でこちらを睨まないでよ。なんだか機嫌が悪そうですね。そりゃいきなり結婚だなんてびっくりだよな。あと普通に手繋いじゃってるよ。この前とか渋々やっとこさ繋いでくれたくせに。
「金田先輩とは知り合いなの?」
「……小さい頃、遊んだことがある」
「へぇ、仲良いじゃん」
「別に」
「そうなの? だって二人で遊んだんだろ?」
大金持ちの子供同士の遊びだから……金塊で積み木とか一万円キャッチとかやってそうだな。うお、庶民のひねくれた考え方。
「……二人じゃない。三人だった」
「もう一人いたんだ。その子もやっぱお金持ち?」
「うるさい」
「痛いっ」
手を繋いだ状態でキックしてくる春日。器用だなおい。というか……廊下に人っ子一人いないんだけど、もうホームルーム始まってる感じ? てことは俺達は遅刻か……うわっ、また担任に怒られる。嫌だね~。まぁおかげで人目を気にせずに春日と手を繋げるから万々歳だけどね。なんか手を離すタイミングを逸したというか、ずっと繋いでいたいというか。とにかく嬉しいッス。
「でも急に結婚だなんてびっくりだよな」
「……」
「さすがはセレブって感じ。俺みたいな庶民とは住む世界が違うよ」
「……」
ま~た無視か。別にいいけどね。いつものことだし。お、教室前に到着。名残惜しいけど、手を離すか。
「今日も一日頑張ろうな。遅刻なんて気にするなよ!」
「……」
はい無視。べ、別にいいもんっ。寂しくないもんっ。
「おらぁ、遅刻かこの野郎」
こっそり扉を開けば担任は……いなかった。うおっ、ラッキー。
「担任は?」
「知らない。そして将也、いつから不良になったんだよ。親友として恥ずかしいよ」
「黙れライス太郎」
「英語!?」