第47話 学園祭 ~春日とボクと、時々、ボイン~
お店を米太郎に任せて、春日と二人でワイワイガヤガヤと賑やかな廊下を歩く。昼になってさらに人が増えた気がするな~。春日一人だと間違いなくナンパされるね。うーん……俺がいるから安心ってわけじゃないけどさ。とりあえず誰もナンパしてこない。
「どこか行きたいところある?」
「別に」
「お腹減ったから何か飲食店でいいかな?」
「……」
黙って頷いたので、とりあえず飲食店を探すことに。う~ん、そんなにがっつり食べたいわけじゃないし。なんか軽食的なやつ食べたいな………そうだ、ホットケーキを食べよう。てことで一組にレッツゴー。
「ホットケーキ食べようぜ」
「これ」
「……ん?」
「これ」
春日の視線の先には甘味処と書かれた看板が。え~、デザート系じゃ腹はふくれないよ。もっとふっくらしたやつ、そうホットケーキ!
「いや、これもいいけど俺の気分的にはホットケーキ」
「これ」
ちくしょうっ! この娘は一度言ったら聞かないからなー。しょうがない、甘味で腹を満たすか。中に入ると、女性客が大勢いた。ヤベ、なんか居心地悪い。
「ご注文は?」
「え~っと、かき氷のいちご味とロールケーキで」
「かしこまりました。少々お待ちください」
つーか春日すごいな。さっきドーナツ食べたばっかじゃん。女の子は甘い物に目がないの~的なやつですか。……ふと、隣のテーブルに目がいった。なんとなく見たことがあるなと思ったら、そこには午前中に米太郎と見た八十七点の女性がいた! まだいたんだなぁ。今朝と変わらず見事な巨乳だよな~。うわぁ、ムチムチだよ。でへへへっ……痛いっ!?
「ぐっ、なんだよ…春日……!」
いきなり脛蹴りはキツイって! そしてなぜかいつもより威力が強い気が……。
「デレデレするな」
え、顔に出てた? マジか。恥ずかしい。お姉さん、俺そんなやましい気持ちはないですからね。だから前かがみになって谷間見せてください!
「いやらしい目をするな」
春日にもう一発蹴られた。だから同じ箇所蹴られると超痛いんだって! これ絶対内出血してるね……。間違いない、患部が変な痙攣起こしてるもん!
「ぐおおおぉぉぉっ!?」
「お、お待たせしました」
テーブルで悶える俺に引いたのか、店員の生徒は引きつった笑みでかき氷とロールケーキを置くと、すぐに去っていった。気がついたら巨乳のお姉さんもいないし。あ~、もう一回拝みたかったな。Fカップはあったよね~、えへへっ。
「いやらしい目をするな」
「別に春日に向けてるわけじゃないし」
「うるさい」
「がっ!?」
またもや足に激痛がっ! さ、三発目は駄目だって。痛すぎて意識が薄れていく……こ、こらえろ俺。ぐあぁ、弁慶の泣き所! あの屈強なゴツイ体をしたおっさんでも痛いのだから平凡ボディの俺が耐えれるわけがない。俺の弁慶がこんなに可愛いわけがない! ん? なんかごっちゃ混ぜになった!?
「ぬうああぁ、とにかく脛が痛い!」
「うるさい」
「がっ……よ、四発目……! た、食べよっか」
「ふん」
あ~、かき氷ひんやりして美味しいわぁ。この冷たさを異様な熱を帯びた足に持っていきたいぐらいだ。足の痛みに堪えつつ、かき氷を完食。さて、次はどこ行こうかな。つーか午前中に火祭と一通り回ったから目新しいものはないと思うけどね。でも春日は初めてだろうし、付き合ってあげないと。
「文芸部とか行ってみない? 本とか売ってるよ」
「……」
春日の了承が出たので文芸部の教室へと向かう。春日はよく本読んでいるからな、きっと楽しいと思うよ。おかげで俺は図書室に何度も本を返しに行かされたよ。文芸部の教室、じっくりと本を吟味する春日。そういや火祭もこんな感じだったな。芥山の作品が好きとか言ってた。俺は読んだことないから、サッパリだけど。やっぱ頭の良い人は本を読むんだなあ。
「……これ」
「お、何か気になるのあった?」
春日の持ったぶ厚い本。何やら難しそうですね。ゲームのRPGなら『上級魔法の心得・その参』みたいな名前がつきそうだ。めっさ極太。読むのに四年はかかりそうだぞ。そして習得に十年かかりそう。もし『上級魔法の心得・その参』だったらの話だけど。
「五十円って安っ。買えばいいじゃん」
「……買う」
「ありがとうございました」
春日も満足したようだし、文芸部の教室をあとにする。無論、購入した本は俺が持っていますよ。普段から荷物持ちはやっているし、こんな重い本を女の子に持たせるわけにはいかないでしょ。
「ねぇ、体育館行ってみない? 演奏とかやってるよ」
やっぱ学園祭といえばライブでしょ。歌って踊って体育館内はヒートアップ、盛り上がりまくるってわけだ。ギター部の演奏とか観ててカッコイイもん。俺もギターやってみてぇ! とか思っちゃうんだよな。そして挫折! ギター難しいよぉ。
「……」
コクリと頷いてくれたので、体育館へゴー。最近の春日は質問するとちゃんと反応してくれるから助かる。黙って睨まれるだけじゃ何を伝わらないからなー。春日も成長しているんだなぁ、うん。パパ嬉しい。
「お父さんは嬉しいよ!」
「うるさい」
「蹴らないでぇ!」
「メンバー紹介するぜ。ギターのアキト! ベースのカズ! ドラムのテツキ! そしてボーカルの俺、タイガだぜ。よろしく!」
「わーっ!」
体育館内はめちゃめちゃ盛り上がっていた。人でごった返し、館内から溢れんばかりの歓声。そりゃ普通に歌上手いし、ちゃんとした演奏をしているし。なんだか本当のコンサートに来た気分。テンション上がるよ! ヒャッハー!
「前の方に行ってみよっか?」
俺はすごいノリノリだった。ただ、隣のこの方は違ったみたい。
「うるさい」
「え?」
「ここうるさい」
うるさいって……こんなもんでしょうよ。これが学園祭だぜ! と言っても過言ではない。ステージぎりぎりにまで詰め寄る生徒。熱気、テンションともに最高潮。これを否定されたら敵わないよ。学園祭って何?
「も、もうちょっと見ていこうよ。せっかくだし」
「嫌だ」
ぐあぁ!? バッサリ切られた! はぁ……これが春日なんだよなあ。一度言ったら聞かないからな。……しょーがない、来て二分程しか経ってないけど移動しますか……はぁ。
「じゃあどこ行く?」
「うるさくないところ」
学園祭でうるさくないところなんてあるのかよ。どこも人がいて活気づいているんだからさ。
「それなら、もう一回文芸部に行く? 春日、本好きだし」
「疲れた、休みたい」
注文の多い春日さん! 具体的な場所を言ってくれないと、どうしようもないです。ぐっ……痛っ……つーかこの間にも一分程の周期で春日のローキックがきてるんですけど……。痛みが蓄積してきた。ヤバイ、足限界。考えろ、俺。自身の足のために!
「な、なら二組のドーナツ屋に戻っろか」
「嫌だ、疲れた、休みたい」
そんなに休みたいならラブホにでも行きやがれ! あ~、もう! 他に思いつく場所なんてないよ。でも思いつかないと俺の足は破滅へと向かってしまう。くそっ、マジでラブホって提案してみようかな。………ん、そうだ。
「じゃあさ……」