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第45話 学園祭 ~火祭とボクと、時々、ダーツ~

「で、どこに行く?」

「気になるのがあったら入ってみようよ」


人で賑やかな廊下を火祭と二人で歩く。教室にドーナツと米太郎を置いてきてしまったが水川達が勝手に処理しといてくれるだろう。せっかく火祭が俺なんかを誘ってくれたんだ。思いきりエンジョイしないとね。


「そういえば一組は何やってんの?」

「ホットケーキ屋をしているよ」


ホットケーキか……二組はドーナツだし、一組と若干カブってるな~。確か三組は飲食店やってなかったし。


「お、タピオカジュースだって。入ってみようぜ」

「うん」






火祭と中庭でベンチに座ってタピオカジュースを飲む。こういう時に飲んだり食べたりするのってやたらと美味しく感じるんだよねぇ。どうしてだろ?


「ねぇ、体育館の演奏見に行ってみない? 面白そうだよ」

「……あ~、今は行かない方がいいと思う」


まだ遠藤達がすべっていることであろう。さすがに級友が恥かいているところをもう一度見に行く気にはなりません。


「おっ、兎月ー」


不意に名前を呼ばれた。振り返った先には駒野先輩が。無造作ヘアーにいつものヘラヘラした笑顔。俺の所属するボランティア部のトップ。


「駒野先輩じゃないですか。受験勉強はいいんですか?」

「学園祭で勉強する奴なんていないだろうが」


それもそうですね。三年生も今日くらいは羽を伸ばす的なやつですか。


「ところで兎月、ボランティア部は何もやってないじゃないか」

「文芸部なら作品を展示するとかできますけどボランティア部は何をすればいいんですか?」

「えーっと、ほら、こう、何かあるじゃん」


具体的な案は出ないんですね。確かにボランティア部でも学園祭で何かやろうと会議はしたものの良い案は浮かばず、参加してもどーせ後片付けとか押しつけられるんじゃね? と最終的にはその結論に至り参加を断念したのだ。ボランティア部はパシリじゃねーっつの。


「さらにところで兎月……彼女とデートとはなかなかやるじゃないか」


火祭と俺を交互に見て駒野先輩はニヤニヤと笑ってきた。ちょ、やめてくださいよ。冷やかしご勘弁。火祭は彼女じゃありません。そりゃ彼女だったら万々歳の拍手喝采ものだけど俺に火祭はもったいないでしょ。ヘタレな俺より火祭には似合う殿方がいるってわけですよ。でもその殿方許さねぇ……! 火祭の彼氏だぁ? 一発ぶん殴ってやる。


「そういう先輩は一人で回っているんですか?」


見たところ、一人だけみたいですけど。


「トイレ行ってたら連れに置いていかれてな。じゃ、学園祭楽しめよ」


ニヤニヤ顔のまま駒野先輩は去っていった。……今考えると、確かにこの状況ってデートなのかな…………うぇ!? デート!? マジか俺、マジですか俺ぇ! やべぇ、そう考えると緊張してきた……!


「あ、あああのききき今日は快晴日和ですこぶる元気で」


ぐあぁ!? テンパりすぎだ俺っ! 落ち着け、落ち着くんだ。クールダウン、そうだ冷静になろう。


「……」

「ひ、火祭?」


なんでそんな顔が赤いんですか? さっきの駒野先輩の冷やかしはそんな気にしなくていいよ。あの人ノリと気分で会話する人だから。あ、俺と付き合ってるみたいな誤解受けたから? そ、それはごめんね。やっぱり嫌だよね、勘違いされたら。


「とりあえず移動しよっか」

「う、うん」


……なんだろ、この空気。なんかきごちない感がハンパないんだけど。う~ん、よくよく考えると、どうして火祭は俺なんかを誘ったのだろうか……。二人きりでとなるとデートってことだし。も、もしかして火祭は俺のことが好き……なわけないよな。さっきの教室での反省を活かすんだ。そういった勘違いが後に大きな恥を呼ぶことになるぞ。単に火祭は俺に気を遣ったのだろう。どうして気遣ったのかは知らないけど。


「おぉ! 兎月と火祭さん! 良かったらうちの教室で遊んでいけよ!」


何気なく廊下をぶらぶら歩いていると周りの騒音にも負けないくらいデカイ声が俺達の名前を呼んだ。この大声はあいつに違いない。


「どうしたよ山倉」


とある教室から顔を出しているのは同じボランティア部の二年生の山倉だ。特徴、声がデカイ。それだけ。


「うちのクラスで簡単に遊べるゲームやっているんだ! ちょっとやっていけよ!」


そうか、三組はアトラクションをやっているんだったな。山倉は三組だし。


「寄ってみよっか?」

「うん」


教室の中には輪投げ、ボール投げ、ダーツとどれも投げる系のゲームばっかりだった。単一だなおい。もっとバラエティに富んどけよ。


「それぞれのゲームで得点をつけるんだ! 三つのゲームの合計点に応じて、貰える賞品が変わるからな!」


おぉ、結構面白そうじゃん。凄いな三組。


「ちなみに全てのゲーム終了時に係員の誰かとじゃんけんをしてもらう! 勝てば得点はそのまま、あいこで得点半減、負けたら0点になるから気をつけろよ!」

「おいおい!? 何最後にとんでもルール設けてるんだよ。じゃんけんに勝っても得点そのままって……せめて倍にしろよ」

「甘えるな兎月! そんなことしていたら皆で用意した賞品がすぐに底をつくわ! ここはシビアな業界なんだよ!」


まあ無料でやってるみたいだし、しょうがないよな。さすがは学園祭クオリティー。


「んじゃ、やるよ」

「ノリノリだな兎月ぃ! 最初のゲームは『リングスロー』だ!」


ノリノリなのはお前だろ。そして名前。輪投げを簡単な英語に変えただけじゃないか。


「投げれるリングは三つ! 棒の距離、長さによって得点は違うからな! 高得点目指してファイト!」

「火祭、先に投げていいよ」

「私は後でいいよ。君が先に投げてよ」

「俺は火祭に投げてほしいの。ほら、頑張って」

「う、うん、分かった」


ちなみに火祭が教室に入ってきた時点で三組の男子がざわつきだした。もちろん良い意味で。火祭は今や二年を代表する人気生徒になっている。もし男子で女子の人気投票をしたら間違いなく上位だ。今だって火祭とカップルみたいなやり取りをしている俺に妬ましげな視線が集中している。ははっ、かなりのアウェー感。


「え、えいっ」


火祭の可愛らしい掛け声に男子達が、おぉ!と息を呑む。こいつら、アイドルを見るような目で火祭を見てるよ。火祭の投げた輪は緩やかなカーブを描いて一番手前の棒に入った。


「イエーイ火祭さん! お見事、三ポイントっ!」

「イエーイ!」


山倉に続いて他の男子も歓喜の声を上げる。こんなに盛り上げてくれるんだな。……いや、火祭だからか。次に俺が投げた輪っかは見事に一番遠い棒に入ったのにさっきみたいな大歓声は起きなかった。パラパラと起こる消えかけの拍手。


「はい二十ポイント」


嘘、山倉の声が小さい!? 元気な大声だけがお前の取り柄だろうが! くそっ、差別だよ。


「やったねっ」


それでも隣で火祭が手を叩いて喜んでくれているから気にもならないけどねっ! 火祭可愛いっ! 嫉妬の矢が体中に突き刺さる中、次のゲームはボール投げ。山倉曰く、


「その名も『一球入魂クラッシュボール』!」


二メートル程先には空き缶が積まれてある。それを倒した数で得点が決まるらしい。投げれるのは一球のみ。


「火祭が投げていいよ」

「でも君の方が上手そうだし、君が投げた方が……」

「火祭がたくさん倒してくれたら、すっげぇ嬉しいんだけどなー」

「が、頑張ってみる!」


一生懸命な姿が超可愛くてもう十分にすっげぇ嬉しいんですけど。そしてどっかから俺に向けて舌打ちが聞こえたよ。火祭人気すげー。


「それじゃ火祭さんのチャレンジです! ………この一球は絶対無二の一球なり!」


山倉、もしかしてこのゲームの度にその台詞言ってるのか? 気合いの入れようも本家みたいだし。


「え、えいっ」


火祭の投げたボールは見事、十個積まれた空き缶のうち六個を倒した。巻き上がる歓声。吠える松お、じゃなくて山倉。


「六個×五ポイントで三十ポイント獲得ー!」

「やったな火祭っ」

「うんっ」


喜ぶ火祭の頭を撫でたい衝動に駆けられたが、彼氏でもない俺がそんなことするのは良くないので我慢した。偉いぞ、俺。


「最後のゲームは『ダーツ』だ!」


なんで最後は普通のネーミングなんだよ。なんか考えろよ。


「投げれるのは三投! さあ高得点目指してファイト!」


的は中央部分が十点で、そこから円状の白黒のストライプ型で外になるごとに九点、八点…か。


「火祭、俺に任せてくれ」

「え?」

「あっ! ズリーぞ兎月! お前がダーツ激上手いのは同じ部活の俺がよく知ってるぞ!」


ちなみにダーツ部でない。ただボランティア部の部室にダーツがあるといっただけだ。そこで一年間磨いた腕前は伊達じゃないぜ!


「パッジェロ、パッジェロ!」


これまでにない大声で邪魔しだした山倉。はっ、その程度の野次で俺の集中は崩れないぜ。


「ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん!」

「くっ、お前は将也・サーストンか!」

「おらおらおらぁ!」


十点、九点、九点! ふっ、まあまあかな。


「凄いよ!」


火祭も嬉しそうだ。ダーツ上手くて良かったぁ!


「お、大人気ないぞ!」


山倉になんて言われようが関係ないね。とにかく火祭から好印象持たれるのが何よりも大事なのだ! ということで全てのゲームが終了。俺達の総得点は、


「な、なんと八十一ポイントぉ!」


それがどんだけ凄いのかは分かんないけど、とりあえず喜んでおく。


「では最後にじゃんけんチャーンス! 勝ったら得点はそのまま、あいこで半減、負けたら0点! 勝負は一回! さあいってみよう!」


これのどこがチャンスだ。なんのメリットもないぞ。


「火祭いってきて」

「私でいいの?」

「あぁ。でな、出す時に……」

「……うん、分かった」

「さあ、挑戦するのはどっち!?」


山倉の問い掛けに火祭が前に出る。と同時に歓声が起こる。やっぱ火祭大人気だな。俺だったら遠藤のステージ並に白けていたことだろう。


「火祭さんでも手加減はしないからね! 最初はグー!」

「山倉君がグーを出してくれるとすっごく嬉しいなぁ」

「じゃんけ、うえぇ!? ちょ、いや、そんな……あ!」


じゃんけんポン。火祭パー、山倉グーで勝負は決した。



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