第43話 仲直り
佐々木米太郎(ささきこめたろう)
好きなもの 野菜全て、漬け物、お米、兎月、水川、火祭、春日、可愛い女の子
嫌いなもの イケメン、モテる男子、バレンタイン
兎月のクラスメイトで背がちょっと高い男子生徒。弓道部。いつも兎月とつるんでおり、ボケては兎月にツッコミを入れられる。その姿から周りから野菜コンビと呼ばれ、米太郎自身すごく気に入っている。野菜が大好きで漬け物をぎっしり詰め込んだ漬け物タッパーを常備している。基本ウザく、空気の読めないことも多々あるが、やる時はやる。
人でごった返す賑やかな食堂。おばちゃんの愛情が詰まった美味しい学食を頬張りつつ、級友と楽しく雑談しているなんとも学生らしい光景。どこのテーブルでも笑顔が満開に咲いている。……そんな楽しげな食堂のある一つのテーブルでは不穏な空気が漂っている。そこのテーブルだけ異様に空気が重たく暗く気まずさが纏う。……まあ、そのテーブルに座っているのは俺と春日なわけだが。
「おっ、兎月。今日は学食な……じゃあな」
あまりの空気の悪さにクラスメイトが話しかけるのをやめる程だ。それもこれも目の前のこいつが原因だ。
「……」
いつまで睨みつけてくるんだよ。息が詰まってしょうがない。というか空気が重い。しんどい。面倒くさい。
「……」
「……」
もう嫌だよ。黙って人を睨みつけるなんて怒ってる時にする態度だぜ。俺が何をした? あなたのマナーの悪さを指摘しただけでしょうが。俺が怒られる筋合いも理由もないっての。
「……」
「……」
……これずっと続くの? つーか何か話せよ。あなたが俺を呼びつけたんでしょうが。なのに何も言わないって……意味分からんというかふざけるなというか。
「……」
「……」
俺からは絶対に話しかけないからな。とことん耐えてやる。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
………………………………………………。
「ね、ねぇ。あそこの二人なんなの?」
「こ、怖いんだけど……」
あまりの沈黙っぷりに周りが引き始めた。俺だって椅子を引いて、この場から逃げだしたいさ。
「……兎月」
「……ん?」
やっと口を開いたか。用件があるならさっさと言いなさいよ。
「……」
「……」
「……」
「……なんだよ?」
ためるほどの重大なことか? 言えばジュースくらいすぐ買ってきてやるよ。一応はあなたの下僕やってますから。
「……怒ってる」
「はぁ?」
怒ってる? 俺が? いやいや、怒ってないよ。逆じゃないの?
「……朝から怒ってる」
「いや怒ってないよ」
「……怒ってる」
睨みつけてくるあなたの方がよっぽど怒ってるじゃんか。
「メール無視した」
「返信した。『忙しい』って。俺は無視なんかしてません」
「……怒ってる」
な、なんだよこの無限ループっ! 終わりがないぞ?
「だから怒ってないって。何をどう見たらそんな結論に行き着くんだよ」
「……」
「はいまた黙る」
「……怒ってる」
はいまたそれ! はぁ……マジで終わらねぇよ。昼休みが終わる前に終わらないぞこれ。俺が怒ってるねぇ………。心当たりは……今朝のことだろうな。いやいや、あれは春日が悪いだろ。マナーの悪さを指摘して、うるさいって言われたら、そりゃ怒るだろ。…………あ、俺怒ってたのか。
「……あ~、今朝のことな」
「……そ」
「あれはさ、春日がちょっと非常識だったから……」
「……」
「あ~……ごめん」
ぐあぁ! 謝ってしまった。俺は悪くないはずなのにぃ!
「……」
「でもあれは俺なりの注意だったんだよ。他の乗客の席を奪ったら駄目だよ。空いてなかったら立たないとさ。それがルールだし。いやもうルールとか以前に常識なの」
「……」
……黙ったままじゃ、話を聞いているかどうか分からないんだけど。
「あ~………俺はさ、春日に普通でいてほしいんだよ」
「……」
「春日に他の人から悪い印象を持たれたくないんだ。春日と一緒にごく普通に通学したいから」
「……」
「だからさ、もうあんなことはやめような?」
「………分かった」
おぉ!? 通じた! 春日に通じたよ! 話せば分かるじゃんか。
「それならいいんだ。俺が言いたいことはそれだけ。春日は何か言いたいことある?」
「朝……無視した」
あれは次に命令されたら逆らえないと直感したから急いで逃げたんだけど……。
「あれは普通にごめんなさい」
「……許さない」
うえぇ!? 許さないってなんスか!? そんなキャラでしたっけ!?
「じ、じゃあどうしたら………そ、それなら今度何か奢るよ」
「……」
「ほら勉強教えてくれたお礼も兼ねてさ、テスト終わったらどっか遊びに行こう。ね?」
「……」
や、やっぱ駄目か……。
「……分かった」
………え……いいの!? 春日さんいいんですか? 俺ですよ? 下僕の俺なんかとですよ?
「い、いいの?」
「うん」
それなら俺も大喜びだけど、ちょっぴり意外だったなぁ。
「……」
「もう怒ってないからそんな睨まないでよ。俺が悪かったって。ホントごめん」
「……別に」
ふぅ、なんとか和解できました。
「ねぇねぇ、あそこのテーブル良い感じだよね」
「うんうんっ」
ちょ、周りの人達冷やかさないでよ。俺なりに頑張って作った空気なんですから。