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第42話 初めての喧嘩

水川真美(みずかわまみ)


好きなもの かき氷、フルーツ、ボランティア活動、正義感の強い人、優しい人


嫌いなもの ネバネバしたもの、ウザイ米太郎


兎月のクラスメイトで一年生からの付き合いで仲良し。ショートカットで小さな顔の可愛らしい女子生徒で元気で明るい性格。そのためクラスから絶大な人気と信頼を誇るクラスの中心人物。涙もろい一面もあり、水川を泣かした奴はクラス全員を敵に回すことになる。


「おはよ、春日」


バスの扉が開き、春日が乗車してきた。ちょいキツめのつり目が俺を見つめる。おぉ~、今日も無表情。


「……おはよう」


無愛想な挨拶だが、してくれるだけマシな方だ。つまり今日は機嫌が良さそうってわけ。春日はバスに乗ると車内を見回す。残念ながら席はどこも空いてないですよ。すると空いてもない後ろへと向かう。……う? あれ……ちょ、これ……まさか……!?


「そこのアンタどき」

「はいストップ!」


強引に席奪っちゃ駄目だって。まだそれやってたのかよ。出会った時と一緒だなおい。春日との出会い、それは春日の一言からだった。「アンタ、そこの席譲りなさいよ」だ。度肝抜かれましたよ。そして今もこのお嬢様は同じことをしようとしているのです。ちょ、駄目だって。席を奪うのは駄目なんです。


「……邪魔」


邪魔だろうが何だろうが一般常識的に考えてあなたのやっている行為は異常ですよ。止めに入って当然だい。


「ほら、立とうぜ」

「うるさい」


春日の肘打ちが鳩尾に入ったが踏ん張れ、俺。俺以外にこの非常識お嬢様を止めれる奴はいないのだから。俺がやらなくては!


「ぐっ……ほ、ほら鞄持つから。な、立とう?」

「……」


そんな睨みつけないでよ。びびるって。今にもローキックが襲ってきそうで両足ブルブル震えちゃってるよ。はぁ……なんでこのお嬢様は他人の席を奪うのかねぇ……。親の教育だとしたら、春日父のせいだな。社長になった程の人だ。きっと「いいか恵、他人を引きずり降ろしてでも自分の利益を得ることが成功に繋がるんだぞ」とか言ってそう。そして春日は他人を引きずり降ろして席を取る、と。……なんか意外と当てはまってそうで怖い! おいおい、やっぱ春日父のせいなんじゃない!? 


「……」


つーかまだ睨んでくるし……。ここでどうにかして言いくるめないと他の人に迷惑かけてしまう。俺が何とかしなくては。


「あ~……俺、春日と二人並んで立ちたいなぁ。どうか下僕の俺なんかの願い聞いてくれたら嬉しいんだけどな~、なんて」

「……」


数秒の空白の後、こっちを睨むことをやめて手摺りを持つ春日。やっと分かってくれましたか。あと他の乗客さん達……そんな英雄を讃えるような目を俺に向けないでください。今にもスタンディングオーベーションが起こりそうな車内。勘弁してくださいよ。


「……はぁ」


ちょっとこれは後で注意しとかないとな。いくら春日でも社会の常識は守ってもらわないと。






バスを降り、春日と二人で学校へ向かう。無論もちろん俺は春日の鞄も持つ。そうさ、俺をパシるのはまだいい。それは俺がただのヘタレだし、俺が我慢すればいいこと。しかし他の人は違う。他人にも同じようなことして通用すると思うなよ……春日。


「……なぁ春日、いつもあんなことしてるのか?」


あんなことというのは他の人の席を奪おうとしたことだ。


「……」

「あんなことしたら駄目だからな」

「……なんで」


なんでって……世間一般的に考えなさいよ。庶民のフィルターで見たら、あなたの奇行は浮きまくりですからね。


「他の人のことも考えないと。皆さんも朝早くから通勤してるんだからさ」

「うるさい」

「いやあのね、あなたのワガママで人を振り回したらいけないの。皆平等が憲法でも説かれているでしょ」

「うるさい」

「痛い」


蹴ってきたよ。あー痛い。朝から蹴ることないでしょうよ。


「……だからさ、席を譲るのは良いことだけど席を奪うのは道徳的におかしいの。マナーとか以前に常識的にそんなことしたらいけないの」

「うるさい」


……なんだよこの人は。さすがに怒るぞ。


「あのな、お前の自分勝手な言い分が何でも通じると思うなよ。お嬢様でも並の常識ぐらいは身につけろ」

「うるさい」


そう言ってまたも俺の足にローキックをお見舞いする春日。……こいつマジでムカつく……! いやいや、駄目だぞ俺。いくらムカつくからって女の子に手を上げちゃいかんよ。それしちゃあ男失格。ほら、よく言われたじゃん。男は常に紳士であれ。誰かの教えじゃないか。誰かは知らないけど。


「……」


そして俺を睨む春日。はぁ……なんで俺が睨まれるんだよ。俺が悪い? ぜってー違う。俺は何も悪くない。悪いのはマナーの悪いこの悪い春日。それを注意して睨まれるって……納得いかない。はぁ………なんかもうどうでもいい。色々と言ったけど、このお嬢様には何も伝わってないし。とやかく言うのも疲れた。


「……じゃあもういいよ。勝手にしろ」


もう知らん。席奪うのも何するのも春日の勝手だ。俺はもう知りません。春日から離れ、早足で学校に向かう。鞄はちゃんと教室に持っていってやるから安心しろ。


「待ちなさい」


だ、ダッシュだ俺! 次命令されたら間違いなく服従してしまう。情けないがそれが俺の性質らしい。それはやめて。今だけはやめてくれ。今は春日の命令に従いたくない。ここで春日に従ってしまうと俺の言ったことが全て否定されそうな気がする。ふざけるな、それはおかしい。てなわけで全力疾走で校舎へと入りこむ。へっ、ちょっとは一人で反省なりなんなりしやがれ。











「あらら? 将也、どっか行くのか?」


昼休み、弁当を取り出す米太郎にそんなことを言われた。相変わらず今日も漬け物タッパーは健在だ。そんなに漬け物食べたいのかよ。野菜フェチが。


「トイレ」

「お前今日ずっとトイレ行ってるじゃんか。新型の腹壊しウイルスにやられたか?」

「ウイルスって分かってたらトイレじゃなくて病院行ってるわ。米太郎もついてくるか? お前は精神科だけどな」

「なんて辛辣なツッコミ!」


別に腹壊したとか便意があるとかで毎時間トイレ行ってるわけじゃない。しっかりとした理由があってトイレに通っているんだ。正確には逃げこんでいるだが。その理由は春日。休み時間になる度に春日からメールがくるわ、無視したら本人がクラスに殴り込んでくるわ。故にトイレにエスケープというわけだ。米太郎によると春日は授業が終わると毎回教室に来てるらしい。間違いなく俺を探している。俺に安息の時間はないのだ。


「どうして春日さんから逃げてるんだよ。喧嘩中か?」


んだよ、気づいてんのかよ。だったら新型ウイルスのボケいらなかったよな。俺のツッコミ返しやがれ。


「喧嘩してるわけではない。俺が一方的に避けているだけ」

「春日さんが可哀想だろうが。あんな可愛い彼女のどこが不満なんだよ」


だから付き合ってないっての。いい加減にしろ。


「お前と話している暇はない。じゃあな、春日が来ても俺についてはノーコメントでな」

「お前は韓流スターか」


どんなツッコミだ。よく分かんないぞ。とにかく急いでトイレへと駆け込む。

……はぁ。まったく、春日一人に何をびくびくしてんだ俺は。ヘタレにも程がある。別にびくびくはしてないけどさー……とにかく今は春日と会いたくない。


「ん? ……また春日からメールか」


トイレの個室で携帯をいじっていたら春日から新着メールがきた。しつこいなこいつも。どうせパシリとかなんだろ。


「え~っと……『話がある。今すぐ来なさい』……誰が行くかボケェ」


行ったらローキックの嵐だろうが。そんな蹴られると分かっていて行くほどマゾじゃないんでね。ったく、ふざけるなって話だ。今朝のことに関しては俺は全く悪くない。というか春日が圧倒的におかしい。なのに何言っても通じないし、睨んでくるし。もう俺は関わりたくない。あそこまで理不尽だとは思わなかったね。


「は、入ってますか?」

「あ? だったら何?」

「こ、この声……兎月か? こ、個室どこも空いてなくて……。早くしてくれないか?」

「知るか。そこで野垂れろ。そしてテメーごと水洗されろ」

「と、兎月の機嫌が悪いー!」


クラスメイトの涙声が遠くに消えていった。にしても暇だな……腹も減ったしパン持ってくれば良かった。……いや、昼飯をトイレで食べるなんて陰気な奴になりたくないや。いじめられっ子みたいになっちゃう。とりあえず我慢すっか。


「おい将也、いるんだろ?」


む、この声は米太郎。


「おう、いるぞ。どうかしたか?」

「水川が呼んでるぞ。早く出てこい」


水川が? 何か用事あるのか……いや駄目だ。今出たら確実に春日に見つかってしまう。


「用があるなら、そっちが来いって伝えてくれ」

「ここ男子トイレだぞ」


そんなことは百も承知だ。それを乗り越えることもいとわない用件じゃないなら、たいした用事じゃないんだろ。


「あと、三年生の駒野先輩だっけ? ほらボランティア部の先輩さん。その人も来てたぞ」


え、駒野先輩が? わざわざ二年のクラスに来るなんて……。


「分かった、すぐに行く」


ドアをオープン。駒野先輩が来るなんて何かあったのだろうか……急がなくては。慌ててトイレから出る。そして右足に強い衝撃がきた。ぐ、ぐあぁ!?


「な、何しやがる米太郎……!」


しゃがみこんで負傷した右足を両手でおさえる。痛ぇ……蹴るなよ。


「俺じゃないぞ」

「じゃあ誰だ……よ………うん」


顔を上げると左から順に米太郎、水川、そして春日が俺を見下ろしていた。こ、のお米野郎……!


「は、ハメたな米太郎。お前のことは親友だと思っていたのに」

「勘違いするなよ。俺は水川の手伝いをしたにすぎない」


はぁ?


「恵が私のところに来てね、兎月を呼んでほしいって言われたから佐々木に頼んだの」


「つまり俺は春日さんには何も言ってない。将也との約束は守っているぜ?」


そんなの屁理屈じゃないか。ふざけんじゃねぇ。


「水川の言う通り、駒野先輩の名前を出したらすぐ出てきたな」

「でしょ。兎月は先輩には礼儀正しいからね」


水川ぁ……!


「俺らの関係はその程度だっ痛い!」


同じ箇所にローキックとはえげつないぞ!


「ついて来なさい」

「いや、ちょっとお時間を……」

「ついて来なさい」

「分かりました」


チェックメイト。もう逃げられないね……はぁ。


「ありがとね真美」


ちゃんと水川にお礼を言って歩きだす春日。いつの間にか春日と水川は名前で呼ぶ仲になってるし。


「将也、イチャつくのはいいけどよ。他人に迷惑かけるなよ」

「これは桜まずいかもよ……」


黙れ米太郎。そして火祭は関係ないだろ水川。


「どこに行くんだか……」


無言で歩き続ける春日についていくしかないんだよな……はぁ。



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