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第40話 今日も勉強始めるまでが長い

春日恵(かすがめぐみ)


好きなもの 動物、読書、甘いもの、家族、兎月?


嫌いなもの 爬虫類、怖いもの、辛いもの、ナンパ、しつこい米太郎


本作のヒロイン。長髪の艶やかで優美な黒髪と端麗な顔立ちにちょいキツめのつり目が特徴的な美少女。無口で無表情。バスの中で兎月と出会い、彼のヘタレ体質に気づく。そこでの出会いから兎月を下僕としてこき使う。最初は下僕としか見ていなかったが誘拐事件で助けられて以来、兎月のことを意識している様子。兎月に対してはよく暴力を振るう。兎月曰く、蹴るのが上手くなってきている。兎月とはよく会話するが、他の男子には壁を作って拒絶している。男子人気は非常に高いが誰も近寄せない。基本的に男子が苦手。

「ここが俺の家です」

「……」


出ました無反応。春日が良い反応したことなんか俺の知ってる限りじゃ、ほんの数回だ。なのでもう気にもならないけどさ。無反応くらいだったら昨日の米太郎の匠気取りのリアクションの方がまだマシだ。僅差だけど。


「……兎月」


そんなノーリアクション芸人、春日が気になった物があったらしい。俺の背中を軽く小突いてきた。


「……あれ何?」


春日の視線の先、そこには半壊した自転車。やっぱ目に入るよね。前輪は大きく歪み、チェーンが………いやもう昨日も言ったからいいや。省略します。


「じいちゃんが事故ってさ。じいちゃんは無傷だったけど自転車はぶっ壊れてたんだよ」


なんかデジャヴ。昨日も火祭達にまったく同じ説明をしたからなー。そして春日の反応は、


「……アンタ、自転車通学できないじゃない」

「ん、まぁそうだよな」

「……」

「……」


あれ……春日さん? どうし、


「た痛っ!」


不意打ちローキックっ。ぐっ、痛い……。自分ん家の玄関前で跪ずくのは初めてだよ……悲しい。


「マジいてぇ……」

「ふん」


どうして春日が怒ってるんだよ。もう意味不明。誰か説明プリーズ。


「と、とにかく中入ろっか」


背中に春日の連続パンチがやりやまない。このままではマズイ。まだ不良に蹴られたところが疼くってのに、そこを殴打されちゃあ敵いません。春日にとって何が気に障ったかは不明だが急いで家の中に逃げこむ。


「ただいま~」


リビングには母さんのいる気配がするが出迎えてくれる気配はない。寂しいねぇ、磯野家を見習ってほしいものだ。


「勝手に上がっていいよ」

「……お邪魔します」


春日の声がリビングに届いたのであろう、母さんがバタバタとやって来た。今更かい。


「おかえり将也~。あら、その子は? お友達?」

「知り合い」


俺が下僕として仕える主人です、とは言いたくない。春日が喋る前に素早く口を挟む。ぐっ……春日が母さんには見えない位置で背中を抓ってきたが我慢だ。痛いけど我慢だ。ああ超痛い。嗚呼、いと痛し。


「あらぁ綺麗ね。まるでお人形さんのようだわ。お名前は?」

「春日恵です。よろしくお願いします、お母様」


な、なんだその愛想よい態度はぁ!? いつも無表情のくせして今は微笑んでるぞ!? そのキャラなんじゃい!


「まぁ、あなたが春日さん。将也から話は聞いてるわ。とっても可愛い娘がいるって」


母さん!? そんなこと一言も言ってないよ! 勝手に捏造しないでぇ!


「いえいえそんな。お母様の方が若々しくてお綺麗ですよ」


マジかよっ!? 春日がお世辞言いやがった! 大人な対応しやがって……愛想よくできるなら俺にもそうしてよっ! パッと明るい笑顔でうちの母さんとお話しする春日。こんなの春日じゃない。こんなの俺の知っているあの性悪理不尽暴力お嬢さま春日じゃないぞぉ!


「あらぁ嬉しいわ。どうぞ上がっていって。あと、うちのお父さんクビにしないでね」


サラッと何言ってんだよ。息子の同級生に言う台詞じゃないでしょうが。恥ずかしいよ。そして惨めです。


「ここが俺の部屋」


母さんはリビングへと戻り、俺は春日を部屋に案内。ニコニコ笑顔だった春日も俺と二人きりになった途端いつもの無表情。そして返事の代わりに脇腹を抓ってくる。地味に痛い。ああ痛し。嗚呼、いと痛ゐ。


「中で待っていてね。下で100%オレンジジュース持ってくるから」


まだ昨日の残りがあったはず。お嬢様にお出しするお飲みものとしては力不足この上ないかもしれないが、我が家では最高級のおもてなしの品なのだ。庶民なめるなコンチクショー。キッチンで母さんから100%オレンジジュースを受け取り、部屋へと戻る。


「お待たせ」


ドアを開けると、ベッドに腰かけた春日はアルバムを開いていた。どことなく既視感! 昨日あたりに同じ光景を見た気がするんだけど!


「ちょ、勝手に見ないでよ」


慌ててアルバムを取り上げようとしたが、春日は返してくれない。それどころか横っ腹にパンチを入れてきやがった。痛い! があぁ、痛いよぉ!


「ぐおおぉ!?」

「……ねぇ」


床にダウンして涙目で腹をさすっていると春日が話しかけてきた。


「な、何か?」

「これ……アンタ?」


そう言って春日はアルバムの一部分を指差した。そこには懐かしき小学校時代の俺がいた。満面の笑みでハムスターの餌箱を持っている。なぜにハムスターの餌箱を持っている!? どうした昔の俺よ、何があった!?


「そうだよ」


というかこれ卒アルだし。下に名前書いてるから分かるじゃん。そして卒アルなのにどうしてハムスターの餌箱を持っているんだ俺よ!?


「……」


じぃーと写真を凝視する春日。心なしか反応が良い気がする。なぜだ? なぜ反応が良いんだ?


「本当にアンタ?」

「だから俺だってば」


何を疑ってんだよ。そんなに顔違うか? ほら、なんとなく面影そっくりじゃん。兎月君だねー、と言われること間違いなしだ。


「ほら、アルバムはもう仕舞って」

「うるさい」

「そう言わずにさ。勉強しに来たんでしょうが」

「……」


ようやくアルバムを閉じたか。はぁ、何を考えているか分からん。今日は意味不明なことばかりだな。


「じゃあ始めようと思うけど春日は机の方がいい? 俺の机使ってくれていいよ」


お嬢様だし、テーブルに座るよりはいいはずだ。俺のチープな薄っぺらい座布団じゃ申し訳ない。セレブの春日に釣り合わせるにはホワイトタイガーの毛皮を買ってこなくてはならない。いや、狩ってこなくてはならないだ。


「……アンタは?」

「俺はテーブルで勉強するよ」

「……」


すると春日は意外にも座布団の上に座った。机じゃなくていいのか。意外だな。


「なら、俺は机で……あう!?」


クイック良く春日の放ったクッキーの空き箱は俺の頭に直撃した。角っこハンパなく痛い! 思わず上ずった声が洩れてしまった。


「な、何すんのさ」

「座りなさい」


……俺もテーブルで勉強しろってことか。狭くなるけど、いいの? いやまぁ二人ぐらいなら十分スペースはあるけどさ。


「じゃあ、はい」


春日と向かい合うようにして座る。試験勉強するだけだよね? ドキドキするけど……べ、別に緊張なんてしてないんだからねっ。うわー、最近ツンデレ使いすぎだな。反省しなくては。


「始めましょう」

「う、うん。分からないところあったら聞いていい?」


コクリと頷く春日。


「じゃあ、ここ!」

「……いきなり」


こんな馬鹿ですいません。そしてデジャヴ!











「このときは商をP(x)、余りをax+bとおいて……」

「お~、なるほど」


さすがは一組だけあって春日は頭良す! 教え方も上手いし勉強はとても順調っ。


「えっと、ここは?」

「これはここをこうして……」


え? う~ん、難しい……。計算が複雑だ。よく見とかないと、ついていけなくなっちゃう。ぐいっと顔を寄せて春日の手元を覗いていると……


「痛っ」


シャープペンシルの先で腕を刺された。鋭い痛み! 駄目だよ、シャー芯は時として凶器になるんだから。


「な、なんだよ急に。何かしましたか?」

「近い」


……あぁ、確かに。あまりに頻繁に質問していたから知らないうちに春日の正面から真横に接近していたのだ。そりゃもう肩と肩が触れるぐらいに。ドキッとするよね。春日からしてみればゾクッとしたのかもしれないけど。


「そ、それは申し訳ない」


慌てて春日から離れる。でも勉強に夢中だったということでご勘弁を。シャー芯をこっちに向けないでね! まだ刺された箇所が痛むから。


「遠い」

「は?」


最初の正面の位置に戻っただけですけど?


「教えにくい」


……まあ教えてくれる春日がそう言うなら、そういうことなのでしょう。春日の左側へとちょい移動。近過ぎず離れ過ぎずの距離だ。


「数学は苦手でさー」

「そ」

「春日は得意?」

「普通」


おぉ、ちゃんと答えてくれた。いつもは「別に」だから、今の返事は超感激!


「じゃあ、次はここ!」

「ここは……」



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