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第39話 お久しぶり下僕生活

兎月将也(とづきまさや)


好きなもの ゲーム、テレビ、メロンソーダ、あんパン、掃除、可愛い女の子


嫌いなもの 勉強、担任、いじめ、ウザイ米太郎


一応、本作の主人公。身長、体重ともに平均値のごく普通の高校二年生。顔はそこそこカッコイイらしい。ボランティア部に所属しており、次期部長として人望もちょっとだけある。誰に対しても明るく優しくて普通に良い奴。しかし、春日の命令には有無言わず犬のように従ってしまうというヘタレ体質を持っていて、そうして春日に振り回される下僕生活が始まった。

勉強会の翌日、今日は木曜日。試験もあと四日後と迫ってきているが俺に焦りはない。昨日みたいに火祭達に教えてもらったら余裕で間に合うだろうし、土日もあるからな。土日があると気持ち的に余裕が持てるんだよね~。土日最高。よし、今日も勉強会するか!


「ごめん兎月。今日は小学生の妹の面倒見なくちゃいけないから勉強会行けないの」


あ~、そうなんだ水川。妹は大事にしないとね。


「お母さんのお見舞いに行くから私も今日はちょっと……ごめんね」


そ、そっか。火祭も大変だね。お大事に。


「今日は二人きりだな将也」

「今日は勉強会中止だ」

「なんでだよ!?」


米太郎と二人で勉強しても、どうせ遊んでしまいそうだし。


「わざわざメモリーカード持ってきたんだぞ。俺の最強データ見せてやるよ」


ほら遊ぶ気満々! やっぱり駄目だ。こいつと二人きりだと絶対遊んでしまう。明日の朝までコントローラを離しそうにない。テスト前だってのにオールで遊ぶのはマズイよね……。赤点コースまっしぐらだ。ゲームの世界を救えても、現実の俺らは全く救われない。


「じゃあな、米太郎」


しょうがない、今日は一人で勉強するか。俺一人でどこまでやれるかは分からないけど。分からないところはチェックして明日とかに水川に聞くことにしよう。ギャーギャー喚く米太郎を無視して、教室を出る。ガラリと扉を開け………って、あの……。


「……」

「……」

「……」

「……春日、さん」

「……」


ドアの前で春日とばったり遭遇してしまった。どうやら二組の教室に入るところだったようだ。キツめのちょいつり目が俺をジロッと睨む。普通にたじろぐわ。そんな目で睨まれたら。蛇に睨まれた蛙よろしくぅ。


「あ~……えっと、うちのクラスの奴に用事? 呼ぼうか?」

「帰るわよ」


相変わらずの一方通行での会話。俺の質問には一切答えてくれない。べ、別に悲しくなんかないんだからね!


「……あ、もしかして俺を呼ぼうとして足が痛い!」


そしてローキック。有無を言わずローキック。鋭角なローキックが俺の足を捉えた。痛い、痛すぎる。はぁ……無視またはローキック。これが春日の基本行動パターンなのだ。理不尽すぎる。どちらにしても精神か肉体かがダメージを受けてしまう。話しかけても無視。話しかければローキック。それってあんまりだよね……はぁ。


「帰るわよ」

「はいはい」


そして俺は春日の前じゃ何も言えないヘタレなのだ。春日の命令は簡単に従う。春日曰く、俺は犬らしい。どんな命令にも大人しく従ってしまうヘタレな犬。自分自身、情けない体質だと思う。でも体が勝手に反応しちゃうもん。それってもうどうしようもないよね! ははっ、明るく言っちゃおう! うん!


「……兎月」

「ぬぁんでござーましょー?」

「うるさい」


痛い痛い。だから蹴らないで。返答しただけでうるさいってそれはもう超がつくほどの理不尽っぷりだよ。つまり超理不尽。あんまりだよね。……はぁ。あー、溜め息が止まらない。しゃっくりみたいにポンポン出てくるよ。


「で、何?」

「……」

「いや……何か言いたいことがあったんでしょ?」

「……その顔……何?」


……質問の意味がよく分からん。その顔何? って言われましても……。俺の顔立ちのことを言っているのなら、それは俺自身どうしようもありません。神様に尋ねてください。俺だってできることなら女子からキャーキャー黄色い声援受けるイケメンに生まれたかったさ。


「……その傷」


しかし春日は俺のスペックについて聞いたわけではないようだ。どうやら俺の右頬に貼られた絆創膏についてらしい。


「ああ、これね。これは菊丸スタイルだよん」

「……」


ものすごい目つきで睨まれた。びびるわ。ちょっと軽いボケでこの睨みよう。大石先輩でも少しは笑ってくれるぞ。はぁ……どうしようかな。この傷は不良にボコボコにされたものですよー、とは言いたくないし色々と説明するのも面倒くさい。


「階段で転んじゃって。その時に怪我しちゃったんだよねー」

「……」


適当に嘘をついておくのが妥当だな。ま、どうせこのお嬢様は俺なんかの心配なんかしないだろうけどね……って、痛い痛い!


「ぐぐぅ……絆創膏を押すのはやめてください」


なぜかぐりぐりと指で絆創膏を押してきた春日。痛い痛い、まだ完治してないから痛いって! なんだこの人は。俺を痛めつけて楽しいのかよ!


「……痛い?」

「痛い」

「……大丈夫?」

「大丈夫じゃない!」


傷口が開きそうだよ。もうやめて! 春日の指を手で弾くと、またローキックが炸裂。ぐっ……悪魔かよ。


「転んだの?」

「そうだよ。だからそっとしてください」


今のは春日なりの心配の仕方だったのだろうか。だとしたら今後はもう怪我なんてしようとは思わないね。傷口をえぐられる心配なんてしてもらいたくありません!


「……」


ふぅ、やっと大人しくなってくれた。もうマジでヘトヘトだわ。この状態で帰って勉強? 無理。今日は大人しくゲームしようかな。あ、米太郎呼ぼう。


「……」

「……」


春日と並んで校門へと向かう。何か話題は……


「もうすぐ中間考査だよね。春日はちゃんと勉強してる?」

「してる」

「一組だもんな。やっぱ頭良いんだろうなー」

「別に」

「またまた謙遜しちゃってー。学年で何位くらい?」

「うるさい」


……会話にならないよ。人とのコミュニケーションってこんなに難しいんだね。大人ってすごい。仕事とはいえ初対面の人と円滑にトークできるから。俺なんて下僕として仕える自分の主人(まだ認めてねぇ)との会話だってのに盛り上がったことなんてほとんどないよ。


「はぁ。……ん?」


あれ? 春日が違う方向に歩きだした。そっちは校門じゃないぞ。あるのは自転車置き場。


「あの……俺、今日は自転車で来てないよ」

「……」


ギロリという音が聞こえそうな程のすごい睨みつき。つり目だから尚更キツく見える。


「……早く言いなさいよ」

「ご、ごめん」


踵を返して校門に向かう春日。……え~っと、もしかして自転車の後ろに乗るつもりだった? いやいや、そんなわけないよね。前回あれだけ恐がってたし。

春日に追いついてバスを待つ。あと数分で来る予定だ。


「……アンタはどうなのよ」

「え? 俺? ……何が?」


ビックリした。急に話しかけてくるんだもん。


「……試験勉強」


あぁ、それね。


「そこそこ頑張ってるよ。昨日とか俺ん家で勉強会したんだ。誰かに教えてもらわないと手に負えないからさ」

「そ」

「いやー、春日が教えてくれたらもう万々歳だけどなー。はははっ」

「……」


ローキックは勘弁してよ? ほんの冗談だからさ。春日が俺の勉強を見てくれる? ないないない~。コミュニケーションもまともに取れないのに勉強を教えてもらうなんて無理だって。

そうこうしているうちにバスが到着。バスは空いており座るには申し分ない。けど俺は立たないといけない。以前、春日に立てって言われたからな~。自分は座るくせに。


「何してんの」

「え? いや、立つけど?」

「邪魔。座りなさい」


……なんだよそれっ! あなたが立てって言ったんでしょうが。それを今度は座れ? もうわけ分かんないっス。こうなったら意地でも座らないからな。


「いや健康のために立つ。立ち続けてやる。」

「座りなさい」

「分かりました」


……久しぶりだな~、このやり取り。命令されると大人しく従順しちゃうんだよね~。俺の馬鹿っ! 春日の座った席の後ろに座る。隣に座る勇気はないです。いきなり殴られそうで恐いもん。


「……」

「……」


バスの中でわざわざ話すこともないので黙ってバスに揺られて続ける。にしても、やっぱ春日って綺麗だよなぁ。後ろ姿だけ見ても、ちょっと胸キュンだもの。艶やかなロングの黒髪がバスに揺られ、見るものを惹きつける。けど性格は最悪。こんなに可愛いのに性格最悪。羊の皮被った狼どころの騒ぎじゃないぞ。アイドルのトレーディングカードだと思って開封したら中は昭和プロレスラーのブロマイドだったぐらいの裏切りだ。I want you!の代わりにゴツイ剛腕のラリアットが迫ってくるんだぜ? ヘビーローテンションだよチクショー。……何の話していたんだっけ?


「どこでズレた!?」

「うるさい」

「痛いっ」


しばらくして春日の降りるバス停に到着。ここで春日とはお別れ。じゃーな春日。親父さんにもよろしくー。のはずだった。しかしバスは止まらず停留所を通過してしまった。えっ?


「あ、あれ? 降りなくてよかったのか?」

「……」


どこか寄る場所でもあるのか? 言っとくけど俺はついて行かないからな。実際には言わないけど。俺は次で降りるますから~。そして俺の降りるバス停に到着。あばよっ春日。


「じゃ、俺ここで降りるから。また明日な」


ちゃんとさようならの挨拶もしてバスを降りる。さ~て、帰ってゲームすっか。君と響きあうRPGでもしましょうかね。世界再生の旅に向かってさあ一歩。右足出そうとしたら、その右足が誰かによって蹴られた。痛い! 誰だ、よ……!? う、嘘だろ……


「な、なんで春日が……」


なんで春日がここで降りてるのさ!? 親戚の叔父ちゃんにでも住んでるの?


「ど、どうしたのよ?」

「アンタの家どこ?」


お、俺ん家? どうしてそんなことを聞くわけ? ……はっ………ま、まさか、


「家に来るつもり!?」

「そ」


うえぇぇ!? なんでだよ何が目的だ!? あっ………もしかして勉強教えてくれるの? いやいや! 確かに春日に教えてほしいな、とは言ったけども。まさか本当に来るとは思わないじゃん。


「俺の家で勉強するの?」

「そ」

「春日が教えてくれるの?」

「そ」


どうやらマジみたいだ。しっかし、春日が勉強教えてくれるなんて……天変地異の前兆じゃないのか? 日本沈没するかも。でも教えてくれるのはありがたいや。俺一人じゃ限界があるし。ゲームする気だったが気分一転。勉強モードへと切り替わりました。試験前だもんね、ゲームしている暇はないよね。数十秒前の自分はなんて愚かだったのだろう。いやいやロイド君は何も悪くないからね!


「分かった。じゃあ、こっち」


春日と並んで家へと向かって行く。もちろん春日の鞄は俺が持ってるぜ。偉いだろ? なんてったって下僕だからな。



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