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第30話 続・米太郎は語る

翌日、朝の挨拶活動の開始時間になっても火祭は来なかった。間違いなく昨日の出来事が原因だ。


「ごめんなさい……私がカラまれたせいで」

「矢野のせいじゃないって。だからそんな落ちこまないで」


それでもまだ涙を流して謝り続ける矢野。他も皆もどことなく不安げな表情だ。こんな状態じゃ挨拶活動なんてできない。


「皆、今日の活動は中止にする。教室に戻っていいよ。水川、矢野に付き添ってやってくれ」

「う、うん」

「将也はどうするんだよ?」


米太郎も今日はわざわざ来てくれたのに悪いな。


「俺はもう少しだけ待ってみる。もしかしたら火祭が来るかもしれないし」

「じゃあ俺も」

「いや、俺一人でいいよ。こうなってしまったのは俺のせいだから俺がやらなくちゃ」


昨日、俺が不良達にやられなかったら火祭が手を出すことはなかったはずだ。そうすれば火祭は傷つかなくて済んだのに。俺が弱いせいでこんなことに……くそっ。


「……じゃあお前に任せた」


それだけ言うと米太郎は皆と一緒に校舎へと消えていった。米太郎も心配だろうが、これは俺の招いた事態だ。俺が責任を取らないと。


「……火祭………」


登校する生徒の波。必死に目を走らせるが火祭の姿を確認することなく朝の予鈴が鳴ってしまった。











「一組の担任に聞いてきたけど、桜は欠席だって」

「そっか……わざわざありがとう水川」


昨日から何度も電話したが、火祭は出てくれなかった。メールの方も音沙汰なし。全く連絡が取れない状態だ。


「こうなったら昼休みに火祭ん家に突撃訪問するしかないな」

「馬鹿か米太郎。誰も火祭の家の住所知らないだろうが」

「一組の担任に聞いたらいいじゃんか」

「今は個人情報がどうたらこうたらあるから教えてくれないかもね。ましてや私達はクラスが違うし」


水川の言う通りだな。これじゃ火祭と会う機会がないじゃないか。くそっ、無理矢理にでも住所を聞いて今すぐ行きたいくらいなのに。


「ところで将也」

「ん?」

「お前、怪我は大丈夫なのか? さっき聞いた話が正しいなら不良にリンチされたんだろ」

「昨日までは体の節々が痛かったけど朝起きたら何ともなかったな」


確かに昨日は死ぬ思いだったが、幸い顔は蹴られなかったから外見だと無傷に見える。服の下にはアザがいっぱいできてしまったが、歩けないほどではないので問題ない。でもやっぱ痛かった。


「そっか」

「ああ」

「……」

「……」

「……」


………米太郎も水川も黙ってしまった。何か喋りたいけど伝えたい言葉が出てこない。ここで言えることなんて何もないし……火祭本人に言いたいことは山ほどあるのに……。


「……なんでだろうね」


水川……? 俯き、蚊の鳴くような小さい声で水川は喋りだした。


「私達は桜の本当の姿を知っている。だから他の皆にもそのことを分かってほしいから、これまで挨拶活動や掃除活動と頑張ってきたんだよね。皆と一緒に……桜と一緒に笑えるようにさ。順調だったよね? 桜、変わってきたはずだよね? それなのにさ……どうしてこんなことになっちゃったのかなぁ」

「うわぁ!? み、水川何も泣かなくても……」


突然、水川が泣きだした。水川の涙が止まらない。ちょ、駄目だって。泣かないでよぉ!


「そ、そうだぞ。泣いちゃいかんよマミー」

「ぐすっ、マミーって、言うな」

「あー! 兎月と佐々木が水川さんを泣かしてるぞ!」


クラスメイトの一人の声にクラスにいる全員がこちらを見る。いやいや、俺達じゃないって! まるで犯罪者を見るような目が俺と米太郎に集中する。


「ちょっと! 兎月と佐々木サイテー」

「真美、泣かないで。何されたの? 今すぐ真美から離れろ野菜コンビ!」


クラスから溢れんばかりの怒涛の罵詈雑言。そういや水川ってクラスの人気者だったな。可愛くて明るいし。その水川を泣かした俺らはまさに悪者。クラスのブラックリストに載った気分だ。というか泣かしてないし。


「俺達が泣かしたわけじゃない。つーかなんだよ野菜コンビって。米太郎はそうかもしれないが俺のどこに野菜要素がある!?」

「うるさい! 兎月にこれといって言う悪口がなかったからだ」


それはそれで傷つく! 俺にだって何かあるでしょうよ。探してみようぜ!


「いいから水川さんから離れろ! 水川さんを泣かした罪は重いぞ!」

「放課後のクラス会議でお前ら二人追放してやるからな!」

「最低! 真美~、大丈夫? ああ、なんて可哀想なの……。最低!」


ぐおおおぉぉっ!? 完全に俺らが悪者じゃねーか。誰もこっちの話を聞いてくれない。好き勝手に俺と米太郎を責めたててきやがる。


「ちょ、待てよ。少しは俺達の話を聞いてくれ。俺達は何もやってないんだよ」

「黙れ! いつも水川さんと一緒にいやがって。ムカつくんだよ!」

「ちょっとだけイケメンだけど何の取り柄もないくせによぉ。この地味男が!」

「おい今言ったの誰だぁ!? 地味じゃねーし! あと、ちょっとイケメンって言ってくれてありがとう。何気に嬉しかった!」

「いいから早く真美から離れなさいよ、この虫食い野菜ども」


結局、俺は野菜コンビでまとめられるのね。


「ほぅ、虫食いとは最上級の褒め言葉だな」


黙れよ米太郎! どーせ、野菜の虫食いはおいしい証拠とか思ってんだろ!


「だから、俺達は水川を泣かしてないの」

「野菜コンビが何言ってんのよ。信じるわけないでしょ!」

「そうだそうだ!」


うわぁ、誰も話聞いてくれない……。こうやって冤罪が生まれていくのか。はぁ、悲しいね。


「米太郎からも何か言ってくれよ」

「コンビの立ち位置、俺が下手しもてでいい?」

「お前も話聞け!」











一騒ぎも収まって昼休み。泣き止んだ水川がクラスの皆に説明してくれたおかげで俺達の濡れ衣は晴れた。まったく冗談じゃない。俺が女子を泣かすわけないだろ。女子に泣かされかけたことは多々あるが。主に春日。


「はぁ」

「どうしたよ将也。立ち位置に不満か?」

「違う馬鹿」


まずお前とコンビを組んだつもりはない。大人しく丸ごと野菜かじっとけ。くそっ、火祭に会って話したいのに……こんなことで時間を潰したくない。


「でもさ、見たろ?」

「は? 何が?」

「さっきのクラスの奴らの態度。俺らが水川を泣かしたわけじゃないのに俺らが泣かしたと勝手に決めつけて責める。いくら俺と将也が弁明しようと聞く耳をもたない。火祭の時と一緒だよ」

「……」

「いくら本人が否定しようと周りは誰も信じない。第三者が説明してやっと信じてくれる。さっきも水川が説明してくれたから皆もやっと理解したわけだしな」


……米太郎の言う通りだ。火祭の時も同じだった。俺達が火祭の悪いイメージを払拭しようとしたから、あんなにも簡単に印象が変わった。いや、変わりかけていた。昨日、俺が不良にやられなかったら……俺がもっとしっかりしていれば……弱くなかったら……!


「あのな、将也。お前ちょっと勘違いしているぞ。自分が弱いせいで火祭を傷つけてしまったとか思ってるだろ」

「え?」

「別に将也なんかに守られなくても火祭なら自分の身ぐらい自分で守れるさ。そうじゃなくて周りの持つ印象、評価による火祭に対する冷ややかな目。そんな火祭自身が守れないことから守れって言ったんだよ。意味分かる?」

「う、まぁ大体」

「火祭がお前から離れた理由……それはお前が火祭のことを周りの批難から守れなかったからだよ」

「なっ……」

「お前言ったよな。昨日、現場近くにいたサッカー部が火祭のことを恐がっていたって。それから火祭を守ってやるのがお前の役目だろ」

「そ、そんなこと分かってる」


なんだよ……


「あと最後に。これ一番重要な?」


なんだよ……なんだよ米太郎。お前に何が分かるってんだよ!?


「火祭はな、誰よりもお前から恐がられたくないんだよ」


……同じことを火祭本人も言っていた。俺には恐がられたくないって。それには耐えらえないって。


「だけど不良をボコボコにやっつけるところをお前に見られた。火祭は周りと同じようにお前も自分のことを恐がったと思ったんだろうよ」

「俺はそんなこと思ってない!」

「じゃあお前はそのことをはっきりと火祭に伝えたか?」


っ! そ、それは……


「伝えていたなら、こんな状況になっていないよな。つまりお前は何一つ火祭を守っちゃいない。何一つだ。サッカー部からの非難も、そしてお前自身の気持ちからも火祭を守れていなかったんだよ」

「……」


俺は……俺はこれからどうしたら……。


「ったく。ここでうだうだ考えても仕方ないだろ。お前のできること、今からでもあるんじゃないのか?」


米太郎のいつになく真剣な眼差しが俺を貫く。


「こんなところで昼飯食ってる場合じゃないだろうが。思いつく限り心当たりのある場所探してみろよ」

「……あぁ」


米太郎の言う通りだ。こんなところにいる場合じゃない。俺にはすべきことがある。火祭に……火祭に謝らないと。そして……誤解を解くんだ! 俺は……火祭のことを恐れていないと!


「サンキュー米太郎」

「野菜コンビも悪くないだろ?」


まったくだ。米太郎とニヤッと笑い合って俺は教室を勢いよく出た。まずは図書室だ。待ってろよ火祭! ぜってー見つけてやるからな!











キーンコーンカーンコーン


「おらぁ兎月、授業はとっくに始まっているぞ」

「……すいません」


米太郎とカッコイイやり取りをした手前、手ぶらじゃ戻れなかった俺は学校のあらゆる場所を探し回った。それでも火祭はどこにいなかった。そして授業開始に間に合わなかった。なんて失態。


「……なぁ将也」


席に着くと隣の米太郎がものすごく真面目な顔をしていた。


「よくよく考えると火祭が休んでいる時点で学校にいないことは明白だったよな」

「じゃあなんで探してこいだなんて言ったんだよ!?」

「おらぁ兎月! 遅刻したうえに私語とは舐めた真似してくれるな。廊下に立っておくか!」

「すいませんっした先生!」



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