表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/150

第27話 米太郎は語る

「あー……疲れた………いやホントに」


火祭とのラブコメ的イベントを米太郎に目撃されたが、なんとか誤解を解いて掃除を開始。さっきまであんなに密着していた相手と二人きりでいるのは非常に気まずいが、そこはテンションを上げて吹き飛ばす。それでもやっぱ気まずかった……つーかお互いに恥ずかしくて顔も合わせられなかったよ。おかげでいつも以上に疲れた掃除となった。あー、しんどい。そしてよくよく考えると、人気のないところで掃除しても誰も見てないから火祭のイメージアップにはならなかったな……もう何なのさ!


「休憩なー」

「あ、お疲れ様です」

「休憩だぁ! 疲れたー!」


皆に休憩を呼びかける。良かった……皆のリアクションを見る限りだと米太郎の馬鹿は誰にもさっきの出来事をバラしていないみたいだ。もしバラしてみろ……俺はまだしも火祭のイメージダウンに繋がるかもしれん。その時は顔面をめちゃくちゃになるまで殴ってやるからな。


「あー……ホントのホントに疲れた」


中庭でまどろんでいると、数メートル先から缶ジュースが飛んできた。


「あっぶね」


なんとかジュースをキャッチする。投げてきたのは……米太郎。


「ナイスキャッチ。そんな感じで火祭のことも受けとめたのかな?」


ムカつく。この馬鹿は俺のことをからかっているようだ。米太郎のどや顔がムカつく。もう一度言おう、ムカつく。顔面めちゃくちゃになるまで殴ってやろうか。


「……」

「おいおい、無視するなよ~。分かってるって事故なんだろ」

「だったら掘り返すな」


しかもこいつアセロラジュースをよこしやがった。俺が嫌いなのを知っているなら完全なる悪意なんだが。


「あっ、すまん将也。ジュース間違えた。将也はこっちのメロンソーダだった」


これは普通に間違えたようだ。米太郎とジュース交換。くあ~、やっぱメロンソーダ最高っ! そしてジュース一杯で機嫌良くする単純な俺。


「それにしても、お前よく無事だったな」

「は? 何が?」

「事故とはいえ火祭に抱きついたんだろ。よく殴られなかったな」


……ちっ………この馬鹿はまだ勘違いしているのか。火祭が暴力的だというのは噂が作り上げた虚像だ。本当の火祭とはかけ離れている。再三言ったが火祭はそんな暴力的じゃない。いつまでもお前の過去の物差しで火祭を計るな。


「この勘違い馬鹿野郎みたいな目で見てくるなよ~。俺が言いたいのは普通に誰だって突然抱きつかれたりしたら相手を突き飛ばしたりするだろ? 火祭の腕っ節が強いのは事実なんだし、それでよく無事だったな。という意味さ」

「まぁ確かにな。そりゃあそうだよな。火祭だって、好きでもない男子の俺なんかに抱きつかれたら、びっくりして何らかの抵抗をするよな」

「前半部分はバツだが後半はマルだ。そうだろ? 特に火祭は強いからな」

「……それで思ったんだけどさ」

「ん?」


周りに火祭の姿はない。先程、水川と一緒に校内へと消えていったのを目撃した。なら今がチャンスだ。ここで米太郎に聞いておくか。


「火祭ってそんなに強いのか? 俺は実際に見たことないから分からないんだよ」

「……将也、前にも言ったと思うがな」


さっきまでのニヤケ顔が消えて真剣な顔つきになった。アセロラジュースを一口啜り、ゆっくりと腰を下ろす米太郎。目を閉じ、そして低い声で語りだした。


「激強だ。間違いなく最強だ。これは比喩でもなければ大袈裟に言っているわけでもない。本当に火祭は強い。確かな情報によると火祭は幼少期から道場に通っていて今ではありとあらゆる武術を修めているらしい。ついた異名が『武術王・火祭』だ」


前半部分はマルかもしれないが後半は絶対にバツだ。なんだよ武術王って。


「お前はそんな風に言うけどさ、やっぱ俺には信じ難いよ……。どの角度から見ても、鏡越しに見ても火祭はただ普通の可愛い女の子じゃないか」

「鏡越しで火祭見たことあるのかよ。う~ん、そうだよなぁ……高校生になってから火祭が暴れているという噂は聞かなかったし。火祭も中学の時とは違うんだろ。でも俺は中学の時、火祭にボコボコにされた。だから火祭が強いのは確かだ。ボコボコにされた俺が保障する」


そう言って米太郎はまたアセロラジュースを啜る。そんな不味いジュースよく飲めるな。にしても……本当に火祭が強いとはな……あんな可愛い娘がそんなわけないと思うんだけど。


「ん~……そうなのかな………」

「……あとな、将也」

「ん?」

「噂が真実であろうと嘘であろうとそんなの関係ない。噂は噂なんだよ。それがそのまま本人のイメージを固定し、投影する。火祭が凶暴という噂は真偽の確認を通さずに火祭のイメージを作り上げるんだ。人が勝手に、噂を全部信じて、さらに嘘を塗り固めて……。それは本人がいくら否定しようと壊れない堅固な壁となる。本人を閉じ込める鉄壁になってしまうんだ」


びっくりした。米太郎が真面目なことを言ってきた。キャラじゃないキャラじゃない。


「嘘の噂で作り上げられた壁。閉じ込められた本人がいくら叩いても壊れない非情で理不尽な壁。……でもな、その理不尽な壁は内からの攻撃には強いけど外側から叩けば簡単に壊れるんだ。第三者が噂を否定すれば噂は消えるんだよ。一人が壊し始めたら他の人もそれに続く……そしていつしか嘘の壁は完全に壊される」

「あの……すげー真剣な表情のとこ申し訳ないが何が言いたいんだ?」


米太郎の話の主意が見えてこないんだが。何を言ってるのやら。だから米太郎らしくないって。もっとボケようよ。


「壁を最初に叩いた奴……それはお前だってことだ」

「は?」

「お前が火祭のイメージを変えようと始めたこのボランティア活動。それが火祭が凶暴だという嘘の壁を壊したんだよ。実際どうだ、たった二週間で周りの奴らが持つ火祭の印象はガラリと変わった。外側から叩くと壊すのは容易なんだよ」

「火祭のイメージが変わったのは火祭が頑張ったから」

「違う。変わったのは……いや、変われたのは将也が頑張ったからだ。俺もお前のおかげで火祭の印象変わったもん」


だから俺は手助けしかしてないの。火祭の印象が変わったのは火祭自身が本気で変わろうとしたからだ。俺はその後押ししか出来なかった。


「将也、お前がどう思うと関係ない。だけどな火祭は間違いなくお前のおかげだと思っている。お前に感謝している。お前がいたからだと絶対に思っているはずだ」


……そうなのか?


「火祭を支えられるのはお前だけだ。だからどうか火祭のことを大事にしてやってくれ。よろしく頼む」

「お前は何様だ。火祭のお父さん気取りか。最後の最後でふざけたな米太郎」

「俺が真面目なこと言うのは似合わないからな~」


いつものようなニヤケ顔に戻った米太郎は立ち上がる。目を細めて遠くを一度見つめ、再び俺へと視線を戻す。


「とにかく俺の言いたいことは伝えた。どう行動するかはお前次第だぞ」

「……何がだよ」


どうして……なぜ米太郎がこんなことを言ったのか。俺には分からなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ