第24話 鞄だって凶器
短いです。それだけです。
ゆっくりしっかりと安全第一に自転車を走らせる。う~ん、なんて緩やかな運転だろうか。全く風を感じない。風の谷だったら、えらいことだぞ。春日は後ろで大人しく座っている。たまにスピードが出たりすると、ぎゅっと力を入れて俺の肩を掴む。なんかドキドキするんだけど……。そうこうしている内に春日の降りるバス停に到着。ブレーキをかけて停車。
「はい、到着~」
とりあえず春日に怪我を負わせなかったので一安心。かすり傷一つでも俺の命はなかったかも。春日本人より春日の父親が恐い。有名企業の社長だが、娘を溺愛する馬鹿親父でもある。春日の電話には2コール目で出るほどにだ。そんな春日父のことだからな、春日が怪我したとなると怪我を負わせた俺を抹殺するに違いない。一歩間違えたら今日の夜はコンクリートに埋められていたかもしれない。そう考えると恐ろしい……。
「……兎月」
「ん?」
「……」
いや、なんですか? 用件を述べてくださいよ。
「……」
「……」
う~? 何この空気。春日はどうして自転車から降りないの? だってバス停まで来たんだから、あとは歩いて帰るだけじゃないの。早く帰りたいんでしょ?
「……あっ、そーゆーことね」
ピンときました。気分はまさに名探偵江戸川君。春日が自転車から降りない理由、それは……
「はい、鞄。言ってくれたら取ってあげるって」
そんなことで黙らないでよ~。いつものあなたなら命令形で「取れ」とか言うじゃない。
「……」
無言で鞄を受け取った春日はそのまま鞄を振り上げると、
「痛っ!」
一気に振り下ろして俺の脳天に叩きつける。バンッと軽快なようでどこか重々しい音が響いた。はい痛い!
「な、何すんの!?」
「馬鹿」
「はあ?」
馬鹿とだけ呟いた春日は自転車を降りて歩きだしていった。何あの態度……お礼の一つも言えないのかよ。何か不満でもあったのか……あ~、きっと坂道でスピード出し過ぎたからだな。そうだ、それに違いない。でも、それならさっさと自転車から降りたいはずなのに降りなかったのだろう? う~ん……分からない。スタスタと歩いていく春日。どことなく不機嫌に見える。
「と、とりあえず、じゃあな春日。また明日っ」
俺の声は届いたのかどうかは分からない。春日がノーリアクションだったから。
「はぁ……もう後ろに乗せようだなんて安易なことは言わないでおこう」
そう心に誓って自転車を走らせる俺だった。