表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/150

第23話 坂道ジェットコースター

「くはぁ! やっと終わったぜ!」


箒を投げ捨てて山倉が地面にドサッと座りこむ。だから声デカすぎ。ボリュームを下げろ。声帯引きちぎってやろうか。


「もう動けない! 初号機活動限界!」

「笑えばいいと思うよ」

「会話になってないぞ!?」


うわ、ツッコミも声デカイ。声張りすぎなんだよ。もうボランティア部辞めて応援団に入れよ。そっちの方が適任だって。


「そっちも終わった?」


疲れたと吠える山倉を落ち着かせていると、掃除道具を抱えた水川と火祭がやって来た。


「うん、今終わったとこ。そっちは?」

「こっちも終わったよ。他の皆も呼んでくるね」


そう言って火祭と水川は掃除道具を置いて、また歩きだしてどこかに消えていった。


「なぁ、兎月!」

「うるせー」

「火祭さんって良い子だよな! 優しいし、可愛いし!俺のイメージと全然違ったよ!」


おぉ、やっと理解してくれたか山倉よ。そうなんだよ、火祭は普通にいい子なんだよ。昔のイメージが強いから皆も避けているだけなんだよな。実際に接してみれば分かるもんだろ? 


「この活動を通じて火祭さんの印象がすげー変わったよ!」


そりゃ良かった。これと同じことをクラスメイトでテニス部の遠藤も言っていた。他にも色んな人が同様のことを……もう枚挙にいとまがないくらいに。うん…本当に良かった。


「よっしゃ、俺道具もとに戻してくる! 偉くね!?」


水川達の置いた箒やらを持ち抱える山倉。


「お前、活動限界じゃなかったの?」

「大丈夫、内部電源に切り替えたから!」

「それだとあと五分しか動けないぞ?」

「うおおおおお!」


初号機もとい山倉は俺の言葉を無視して、どこかへと消えていった。もしかして暴走? ゼーレが黙っちゃいないぞ。


「兎月」

「ん、痛っ!?」


振り返る前に謎のローキックが俺の右足にクリーンヒット。蹴ってきたのは勿論、春日。最早キックが春日の挨拶となってきたな。どこの戦闘部族?


「痛ぇ……。か、春日……もう帰ったんじゃなかったの?」

「帰ってない」

「それは見たら分かるけど」

「帰るわよ」

「え? いやいや、もうちょい待ってよ。もう少しで部活終わるからさ」

「帰るわよ」

「はい」


も~、俺ってば弱すぎ。すぐ折れちゃう。男としての屈強な精神はないのか俺よ。


「あ、俺先に帰るから水川に言っといて」


偶然ボランティア部の一年部員が通りかかったので伝言を託す。


「あ、分かりました」


そう言って一年生部員は去っていく。あいつは良い後輩だ。矢野にも見習ってほしいものだな。


「行くわよ」

「はいはい~」


そんなに急がなくてもいいんじゃないすか。早く帰りたいなら、俺なんかを呼ばないでさっさと一人で帰ればいいのにね。そんなこと本人には言いませんけど。春日と二人並んで歩く。もちろん俺は春日の鞄も持っている。もう慣れましたよ。悲しいけど。


「ちなみに春日、なんでまだ学校いたの?」

「……」


時刻は五時を過ぎており、一般の生徒はもう帰宅しているはず。春日は何か用事でもあったのか。部活があったなら分かるけど、でも春日は帰宅部だし……なんの用事があると?


「……」

「……」


あ、れ? これは無視? それとも何か言えない事情が?


「……あ~、もしかして……俺を待っていたとかOuch!!」


春日のローキック! 激痛パネェ! あまりの痛みに片膝をついてしまう。と、とうぶん立ち上がれそうにないです……。もしかして図星? いやいや、そんなわけないよね。それは違うって将也よ。


「行くわよ」


俺を置いてスタスタと歩いていく春日。ちょっとひどくないですか? 必死に立ち上がって春日を追いかける。頑張れ俺。負けるな俺!


「今日も良い天気だったよな~」

「……」


春日と二人バス停へと向かう。ちなみに俺は自転車で通学しているのでバスを待つ必要はないけどね。のろのろと自転車を押しながら春日の後ろをついていく。


「今日は挨拶活動手伝ってくれてありがとうな」

「……」

「やってみると結構楽しいもんだろ?」

「……」

「ま、また参加してくれると嬉しいな~」

「……」


はい無反応ー。何にも答えてくれないー。こっちは頑張ってテンション上げてるのにさ。


「……何か返信プリーズ!」

「うるさい」


山倉ばりの大声を出すと、春日に蹴られた。この人は蹴ることでしかコミュニケーションできないのかねぇ。……ん? あれは……


「コジローだ」


校門を出て少し歩いたところで黒ぶちの猫、コジローが俺の前を横切る。散歩中のようだな。自由だなお前は。火祭に餌もらって何不自由なく暮らしやがって。下僕の俺とは大違い。


「知っている猫?」


春日がこちらを振り返る。猫の方には食いついたよ。興味示したよ。


「学校に生息してるっぽいよ」

「そ。……猫」


なんすかその興味ありげな反応は。さっきとは大違いだなおい。


「ほら、コジローおいで」


自転車をとめて腰を下ろして、コジローに手招きする。お前とは何度も会った仲じゃないか。ちょっと戯れようぜ。


「コジロー、カモン!」


が、コジローは俺を一瞥した後、校門をくぐり抜けて校舎の方へ消えていった。まるで俺のことなんかどうでもいいみたいな態度だ。


「……」

「……馬鹿みたい」


か、春日さん…キツイ一言ですね。そんなこと言わなくても。


「ね、猫は気まぐれな生き物だからさ」


立ち上がって春日の方を振り返る。呆れ顔の春日の後ろにはバスが……って、あっ……バスが………。


「春日……バス…行っちゃった」


俺の声はバスの発進する音に掻き消されたが、春日には伝わったのだろう。呆れ顔が歪んで段々と険悪な表情に変わっていく。


「……」

「……あー、その」

「アンタのせいだ」


ちょ、何か喋らしてくださいよ。


「いや俺じゃなくてコジ」

「アンタのせいだ」


何か喋らしてください! 俺にも弁明をする権利がありますから。バスの後ろ姿を見送り、バス停へと向かう。一応ね。


「次のバスは………三十分後……」


マジかよ……春日がそんなに待てるのか?


「あと三十分待っ」

「アンタのせいだ」

「耳を傾けて! お願ぃ!」


とりあえずバス停で次のバスを待つことに。だから俺は自転車だから待たなくてもいいんだけどね。隣の春日が行くなって言うから。そして……隣の春日が執拗に俺の足を蹴ってくるんだけど。一定間隔で春日が俺の右足にキックしてくる。気分的には毒状態の勇者だ。徐々にHPゲージが減っていく。なんとか打開しなくては。とりあえず春日から離れてみる。しかし、すぐに春日も距離を詰めてローキックを再開。


「あの、痛いんですけど…」

「……」


このままあと三十分も? 無理無理、そのうち足の骨が折れちゃうよ。う~ん、この状況をどうにか打破できないものか………足を機械鎧にするとか? おお、それなら春日の攻撃にも耐えれそうだ。そして俺は国家錬金術師になる! ……でも機械鎧整備士がいないから駄目だな。というか真面目に考えようぜ俺よ。………そうだ。


「春日、自転車で送っていこうか?」

「……」


これぐらいしかまともな打開策が思いつかない。春日を自転車の後ろに乗せて送り届ける。これが駄目なら諦めるしかない。甘んじてキック連打を受け入れよう。


「……」


やっぱ駄目か………お?


「……」


春日が無言で自転車の荷台に腰掛けた。ということはオッケーってことでオッケー?


「よし、じゃあ行きますか」


俺も自転車に跨がる。そういえば女の子を後ろに乗せるなんて小学校以来かも。ちゃんと運転出来るだろうか。お嬢様である春日に怪我でもさせたら俺の命はない。今改めて考えると、とんでもない提案だったな……どうしよ。


「春日、どっか掴まないと危ないよ?」


春日はただちょこんと座っているだけだ。そんな不安定な状態だとすぐ落ちるって。そして落ちたら俺の責任で春日の親父さんに殺されてしまう。い、嫌だコンクリートに沈められたくない!


「……」


春日は黙って俺の両肩に手を添える。うん、これで大丈夫なはず。


「それでは出発進行っ」

「早く行きなさい」


頭を叩かれた。そんなに早く帰りたいのかよ。目一杯ペダルを漕ぐ。春日は思ったよりも軽く、意外にスイスイと自転車は走る。今の時間、行き交う人は少なく下校する生徒もほんの数人だけ。それでもやっぱり二人乗りは目立つのか、周りから視線を感じる。ちょっとばかしの気恥ずかしさはあるが、右足を蹴られ続けるよりは幾分かマシだ。


「あ~……なんて緩やかな帰り道」


いつもならスピードを出しまくって風と一体になるが、今日は春日を乗せているので抑えて運転する。ゆっくり、のんびりと。春日は無言で大人しく座っている。ここで暴れられるのも困るしね。と、目の前に急な坂道が。


「ここは……」


ここの坂は長く、なかなかの傾斜加減だ。帰りはいつもここを急降下で颯爽と走り抜けるだが、今日は後ろに春日がいる。危険なことはしてはいけない………でもやっぱ一気に下りたい! 風にならずして何を得ようか。行くしかないでしょうよ!


「春日、一気に下りるからしっかり掴まってね」

「え?」


坂道へと差し掛かり、そして一気に急降下。うおー、風が気持ちいい! これだよこれ。春日も乗っているので、いつもよりスピードが増す。最高っ!


「きゃっふぉ~! 止まれない~! やべぇ死ぬかもっ」


あっという間に坂道を下りきる。あー、楽しかった。ちょっとしたジェットコースターだったな。もう一回やりたいぐらいだ。


「どうだった春日? って痛い痛い痛い!」


興奮していて気づかなかったが、春日が俺の肩をすごい力で握っていた。爪が食い込んでいるんですけど!? ぐうううぅっ、痛いいいぃぃ!


「か、春日…痛いって」


そ、そんなに恐かった? 俺は楽しかったけど。


「……兎月」


震えた声の春日。だから力緩めてよ。血出ちゃうって!


「馬鹿」

「痛い! 背中を殴らないでっ。ごめん俺が悪かったって」


それでも殴り続ける春日。埒があかないので、また漕ぎだす。すると春日は手を止めて慌てて俺の肩を掴む。はっはっ、可愛い奴め。普段からこんな感じでいればいいのにさ。そこからは安全運転でゆっくりと走った。スピード出すと春日が抓ってくるもん。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ