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第21話 早くもネタバレ

放課後、俺達ボランティア部と火祭は校内の清掃をしていた。これも部活動であり、火祭のイメージチェンジのため。火祭が学校のため頑張って掃除をしている姿を見れば少しは印象も変わるはずだ。だから頑張りましょう!


「火祭、ゴミ袋持ってきて」

「はい」

「ありがと」


効率よく掃除するために二人一組になろうと水川が提案。次々とペアができていき、余った俺と火祭がペアを組むことに。その時の水川と矢野のニヤニヤ顔が妙に気になった。あの二人は俺をどうしたいのやら。とりあえずそれは置いといて今は掃除に集中しなくては。


「よし、この辺りはこのくらいでいいだろ。次のエリア行こう」

「うん」


ゴミや落ち葉の入った袋を手際よく結ぶ火祭。


「なんか手慣れている感じだけど、こういうのって得意?」

「図書委員の仕事でこれに似た作業をすることもあるからね」

「なるほど、だから上手いのか。そういえば、コジローに餌あげた?」


コジローとは学校内を浮浪する黒ぶち猫のことだ。いつも火祭から餌を貰っている図々しい奴。もし掃除中にあいつの排泄物を見つけた時にはぁ、この学校敷地内から追い出してやる。


「うん、さっきあげてきた」

「そっか」


のほほんとした気分と空気を味わいつつ、火祭を二人で中庭へと向かう。風が木々を揺らし、木の葉が口笛を吹いているかのような軽快なメロディが聞こえる中庭には俺達と同じように箒やちりとりの掃除道具を持った生徒が二人いた。


「あ、駒野先輩」

「おー、兎月。ここのエリアはもう終わったぞ」


自慢げに箒を回す駒野先輩。三年生の駒野先輩は放課後の補習で忙しいから部活動には参加できないと言っていたが、本日の補習は休みになったらしく今日の清掃活動に参加してくれている。さすがは部長。その横でゴミ袋を結んでいる一年生の矢野。


「そうですか。なら一応、今日のノルマ分は終わりましたね。一旦集合しましょうか」

「まーまー、その前に」


先輩は右腕を俺の首に回してがっちりホールディングする。ぐっ、ちょっと苦しいですって。駒野先輩はぐいっと俺の耳元に顔を近づけて囁いてきた。


「そこの火祭さんと付き合っているんだろ?」

「先輩まで何言っているんですか。違いますよ」

「照れんなってー。話は矢野からしっかり聞かせてもらった」


……矢野ぉ。視点をずらして矢野を睨む。矢野は先程と同じようにニヤニヤしていた。こいつに先輩を敬う気持ちはないのか。眼鏡かち割るぞ。


「彼女のためにこうしてお前が率先して活動してんだろ?」


うわぁ、あながち正解だよ。ニュアンスは違うけど。だから彼女じゃないんだって。どうして誰も俺の話を聞いてくれないんだよ。鼓膜に呪いのクリーム塗りたくられているよ。


「じゃあ、もうそれでいいですよ」

「照れるなよー。ホントにさ」


ギリギリと腕に力をこめてくる先輩。い、痛いですって。もうちょっと手加減してくださいよ。


「いやいやホントにさー」

「せ、先輩……?」


突然、先輩の声が低くなった。洞窟の奥底から聞こえてきたかのような重く怖い声が耳を覆い被る。


「兎月ー……部活でイチャイチャするとは随分偉くなったもんだなー。えぇ? こちとら独り身で受験勉強しているのによー」


駒野先輩は右腕で俺の首を締めつけて、左手で俺の頭をアイアンクロー…って痛い痛い!


「痛たたたっ! せ、先輩やめてください!」

「次期部長はお前だと考えていたが、やっぱ取り消しだな。こんな女たらしに部のトップは任せられないよなー」


さらに力をこめる駒野先輩。ぐっ、頭蓋骨がメキメキ悲鳴を上げているぅ!


「ぐあああぁぁ! ギブ、ギブアップです先輩!」

「……ふー」


ようやく力を弱める駒野先輩。すぐに先輩から離れて距離を取らなくては。この人マジで危ない。いつか殺されてしまいそうだ。


「な、なんですかいきなり。違うって言ってるでしょ!」

「あースッキリした。よし、皆に集合するよう伝えてくれ」


爽やかな笑みを浮かべて駒野先輩はフラフラとどこかへ消えていった。人をストレス発散に使いやがって。なんて先輩だ。あれで部長やっているんですぜい? とんでもないよ。


「それと矢野。間違った情報を流すなよ」

「え、違うんですか?」

「何がだ?」


すると矢野がテクテクと歩いてきて、耳打ちする。


「兎月先輩が火祭先輩のこと好きだってことです」

「……」


…………い、いや……火祭のことは好きというか……友達として好きであって、恋愛感情はない……と思う………。いやいや、火祭は女の子としてすごく魅力的ではあるし、もし付き合えるなら超幸せだ。でも今は火祭のイメージを変えることが最優先であって、付き合うとかはまだまだ先の話であるからして………というか別に火祭のことをそういう風に見ているつもりはないぞ俺は。その……いや、まあ……好きか嫌いかと聞かれたら……す、好きだけどさ……。


「兎月先輩? 勝手に一人で進行しないでくださいよ」


矢野が俺の肩を揺らしてくる。やめて、まだ脳内会議終わってないから。あと一時間は猶予をもらいたい。


「で、どうなんですか?」


目をキラキラしないでほしい。なんだこれ、どうして後輩相手にしどろもどろにならなくてはならんのだ。


「……プライバシーを主張して、黙秘します」


矢野から逃げるようにしてその場を立ち去る。ゲームでも好きなコマンドが『とんずら』の俺ですから!


「あっ、逃げるんですか!?」

「矢野、火祭。他の部員見つけたら、職員室に来るよう伝えてくれ。顧問がジュース奢ってくれるらしい」

「ホントですか?」


今度は違うタイプのキラキラした目をする矢野。よし、注意が逸れた。中庭に二人を残して他の部員探しを始めることにする。山倉とか声デカイからすぐ見つかるんだけどな。











校舎の周りをぐるりと一周したが、ボランティア部員の姿が目に入らなかった。おそらく全員職員室に行ったのだろう。俺も職員室へと向かう。


「お、兎月。遅かったなー。皆もうジュース貰って帰ったぞ。ついでに顧問も用事があるとかで帰った」


職員室の前には駒野先輩がいて、ジュースをシャカシャカ振っていた。つーか、速くね? 皆さん、どんだけジュースほしかったんだよ。


「お前の分な」


駒野先輩の投げるジュースをキャッチ。そしてシャカシャカ振っていたジュースって俺の分だったんですか! 炭酸じゃないからまだしも、常識的に考えて人のジュースをシェイクしますかね……ひどい先輩だよ。これで部長をやっ……さっき言ったからいいや。


「ありがとーござーます」

「おいおい兎月……先輩に向かってそんなテキトーな返しでいいのか? まだ痛めつけてほしいみたいだな」

「ありがとうございました!」


くそ……普段はナマケモノのくせして、こういう時にだけ先輩の威厳出しやがって。でもアイアンクローは恐ろしいので大人しく従う情けない俺。


「今日は兎月の彼女も参加していたからなー」


火祭のことか。だから彼女じゃないですって。火祭に申し訳ないよ。俺みたいな取り柄のない奴が彼氏だなんて……火祭に釣り合わないって。


「ジュースが足りなくてよー。お前の分をあげようとしたんだが、受け取ってくれなかったんだ」


俺の分をあげようとしたんですか。俺、正規の部員なんですけど……。いや、それより火祭はジュースを貰わなかったのか……遠慮しなくてよかったのに。


「そうですか。それじゃあ俺は失礼します」


駒野先輩に一礼してその場を去る。まだ火祭が校内にいるとしたら……あそこかな?











図書室の前、俺の予想通り火祭はそこにいた。図書室はすでに閉館時間を過ぎており誰もいないし、いつも以上に静寂に包まれていた。そこに一人、火祭は壁にもたれかかっていた。


「火祭」


俺の声に反応して火祭はこちらを見つめる。その表情はどこか申し訳なさそうに見えた。何かあったのか?


「そこで何してるのさ」

「……ちょっとね」

「皆と帰らなかったの?」

「君を待っていた」


え、俺? 何か用?


「……真美から聞いたよ。君が私を部活動に誘った理由」


……水川さーん、なんで言っちゃうのさ。火祭に本当のことを話してはいけないんだって。水川といい矢野といい俺の周りには口の軽い女子しかいないのかよ。これは言っちゃいけないやつでしょうが!


「……周りの人が持っている私の印象を変えるためにやってくれているんだよね」

「あぁ、まあ……」

「ごめんね、気を遣わせて」


頭を下げる火祭。な、そんな……勘弁してよぉ。


「いや、謝らないでよ。俺が勝手にやっていることだし。もしかして迷惑だった?」

「そんなことない。すごく嬉しい……」

「それなら、ありがとうって言ってくれないか? 俺はそっちの方が嬉しいな」

「うん……ありがとう」


しかし、まだどこか納得のいかない顔をする火祭。う~ん、だからそんな顔しないでよ。俺はあなたのそんな顔を見たくて活動を提案したわけじゃないんだ。決意したわけじゃないんだ。


「水川から俺が火祭を部活動に誘った理由聞いたらしいけど、たぶん違うと思うよ」

「え?」

「俺が誘った理由は、火祭に笑顔でいてほしいから。ずっと笑っていてほしいからなんだよ。俺の知っている火祭はもっと笑顔で癒しと温もりを与えてくれる優しい人のはずだ。それを皆に理解してもらいたいから活動を始めたのも確かさ。でもそれが一番ではない………何よりも火祭が悲しい顔をしないで笑っていられるようにしたいからなんだよ。だからそんな暗い顔じゃなくて笑顔で言ってほしいな」


火祭がいつも笑顔でいられる日々を願って。周りが誰も恐れないで火祭に悲しい顔をさせない日々を願って。それを願って俺はあの日決意したんだ。


「……うん」


火祭の瞳がじわりと潤む。それも一瞬のことで悲しげな表情は掻き消えるようになくなった。


「……ありがとう」


代わりに満面の笑みがその場を明るく照らした。あぁ、やっぱり火祭は笑顔が似合うよ。ずっとこの笑顔でいてほしい。心からそう願う。


「じゃあ、帰ろっか」


俺も笑顔で返す。


「うん」



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