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第2話 そして始まる下僕ライフ

「おーす将也」

「……」

「どしたの?」

「いや……ちょっとね」

「おいおい、今日の体育は他クラス合同のバレーだぜ? もっとアゲアゲでいこうぜ」


朝からテンションの高い米太郎。とってもウザイ。


「お前だけ舞い上がってろ」

「テンション低いなー。今日の双子座十二位だったのか?」

「俺は天秤座だ」


米太郎のノリがあまりにウザイので教室から出る。もー嫌だ。朝から憂鬱だってのに米太郎の相手なんかしてられるか。


「あ、ついでにサイダー買ってきて」

「単にトイレだよ。わざわざ食堂の売店まで行かない」


朝の予鈴まであと数分。まぁトイレ行くのには十分だ。と、そこへ……


「兎月」

「ん? げっ」


教室を出て三秒後、米太郎以上に会いたくない奴と会ってしまった。つまり最悪だ。


「ちょうど良かった」

「何がだよ………春日」


そう、春日恵だ。なんと今朝、俺は彼女から下僕になれと言われた。それ故に現在テンションが低いのだが………いや、だってさ……普通に考えて同級生に対して下僕になれって言いますかね? 同い年の、同じ学生の、しかも面識のない人に対して下僕になれってよく言えましたね! ええ!? あれはもしかしてジョークだったのかな!? アハン?


「売店で紅茶買ってきて」

「はぁ? なんで?」

「アンタ、私の下僕だから」


……どうやら朝の発言はマジだったらしい。ふざけるなよ。


「嫌だ。第一、俺はお前の下僕じゃ…」

「買ってきて」

「買ってきます」


え……何言ってるんだ俺は? 何をこんな簡単に折れてるんだ!?


「早くして」


そう言って春日は自分のクラスに戻っていった。あ、ちょ……。朝の予鈴まであと数分………走るしかないよねぇ。


「くそっ、俺こんなヘタレだったのか!?」


自分の弱さを嘆きつつ俺は廊下を走る。か、悲しい……。


「……やっぱり思った通りの奴ね」











キーンコーンカーンコーンと朝の予鈴が鳴る。


「はい紅茶。ペットボトルで良かったよな?」


俺は一組の教室の後ろのドアからそーっと顔を出す。幸い春日の席は入口の近くだったので目立たずにジュースを渡せる。はい受け取ってぇ。


「……」


春日は無言で俺の手からジュースを奪い取ると、もう消えろ的な目線を向けてきた。……せめて、ありがとうぐらいは言ってほしかったね。

俺は苦笑いを浮かべてその場を離れた。もう予鈴は鳴ったので急がなくては。速足で教室に戻ると、


「おら兎月、今日から毎日朝の予鈴と同時に単語テストをやると言ったよな。初日から遅れるな」


プリントを配っている担任に怒られた。ちっ、どーせ三日もしたら忘れるくせによ。


「すいませんでした」

「早く座れ」


クラス中の全視線が俺に集中する。気になるし、気まずいし、恥ずかしいし。頬が赤くなるわ。そそくさと席に座ると右隣の馬鹿が小声で話しかけてきた。


「かなりの激戦だったんだな」

「トイレじゃねーよ。ほら、サイダー」


馬鹿もとい米太郎にサイダーを渡す。


「うえ? マジで買ってきてくれたのか。冗談だったのに」

「ついでだついで」

「?」











午前中の授業はあっという間に過ぎて今は昼休み。朝に下僕宣言を受けた俺だが、あれ以降春日からは何も言ってこないし下僕らしきことは朝の鞄持ちとパシリだけしかやっていない。おー、意外と平和。


「くはー! やっぱ婆ちゃんの作ったお米は美味い!」


弁当にがっつく米太郎の醜い姿すら微笑ましいくらいだ。


「おい将也、食べないのか?」

「ん? ああ、食べる食べる」






昼飯を食べ終わって、ダラダラする俺と米太郎。


「次の授業何だっけ?」

「体育だよ」

「何するんだろ?」

「はぁ? 朝言っただろ。一組と合同でバレーだって」


そうだっけ。にしても合同でねぇ。……ん………一組ぃ?


「……なぁ、それって男女一緒?」

「んあ? おいおい将也、バレーはバレーでもおっぱいバレーじゃないぜ?」


何を言ってるんだこいつは。俺はおっぱいを見たいわけじゃない。春日に会いたくないだけだ。


「まぁ……たぶん大丈夫だろ」

「そうそう、元バレー部の俺がいれば安心だ」

「そっちじゃない馬鹿」











「えー、男子は右のコートで女子は左のコートで試合するぞー」


場所は体育館。一組合同かつ男女合同ときたら俺の不安は的中したと言って間違いない。


「兎月」


はい間違いない。


「……なんでしょう?」


振り返るとそこには体操服姿の春日がいた。ものすごい可愛いだなんて思ってはいけない。思ったら負けだ。


「放課後、私のクラスに来なさい」

「……分かりました」


勿論、嫌とは言えません。どーせ鞄持ちだろうな……はぁ。



「じゃ、試合あるんで」


とにかく急いで退散だ。これ以上何を言われるか分かったもんじゃない。


「おーい米太郎、俺らのチームは?」

「おー、こっちだこっち。すぐに試合だ」


俺はチームメイトを確認する。中学でバレー部のエース(自称)だった米太郎に日直じゃなかった渡部君そして遠藤、酒井、吉岡君だ。


「よ~く見とけよ将也。俺の華麗なるジャンプサーブを」

「はいはい」


米太郎はボールを上げると軽やかなステップをして力強くジャンプする。


「とおぉりゃぁ!」


勢いある気持ち悪い声とともに放たれたボールはネットへとぶつかる。


「いきなりサーブミスじゃねぇか!」


カッコつけてジャンプサーブなんかするからだ。


「オッケー大丈夫、切り替えていこ」


お前が言うな。サーブ権は相手チームに渡り、こっちのチームはレシーブの構えに入る。


「いいか将也、左手はそえるだけだ」

「お願いだから黙れ」


相手はごく普通のアンダーサーブで打ってきて、ボールはゆるーい弧を描いて落ちてきた。


「っしゃ、任せろ」


緩やかなボールを米太郎は難なくレシーブし、ボールは俺の真上へと舞い上がる。


「将也、こっちだ」


米太郎はネット前に走っていた。よし、任せろ! 俺は両手を頭上にかざし、トスの体勢に入る。

次の瞬間、俺の後頭部に衝撃が走った。い、痛い。突然のことに俺はバランスを崩して片膝をつく。ボールはそのまま俺のすぐ横に落下した。


「っ、何だ?」


この感じ、ボールをぶつけられたとしか思えない。くそっ、一体誰だ!?


「やいやい! 気をつけ、ろ……うっ」


俺の後ろには春日がいた。つりあがったキツイ双眸が俺を見下ろしている。そして無表情が怖い。


「か、春日だったんだ。ははは、次は気をつけてね」


慌ててボールを拾い、春日に渡す。つーか押しつける。


「しゃあ! みんな集中していこうぜ!」


腹の底から声を張り上げる。周りの声が聞こえないくらいに。だって春日と絡みたくないんだもん。

続けて相手のサーブ。落下地点には米太郎。


「おっけぇ」


さきほどと同じフォームでボールを返す米太郎。そしてボールは俺の頭上。


「よし、今度こそブベェ!?」


またしても後頭部に衝撃が。ボールはトスできず、相手チームに二点目。


「か、春日わざとだろ!」

「ボール拾って」

「は、はい、どうぞ」


俺弱っ。自分が情けないよ……。


「何やってんだ将也。お前がトスもできない男だったなんて。そんな子に育てた覚えはないぞ!」


俺もない。

しかし一体なんだよ春日の奴。邪魔ばっかしやがって。俺への嫌がらせかよ。

気を取り直して試合に集中。相手のサーブを米太郎が返す。つーか安定感あるな米太郎。さすがバレー部だったことはある。


「今度こそしっかりな!」

「おう」


そう言った直後、またしても後頭部に衝撃。なめるなよ春日、三回も同じように倒れてたまるかっ!

踏ん張る俺。そんな俺の右足に新たな衝撃が。


「ぬぁ!?」


二撃目があるなんて聞いてないぞ! くっ、なんとかトスは上げなくては。

よろけつつ顔を上げると、眼前にはボールが…………あぁ!?


「ぐふぇっ」


ボールが顔面に直撃。三連コンボ見事に決まりました。


「ぶはははっ、何やってんだ将也」

「う、うるさい」


周りから失笑が聞こえる。なんて赤っ恥だチクショー。


「おい春日! 二連続は禁止だろ」

「ごめん兎月。二発目は私だった」


春日の横で両手を合わせる水川。


「お前かマミー!」

「マミー言うな!」


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