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第19話 召集ボランティア部

「おはようございます」

「おはようございます」

「おはようございます」


GWも終わり、爽やかな朝の日差しの中、登校する生徒の嫌そうな顔。やっぱり連休明けの学校はしんどいよね。すごく共感します。


「おはようございます」

「おはようございます」

「おはようございます」


特に朝が一番しんどい。ああ…今日からまた学校かよ、という堪え難い現実が重くのしかかり、そう簡単にベッドから抜け出せない。


「おはようございます」

「おはようございます」

「おはようございます」


懐かしいとすら思える制服に着替え、いつも通り通学する。そのいつも通りがキツイ。ま、俺は三日も前から制服を着ていたけどね。


「おはようございます」

「おはようございます」

「おはようございます」


さっきからおはようございますと連呼しているが、挨拶しているのは俺だけではない。水川や米太郎、さらに数名の生徒。そして火祭。

俺達が校門でこんなことをしている理由は昨日に遡る。











「おー、久しぶりの部活だな」


窓から差しこむ陽光がうす暗い階段を明るく照らす。階段に響くのは二人分の足音と、のんびりとした声。声の主は三年生の駒野先輩。背が高く、無造作ヘアーの男子生徒だ。


「それにしても急に呼び出すなんて何の用だよ」

「ちょっと話したいことがありまして。すいません、受験で忙しいのに」


そうだ受験はしんどいー、と愚痴る駒野先輩と並んで部室棟の階段を上がる。バスケ部、文芸部と電気の消えた部室を通過していき、一番奥の明かりが点いた教室の扉を開ける。


「遅いよ!」


教室の中には長テーブル四つが枠のよう並べてあり、その周りに何脚か椅子が適当に置いてあった。その椅子に座る数人の生徒。その中の一人が不満げな声を上げる。その人物とは俺のクラスメイトで親友の水川真美ちゃん。


「呼んだくせに一番遅いってどういうつもりなの。こっちは和歌山から帰ってきたばっかりだってのにさ」


ブーブー文句たれる水川。そういや和歌山に帰省していたんだったな。


「そう言うなよ。時間には間に合ってるからいいじゃん。……よし、全員来ているし、それじゃあ始めますか」


睨む水川を避けつつ、俺と駒野先輩は適当に座る。


「ボランティア部を」


そう、ボランティア部だ。部員数は俺を含めて七人。三年生が一名、二年生が三名、一年生も三名。部長は駒野先輩。ボランティア部……聞こえ、印象ともに最悪なそんな部活なんて誰が好き好んで入ろうか。いやまあ、こうやって七名もいるわけだし、皆さんボランティアが好きなんでしょうけど。なぜ俺が入っているのか……それには理由がある。一つは評判がいいこと。ただボランティア活動をする。それだけで周りからの評価は上がるし、進学に有利になるから。うわあ、いやらしい。そして二つ目に楽しいから。皆で協力してゴミ拾いや募金活動をする……なんか青春だよね。さらに三つ目、


「早く始めようよ」


ちょ、水川さん……まだ三つ目があるから。もうちょい待ってよ。うん、三つ目に活動は不定期でいいことだ。年に数回大きな活動をするだけで部は成立する。なので非常に楽なのだ。話し合いと称して部室で雑談したり、ダーツしたり、のんびりしたりとまさにリラックスルーム。まあ、今回は真面目な話し合いだけど。


「前回の話し合いから一週間ほど空いたけど、皆さんはいかがお過ごしでしたか?」


司会進行は俺が務める。呼んだの俺だしね。リーダーの駒野先輩は欠伸をしてペン回ししているし。


「活動はしていなかったですけど、部室には来て遊んでいましたから」


一年生の矢野が茶化してくる。眼鏡をかけた身長の低い可愛らしい女子生徒だ。先輩を慕う気持ちがまったくない。俺にだけ対してだが。


「つーかGW最終日に呼んでんじゃねぇよ! こっちは狩りの時間を惜しんで来たんだからな!」


やたら声のデカイこの男子生徒は同じ二年生の山倉。こいつは本当に声がデカイ。常に大声だ。はいはい、狩りは今度付き合ってやるからさ。


「えー、皆を呼んだのは勿論理由がありまして……一つプランを提案したいわけなんです」

「プラン?」

「ああ、明日の朝から挨拶活動しないか?」

「挨拶活動!?」


だからうるせーよ山倉よぉ! リアクションがウザイって。


「それって校門の前に並んで登校してくる生徒達に挨拶するやつか?」

「そうです先輩。どうでしょうか?」

「ま、いいんじゃね。三年生の俺は朝補習で無理だから、お前ら一、二年生が中心となって頑張れよ」

「なっ!? ずるいっすよ先輩! 自分はやらないからって!」

「黙ってろ山倉。というわけで、挨拶活動に賛成の人?」


七人中六人が手を上げる。おお、さすが皆さん。ナイス反応です。反対者は山倉のみ。


「俺は嫌だね! 朝はのんびりしたいからな!」

「うるさいなー山倉は。私はいいと思うよ、こういう活動も」


ナイス水川。さすがは水川! 彼女、場の空気を読むのと流れを作るのには定評があります。俺の中での定評だから単なる個人の評価ってことだけど。


「そうですよ山倉先輩。それに楽しそうですよ?」


矢野の声に他の一年部員二人も頷く。さあ山倉よ、どうする?


「くっ……分かったよ! やればいいんだろ!」

「じゃあ全員賛成ということで兎月の意見は採用なー」


手をヒラヒラと振り上げる駒野先輩。ちょ、おいしいところ持っていかないでくださいよ。


「あと、俺達だけでなく一般の生徒も参加可能ということで」

「それは友達を呼んで、一緒に挨拶活動してもいいってことですか?」

「その通りだ矢野。皆で楽しくやろーぜ」

「ま、いいんじゃね? 三年生はどうせ無理だけどな」


さっきからそればっかりですね駒野先輩。そんな受験勉強が大変ですか。来年から自分もそうなると考えるとなんかブルーになりますよ。


「時間は八時から予鈴が鳴るまで。それじゃあ話し合いはこれで終了。解散ってことで」


俺の声とともに一年生部員の二人が立ち上がって、ダーツへと向かう。お前らハマったんだな。分かるぞ、その気持ち。どんどん投げまくれ。そして上達しろ。ダーツが上手い奴はモテるぞ、たぶん。


「先輩もわざわざ来てくれてありがとうございました。どうぞ帰って勉強なり因数分解なりアメンポテト4世なりしてください」

「アメンホテプ4世な。そう言うなよ。せっかくだし、もうちょい寛いでいくわ。……俺にもダーツやらせろ!」


バッと立ち上がり、ダーツへと向かう駒野先輩。いきなりテンション上がったぞ。さっきまでのナマケモノぶりはどこへいったのやら。


「よっしゃ、皆でダーツ大会だ。負けたら罰ゲームな」

「いいっすよ~先輩! ダーツを壁にぶつけて火花を散らすこと数知れず! 成長した俺の腕前を披露してやりますよ!」


山倉もテンションが上がる。いや、こいつはいつもこんな感じか。


「兎月もやるよな!? お前ダーツだけは異常に強いからな!」

「だからボリューム下げろ。悪いけど俺は挨拶活動の許可をもらいに職員室に行ってくる」

「あ、私もついてく」


水川が手を上げる。


「サンキューな水川。じゃあ行ってくるわ」


騒がしくなった部室を出て、水川と二人で職員室に向かう。挨拶活動の許可だが、学校側も反対する理由もないはずだし何の問題もなしにOKを出してくれるはずだ。


「それで?」


出るなり早々、水川が話しかけてきた。


「は?」

「どうして急に挨拶活動しようなんて思ったの。何か理由があるんでしょ?」


鋭いなー水川は。さすがといったところか。


「火祭のことだよ」

「桜のこと?」


桜? ああ、下の名前ね。


「実はさ……」


一昨日、昨日の出来事を水川に話す。火祭を見て遠藤が引いたこと、クラスの奴らも火祭のことを恐がっていること、遠藤の髪が無残なことになっていること。最後はどうでもよかったか。


「……なるほど。つまり兎月は桜のイメージを変えるために挨拶活動を計画したってわけね」

「ああ、火祭も呼んで一緒に挨拶活動する。できるなら放課後にもゴミ拾いとかしたいな。頑張る火祭の姿を見れば周りの評価も変わってくるだろ?」

「そうだね。皆はイメージだけで桜を避けてるからなぁ……すごく良い子なのにね」


まったくもってその通りだよ。そのことを皆にも分かってほしいんだ。


「……へぇ~」


ん? 急に水川がニヤニヤ顔で小突いてきた。なんですか、その面白そうなものを見る顔は。


「それにしても兎月ぃ。火祭さんのために随分と張りきってるじゃん。もしかして………好きになっちゃったぁ?」

「違うって。単純に火祭には笑っていてほしいだけだよ」

「おぉ~言うねぇ。カッコイイ~」

「はいはい。ほら、職員室に行こうぜ、マミー」

「だからマミーって言うな」

「今日は今のが初マミーだぞ」

「初マミーって何よ」











というわけで時間は戻って翌日の朝、挨拶活動一日目。火祭も挨拶活動に参加してくれると言ってくれた。うん、良かった。集合場所に火祭が来た時、山倉が驚いていたが俺と水川がなんとか説得。他の奴らも黙らせた。つーか火祭は何も悪くないんだって。


「あのさ……火祭を呼ぶのは分かるけどさ……なんで俺も参加しているんだ? あ、おはよーございます」


愚痴りつつ、しっかり挨拶する米太郎。


「お前のせいで火祭のイメージが悪くなったんだろうが。償いということでお前も参加しろ。それとおはようございます」

「それを言われちゃ何も言い返せないな。おはよーございます。でもこんなことで印象が変わるもんか?」

「急には変わらないだろうな。おはようございます。少しずつでいいから変化が見れたらそれで、おはようございます、いいと思う」

「そうだな。変わるといいな、おはよーございます。これで償えるなら、おはよーございます、俺も頑張っておはよーございます」

「そこ二人。真面目に挨拶しなよ」


ベシッと水川に頭を叩かれて注意された。


「おはようございました」

「失礼しましたみたいに言うな」



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