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第18話 噂と陰口、そして決意

GWだというのに活気づいた教室。宿題を終わらせるべく皆がこぞって誰かの答えを写そうと集結したわけだ。呼びかけたのは俺だが、今はそんなことどうでもいい。うわの空で化学反応式を書き写しながら、頭をよぎるのは火祭のことばかり。眉目秀麗で成績優秀、まさに才色兼備。そんなパーフェクトな火祭は人気者だと思っていた。……が、実際はその真逆で皆から恐がられていたなんて……思いもしなかった。火祭を化け物かのように恐れ怯えた目で見たテニス部員達。そして悲しげな火祭の暗い表情。それが頭から離れない。


「おい、将也。お前さっきから同じ反応式を何度も書いているぞ」

「え?」


気がつくと、ノートにはぎっしりと化学反応式が羅列してあった。自分で自分の書いたノートが気持ち悪いと思ったのはこれが初めてだ。ノートのどこを見てもエタンの完全燃焼の化学反応式。


「何ぼーっとしてんだよ。しっかりやれ」


米太郎に指摘されるなんて不覚。こいつにだけは言われたくなかった。


「そう言うなよ佐々木。兎月は昨日あの火祭と一緒にいたんだぜ?」


遠藤がこちらを向く。昨日と変わらず前髪は見るも無残な状態。


「マジかよ兎月!? 怪我とかしてないか?」


遠藤の言葉に反応した他のクラスメイトの奴らもこっちに注目する。


「どうして怪我しなくちゃいけないんだよ」


火祭は関係ないだろ。


「だってお前、相手はあの火祭だぞ? 無傷で生還なんて奇跡に等しいって」

「噂によると、不良十数人相手に無傷で勝ったとか」

「ヤクザの事務所に乗り込んで全員を血祭りにあげたとか」

「うわ~、血祭りの火祭の異名は伊達じゃないな。兎月、よく無事だったな」

「まったくだぜ」


うんうん、と同意するクラスメイト達。……こいつら何も分かっちゃいない。一体火祭にどんなイメージを持っているんだか。あと、俺に同情するような眼差しを向けるな。ひどく不快だ。米太郎のたくあん臭並に。いや、それ以上に。


「米太郎、ジュース買いに行こう」

「……いいぜ」


俺のアイコンタクトが伝わったようで米太郎もペンを置く。


「食堂に行くのか? なら火祭には気をつけろよ」


ニヤニヤと笑う遠藤。こいつは本当に……


「遠藤も今度散髪する時は前髪切りすぎるなよ。俺はもう吹き出しそうになるのを我慢できないから」


皮肉を垂れて教室を出る。出る間際、赤い顔で短い前髪をいじる遠藤の姿が少しだけ視界に入った。











「ほらな。だから言っただろ?」


食堂横の自販機の前。オレンジジュースを一口啜った米太郎がどうだ、と言わんばかりの顔をする。


「火祭が恐がられていることか?」

「そうだよ。でもあそこまで露骨にしちゃあんまりだよな」

「お前もつい最近まで恐がってたけどな」

「殴られたトラウマがあったからな。ま、話してみると案外普通だったよ。今では親友レベルのお付き合いだぜ」

「火祭のメアド知ってるか?」

「知らない」


それで親友レベル、ねぇ。


「な、なんだその馬鹿にした顔は。将也は知ってるのか?」

「それは置いといて」

「置いとくのかよ」


うわ、米太郎にツッコまれた。屈辱的だな。


「……火祭の奴、いじめられていたりしてるのか?」

「それはないと思うぞ。周りは恐ろしくて近寄らないだけ。遠足の時もさ、一人でいただろ」

「火祭が何をしたっていうんだよ……」

「中学の時に不良や注意しても言うこときかない連中をこらしめていた。それが噂となり、その噂が段々と大きくなり、そのイメージが皆に恐怖を植えつけたんだろうな」


とんだ勘違いじゃないか。大袈裟な噂だけで火祭を避けるなんておかしい。絶対に間違っている。火祭のことを理解しないで何が恐いだ。真偽も分からない噂ごときで勝手に人の良し悪しを決めて悪口を言う? そんなのひど過ぎる。


「そんなの駄目だろ」

「確かにな。だけど、危険と噂されている奴に話しかけたりしないだろ? 触らぬ神に祟り無し。接触しないのがベストだと皆は思ってるんだろうな」

「……つーか火祭に悪いイメージがついたのは不良とかマナーの悪い奴らを制裁していたからなんだろ?」

「そうだな」

「なら、お前が原因で火祭のイメージが悪くなったと言っても過言ではないよな」

「え…な、何言ってるの?」

「お前のせいだって言ってるんだよ!」


米太郎にローキックを入れる。お前みたいなマナーの悪い奴がいるからいけないんだ。


「痛ぁ! す、すいません」

「……なんとかできないのかな」

「火祭のイメージをか?」


火祭はすげー良い奴だ。知り合って一月も経たない俺だが、それでも分かる。野良猫に餌をあげたり、勉強を教えてくれたりと……そんな優しい火祭のことを皆にも知ってほしい。理解してほしい。恐がらないでほしい。何よりも火祭自身のために……。


「米太郎、俺は決めたぞ」

「何をだ? 火祭に告るのか?」


話がぶっ飛び過ぎだ。会話の流れを考えろ馬鹿。


「火祭のイメージを変える」

「どうやって?」

「考えがある。ま、とりあえず教室戻るか」


火祭には笑顔でいてもらいたい。昨日のような悲しい顔をさせたくない。そのためならどんな努力も惜しまない所存でありますよ、俺は。


「うーむ、将也は春日さん狙いだと思っていたが……こっちも狙っていたか」

「なんの話だよ!」



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