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第13話 同級生にスーツを買ってもらう

観覧車を降りた俺と春日は出口へと向かって……ん?


「なあ春日、そっちは出口じゃないぞ?」

「……」


用事があるから遊園地を出るとおっしゃられた春日。それはあんまりだから、せめて一つぐらい何か乗ろうと俺が提案して観覧車に乗ったわけだが、その後は春日の言った通り遊園地から出るはずなのに……。あれれ、そっちには楽しいアトラクションがたくさんありますよ。


「…あ、もしかして他のやつにも乗りたか痛っ!」


またもやローキック。避けれるはずもなく見事に決まった蹴りに俺は声にならない悲鳴を上げるばかり。痛ぇ……だんだん蹴り慣れてきました? 蹴られる俺としては悲しいことですが。


「で、出口はあっちです……」

「ふん」


……でも、春日は観覧車に乗るのも渋々だったのだから他のアトラクションにも乗ろうなんて思うはずがないよな。じゃあ一体どうして違う方向に……? うーむ、なぜだろう。


「……やっぱ誰もいないよね」


集合二時間前。遊園地を出てすぐそばの広場の集合場所には誰もいない。教師達も遊んでいるのだろう、本当に誰一人としていない。はぁ…俺もまだ遊びたかったな。水川達は楽しくやっているかな? きっと楽しんでいるでしょう。米太郎を除いて。


「で、これからどうするの?」


春日個人の用事なら俺は全くの無関係なんだが。その場合、俺はどうしたら……もう一回入場できたっけ?


「これに乗って」


春日の隣にはリムジンが。いつの間に……。そしてリムジンすげぇ。こう間近で見ると存在感ハンパないよ。というか遊園地前にリムジンってのもおかしな組み合わせだよな。


「お、俺も乗るの?」

「乗りなさい」

「はい」


俺みたいな庶民が乗っていいんでしょうか。とりあえずドアを開ける。


「先にどうぞ」

「……気が利くじゃない」


お褒めのお言葉有り難き幸せですー、と。俺だってちょっとは下僕に慣れてきましたよ。情けない話ですけど。続いて俺も中に入る。うおっ、車内も豪華。なんかキラキラ輝いているよ!? と、興奮していたが次に目についたのは運転席に座る初老の男性。こちらを振り向き、ペコリと頭を下げてくれた。おお、春日家の人でやっと礼儀正しい人に出会えた。親父も娘も第一印象は最悪だったからな。


「初めまして。私(わたくし)、春日家の運転手を務めさせていただいております、前川と申します」


運転席越しにまた頭を下げる前川さん。


「あ、ご丁寧にどうも。僕は春日の下僕を務めている兎月です」

「アンタは自己紹介しなくていい」


別にいいじゃんかよー。それに随分と惨めな自己紹介だったんだから。下僕を務めているって……人が一生のうちにそんな自己紹介を何回するでしょうか。たぶん普通の一般人なら一回もしないと思うよ!


「兎月将也様ですね。お話は恵様からよくお聞きしております。それはとてもとても…」

「へぇ~」

「前川っ……余計な事は言わないで」

「申し訳ありませんでした」


一体何を話したんだか。悪口じゃないことを祈ろう。


「ちなみにどこに行くの?」

「前川、車出して」

「かしこまりました」


どこ行くの!? それくらい教えてくれてもいいじゃんか! しかし返答はなく、俺と不安を乗せて車は走り出す。











走ること十数分、どこに向かっているのか皆目見当つかない。にしてもリムジンすげーな。こんなに車内が広いだなんて。外見が凄ければ中も凄いってか。いつも見ている車のCMが鼻で笑えてくる。そしていつも乗っている我が家の普通車が惨めに思えてくる。これが社長と平社員の差か……。


「あ、これ天井が開くやつだ。うわっ、すげー。ねぇ、天井開けてみてよ」

「うるさい」

「すいません」


初リムジンにテンションの上がるのは仕方ないことだ。なのに春日はそれを跳ね飛ばす。なんでだよ。いいじゃん、せっかくだから天井開けてよ。こんな高級車もう乗ることもないだろうしさ。


「もうすぐで到着しますので」


安定した運転をする前川さん。そしてとても礼儀正しい。あなた良い人だよ。とても春日家の人間とは思えない。


「到着致しました」


停車したのは何やら高級そうなお店の前。英語で書かれた立派な金色の看板に豪華な外装。ショーウインドーを見る限りじゃ、


「……洋服店?」


俺にはそれにしか見えない。ってことは服でも買うのか? おいおい、完全にセレブの休日だよ。さっきまで遊園地にいたことが信じられない。


「行くわよ」

「あ、うん」


俺と春日は店の中へと入る。中も高級そうな雰囲気だな。外見が凄ければ中も凄いってか。あ、これさっき言った。店内に入ると眼鏡をかけた若い女性店員が俺達を迎えてくれた。かなりの美人。眼鏡美人というやつか!


「いらっしゃいませ」

「予約している春日だけど」

「春日様ですね。承っております、どうぞこちらへ」


洋服店って予約とかするのか……へぇ、知らなかった。浅しき知識は庶民の限界。そして未知なるはセレブの世界!


「行きなさい」

「え、俺?」


なぜに俺? 聞いてないよ。


「行きなさい」


春日に背中を押されて奥へと進む。こ、怖いって。お、俺は一体どうしたら……。


「こちらです」


訳も分からず女性店員に誘導されて向かった先には三十代の男性店員が。これまたキリッとした良い男。あ、俺はそっち系じゃないよ。周りを見渡せばズラリと並ぶ紳士服の数々。


「ではお願いします」

「分かりました」


女性店員から男性店員にバトンタッチ。女性店員は消え、男性店員はメジャーを取り出す。


「では失礼致します」


そう言うと男性店員は俺の身長、座高、ウエスト、肩幅……あらゆる測定をそつなくこなす。俺はされるがまま。まるで呼吸するマネキンのようだ。


「はい、終わりました。お疲れ様です」


メモ用紙に俺の身体データを書き終えた店員さんは奥へと消えていった。周りには誰もいない。なんだか急に心細くなってきたんだけど……。すると男性店員が高級そうなスーツを抱えて戻ってきた。


「では、こちらを試着してみてください。試着室はあちらにありますので」

「は、はあ。ご丁寧にどうも」


スーツを受け取り、試着室へと入る。目の前の鏡にはなんとも言えない顔の自分が映っていた。だって何が何だか………俺はどうしたら……?


「とりあえず着ますか」


俺が出来ること、それは試着することだけ。制服を脱いで、シワ一つないスーツを袖に通す。うお~、サイズピッタリ。ズボンも完璧。あとネクタイの付け方分からん。


「よろしいですか?」

「あ、はい」


後ろのカーテンが開かれる。そこには店員二名と春日の姿が。うわっ、こっち見ないで。なんか晒し者みたいで恥ずかしいよ。


「サイズはよろしいですか?」


男性店員が尋ねてくる。ついでにネクタイを付けてくれた。助かります。帰ったら父さんに付け方聞いておこう。


「はい、ちょうどいいですよ」

「とてもよくお似合いですよ」

「あ、ありがとうございます」


女性に言われると嬉しいな。たとえお世辞であろうとも。お店の売り文句であろうとも!


「では、こちらでよろしいですか?」


男性店員が春日に尋ねる。つーか春日は褒めてくれなかった……。


「ええ、これでお願いします」


上品な美しい笑顔で答える春日。普段からその笑顔でいられないものかねぇ。いつも無表情で何考えてるか分からない顔しやがって。


「では包装いたしますので、すみませんが脱いでもらえますか?」


そう言ってカーテンが閉められる。え……これをどうするの? 買うの? 誰が? 春日か? そしてなぜにスーツを買う?






「ありがとうございました。またのご来店お待ちしております」


全く状況が理解できないままスーツは購入された。俺はスーツを買うお金を持ってないので、支払いは春日がカードでしてくれた。このスーツ一式で一体何万するのやら……それをサラッと支払った春日……もう人間としてのランクが違うよね。


「……なんでスーツ買ったの?」

「……この前のお礼」


この前? この前って………あぁ、誘拐された時ね。確かに春日の親父さんもお礼をしたいって言ってたな。それでこのスーツか。


「いやいや、お礼だなんて。そんな気を遣わなくても」

「明日の六時半頃に迎えに来るから、そのスーツを着て待っていなさい」


……全然会話のキャッチボールができていない。一方的過ぎるだろ。ちょっとは会話というものをやってみませんか!?


「えっと、どこか行くの?」

「ご飯を食べに行くだけよ」


食べに行くだけって……こんなスーツ着て行く所って高いんじゃ………今までの流れだと、とてつもなく高級そうなレストランしか思い浮かばないんだけど。


「とりあえずスーツありがとう」

「そ。じゃあ、次行くから」

「次って」

「行くわよ」


だ、だからどこに行くんだよ!? 行き先教えて!











遊園地の集合場所。ぞろぞろと生徒達が溢れるように遊園地から出てきた。


「あ、将也! どこに行ってたんだよ?」

「よぉ、米太郎。楽しめたか?」

「まあまあだ。俺の存在はほとんど無視されていたけどな! ……ん? その袋は?」

「これか? これはスーツと靴だ」

「は?」

「スーツと靴だ」

「何言ってんだお前?」

「……スーツと靴だ」



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