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第11話 嬉しいアドレス交換

昼休み、俺は図書室へと向かっていた。今回は春日のパシリではなく、プライベートでの来場だ。階段を上り、図書室の扉を開く。通い慣れた生徒なら「相変わらず本の匂いが鼻をくすぐるぜ」みたいなキザな台詞を言うかもしれないが、俺は指の数ほどしか来ていないので「今日も静かだなぁ」と馬鹿丸出しのことしか思わない。いつも通りの静かな図書室に入り、カウンターで司書さんに本を返す。


「はい、ありがとうございます」


周りに気を使った小声の丁寧な口調で司書さんは本を受け取ってくれた。さて、このまま帰るのも何なので少しぶらつくか。とりあえず難しい書籍とかを読むふりして知的アピールでもしようかな。……誰へのアピールだ?


「ねぇ」


つんつん、と背中を突かれるので後ろを振り向くと、


「あ、火祭」


赤みがかった長髪の女子生徒、火祭がいた。最近知り合った俺のオアシス。すごく可愛い。これ重要。


「本返しに来たの?」

「そうだよ」

「感想聞かせてよ」


俺が借りた本は火祭に勧められたもので、そういえば感想を言う約束をしていたな。


「いいけど……図書室では静かにしないといけないし」

「なら下に行こうよ。コジローにご飯あげる時間だから」

「オッケー」


俺と火祭は図書室を出て階段を下り一階へと向かう。下りた先、建物玄関口には黒ぶち猫のコジローが既に待ち構えていた。いやらしい奴だなお前は。火祭はポケットから取り出した鰹節をコジローにあげる。なんとも微笑ましい光景ですな。


「それでどうだった?」

「あぁ『川の宿』ね。短くて読みやすかったよ。外国人が著者の本を読んだのって初めてかも。なんか頭に寒気が食いこんでくるような……イメージが鮮明に浮かんできた。興味深い内容だし読んでいて面白かったよ」


土日であっという間に読み終わっちゃったんだよな。意外と俺って読書好きかもしれない。この調子なら昔、挫折したハリーも全巻読破できるかも。


「うん、私もそう思う。著者のモープッサンは他にもたくさんの短編集を書いているから、そちらも読んでみるといいよ」

「気が向いたら読むかも」


そこからは本の感想を喋ったり、他愛のない雑談などをしてとても充実した昼休みを過ごした。あ~、ほのぼの。なんて平和的日常。心が安らぐよね。











「あ、そろそろ予鈴が鳴るみたいだね」


火祭とのんびりしていると、図書室から二、三人生徒が出てきた。それを見て火祭がそう呟いた。


「らしいな」


携帯を取り出して時間を確認。『新着メール 春日恵』の文字が目に飛びこんできたが、見なかったことにしとこう。うん、そうしよう。


「やっぱり携帯持っているんだね」

「ん、まあ現代っ子の必需品だからな。特に珍しくもないし」

「………………もし良かったらメールアドレス交換しない?」

「お、いいよ」


少しだけ変な間があったが、そんなこと気にしない。火祭みたいな可愛い女子とアド交換なんて夢のようです。顔には出さないがテンション急上昇!


「じゃあ、俺から送るわ」

「えっと、赤外線ってどこ?」

「そこじゃね?」

「あ、送信できた。良かった」


赤外線通信で必ずもたつくというあるあるネタをした後、無事火祭とメアド交換。ちゃんとアドレス帳のハ行に火祭の名前が入る。うはあ、嬉しい。


「暇だったらメールしていい?」

「君ならいつでも大歓迎だよ。待っているね」


そう言ってもらえると嬉しい限りですよ。思わずニヤケ顔になりそう。


「そろそろ教室に戻るか。そういえば火祭って何組?」

「前に言わなかった? 私は一組だよ」


お~、やっぱ頭いいんだな。うちの学校はそれなりの進学校であり、学力もそれなりに高い。クラス編成は一、二組は特進クラスで、三~五組は進学クラス。あとスポーツ推薦クラスの六、七組といった感じだ。まあ、進学クラスが馬鹿というわけじゃない。それなりです。しかし一組のレベルはかなり高い。同じ特進クラスの二組との差はまさに雲泥もとい天と地の差、月とスッポンと言ったところだ。二組の下位の俺なんか敵いっこない。そういえば春日も一組だったな。やっぱ春日も頭いいのだろう。


「私は図書委員での仕事があるから先に戻っていいよ」

「へえ、図書委員なんだ。いやいや、俺も手伝うって」


ここで戻ると、また春日にパシられる。それはさっきのメールから言わずもがな。


「え、いや大丈夫だよ。本の整理ぐらいだから」

「いやいや、是非手伝わせてよ」


ここで授業開始まで粘って、なんとか春日を避けたい。そしてもっと火祭とほのぼのしていたい!


「でも……いいの?」

「いいのいいの」

「ありがとう……」


お~、ちゃんとお礼を言ってもらえるなんて……! 春日にも見習ってもらいたいものだ。


「よし、じゃあ図書室に行こう」

「うん」


俺と火祭は仲良く図書室へと向かった。しかし、放課後には結局春日に見つかってしまいローキックを食らったりした。はい痛かったです!



ここで出てくるモープッサンとは架空の人物で、ギ・ド・モーパッサンというフランスの作家がモデルとなっています。『川の宿』もモーパッサンの作品『山の宿』をもじったものです。『山の宿』は新訳の文庫版『モーパッサン短編集』に入っていますので興味ある人は是非一度読んでみてください。まあ、それより『へたれ犬』の方を読んでくださいというのが本音ですけど……。

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