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第102話 制裁から一夜

気づけば朝になっていた。目を開けばしっかりと光を感じることができ、天井も鮮明に映し出されている。良かった、かん体細胞も錐体細胞も死滅していないようだ。呼吸もしっかりできる。肺は潰れてないし気管も無事。腹をさするとズキッと痛みはしたが、問題はないはずだ。ゆっくりと立ち上がって体全身のチェック。足も動く、手も動く。一度、深呼吸……


「ふぅ………はぁ………」


隣に目を向ければベッドに米太郎が沈んでいた。もう一度目を閉じて、暗闇に戻る。その瞬間フラッシュバックする風呂場での惨劇。腹と背中に痛みが走った。ぐっ……体が震えてきた。落ち着け、落ち着くんだ俺。


「……あれは夢だったのか?」


そんな気がした。そうであってほしいと願った。風呂場での惨劇はただの夢で実際は酒に潰れた俺は朝まで眠っていただけ。つまり実際には俺と米太郎は覗きなんてしていない。そう、そうだ。そうであってくれ。あれは夢だったのか……。


「うーん、夢で意識が飛ぶってことあるんだな。痛みも残るとは……夢って怖いな。夢で死にかけたもん」


夢である。そう自分に言い聞かせてポリポリと頭を掻いて部屋から出る。……頭にでっかいたんこぶがあるのはどうしてだろ? ま、待つんだ。だからあれは夢だって。俺が覗きだなんてするはずないじゃん。というか覗きをしたとなるとマズイって。俺ってば最低な奴じゃん。だ、だからどうか夢であってください。この腹の痛みとたんこぶは気のせいだと思いたい!






身支度を整えて食堂へと向かう。そっちから人の気配がしたので、おそらく水川達が朝食を食べているのだろう。……ここではっきりする。俺達が覗きをして水川達にバレて火祭に殺されかけたのが夢か、現実かが……! さあ、判決は……


「あ、覗き魔B」


扉を開けると途端に水川の冷たい一言。………あぁ、現実だった。あれは夢でなく現実。覗きがバレた、というか失敗に終わった俺は火祭に制裁を受けて朝まで眠り続けたというのが正しい記憶。それは認めたくなくても事実。うぅ、急に頭と腹が痛くなってきた。つーか空気が痛い。


「やあ、おはよう皆」

「おい昨日の件なかったことにしようとすんな覗き魔B。死ね」


厳しい。俺への当たりが強烈に厳しい。つーかBって……あ、米太郎がAね。


「……」

「……」


春日と火祭も目が怖い。いや、無表情なのだがそれが怖いといいますか、俺を見る目が人を見る目じゃなくて……ケダモノを蔑む目なんですよ。空気が半端なく痛い。全方向から拳銃を向けられているような圧迫感、緊迫感、焦燥感の感感感! 空気の五指に握り潰されているようだ、生きてる心地がしない……。


「覗き魔B、何か言いたいことは?」


ぐっ………何気ないトークで昨日のことをうやむやにしようとしたが、それは無理みたいだ。徹底的に俺を追い詰める気だぞこの三人は。心なしかウエイトレスの女性達も俺を白い目で見ている気が……。ここに俺の味方はいないようだ。誰しもが俺を汚物を見るように不快感を露わにしている。全員が敵、そして悪者は間違いなく俺。そんな俺がやることは一つ、


「昨日は真に申し訳ありませんでした」


謝罪と土下座。頭を床にこすりつけまくる。この場にいるのは全員女性だって? 知るかそんなこと。もうね、諦めましたよ。この状況、こうでもしないと気が休まらない。立っているだけだと視線が痛すぎて意識が飛びそうになるのだ。だからこうやって土下座している方が気持ちとしては楽になる。まあ、土下座をしたところで水川達が許してくれるわけないのだが……


「分かった、許してあげる。頭上げていいよ」


が、耳に届いたのは思いがけない言葉。今なんと……?


「お、お許しくださるのですか……?」

「うん」


な、なんて良い人達なんだ……! 女の敵である覗きを実行しようとした俺を許してくれるなんて……あ、ありがとう。慈愛に満ちた笑顔の水川。あぁ、あなたが天使に見えるよ。天使マミー、アイラブユー。


「ただし、一発芸しろ。こっちが満足するまで」

「…………………え?」

「早く」


天使がニタァと下劣な笑みを浮かべた。いや天使じゃない……こ、こいつぁ悪魔だ! いたぶるかのように口元をひどく曲げて目が恐ろしい光を放っている。早くやれと催促か。あ、悪魔め……!


「さあ、早く」


こ、この空気で一発芸……この完全アウェーの静まり返った空気で一発芸をしろと? む、無理だってぇ! 絶対スベるって! 絶対に怪我するって! 今度こそ再起不能になるってぇっ!


「さあ……!」


う、う、うわああぁぁっっ!?






最悪のモーニングだった……。あんなに大怪我したのは初めてだ。スベりにスベった。それはもう昨日の比ではない。もう嫌だ、忘れたい。記憶の奥底に沈めたい。一生思い出すことのない最下層に埋めてやりたいくらいだ。……お、思い出すだけで寒気が……あ、ああぁ!?


「ぬおぁー!? 棺にぶち込んで鎖でぐるぐる巻きにして徳の高いお坊さんの札貼りまくって地面に埋めて土かけて線香焚いて両手でパンパン! もう忘れ去りたいわ!」

「ど、どうしたんだい?」


自分でも意味不明なことを口走っていると後ろから声をかけられた。優しい男性の声。はい味方! この声知ってる~。


「金田せんぱ……どうしたんですか?」

「いや、僕が先に聞いたんだが」


いやいや、それより金田先輩が先ですって。だって……左頬がおもっくそ腫れてますよ……えぇ!?


「な、何があったんですか?」

「実は昨日のことでね……覗きの実行犯は兎月君達だが僕はその協力者として扱われてね。先ほど恵さんから殴られたんだ」

「……す、すいませんでした!」


ここに来てもう何度目やら。全力の土下座をかます。俺達のせいで金田先輩まで巻きこんでしまって……未来の社長さんにとんだ泥を塗ってしまってぇ!


「俺が馬鹿でした俺が馬鹿でした俺が馬鹿でしたあぁっ!」

「お、落ち着いて兎月君! そこまで頭を床に打ちつけなくていいから。僕は大丈夫だから!」


でもそんなに頬が真っ赤になるぐらいに殴られたなんて……責任感じますって。金田先輩は俺達に無理矢理覗きの手伝いをさせられただけなのだから。俺達が100%悪い!


「ホントにすいませんでした! こんな醜い自分をボコボコにして棺にぶち込んで鎖でぐるぐるにして土に埋めて十字架建てて両手をパンパン! ああぁぁっ!?」

「兎月君落ち着いて。これ以上は頭から血が出てしまうよ!」



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