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第101話 極楽の湯、そこから男の浪漫へと変わり、それは悲劇と殺戮を引き起こす

ぬあ~、色々と疲れた……。とりあえず春日は帰ってくれた。今はまた米太郎と二人でダラダラと過ごしている。もうこのまま寝たいくらいだ。


「鈍感将也は~、マジで馬鹿~」


さっきから米太郎が訳分からん歌を歌っている。気持ち悪い。水も持ってこない使えない奴が。


「兎月君、佐々木君。いいかな?」


コンコンとドアをノックする音に呼ばれてドアを開けてみると、そこには金田先輩がドーン。


「どうしたんですか?」

「入浴の準備ができたから呼びにきたんだ」


入浴……お風呂ですか。






場所は変わって風呂場前。いやいやー、ここは金持ちの別荘でっせ? 普通のお風呂なわけがないでしょーよー。それこそ銭湯並の大浴場なのだ! たぶん!


「すげー……男湯と女湯で分かれてる。まるで温泉ですな」


米太郎の言う通り、入口が二つに分かれている。群青の暖簾(のれん)には男と、紅色の暖簾には女と書かれてある。まさに温泉じゃないですかい。


「わ~、すごいですね」


いつの間にか水川達も来ていた。そして春日よ、俺を睨まないでぇ。怖いから。


「ここの別荘は親戚や知り合いを呼んだりするからね。こういったように大勢で入れるようにしてあるんだ」


もはや別荘じゃなくてホテルだよ。普通に営業できますって。ホテル金田でやりましょうよ。


「大人数が入れる浴場に露天風呂もあるから」

「露天風呂っすか!」


おぉ、それはすごいですね。海を眺めながら湯に浸かってあぁ極楽……いやー、素晴らしいじゃないですか!


「けど、露天風呂は混浴になっているから気をつけて」

「えーっ!? 最悪ぅ~」


こちらをすっごい睨んできた水川。おいおい、俺達をケダモノのような目で見るなよ。


「ふざけるなマミー。誰が覗き目当てで露天風呂に入るか」

「マミー言うな。インディカ米のくせに」

「誰がインディカ米だ! つーか覗きなんてしないし、そんなに嫌なら露天風呂に入らなかったらいいだろうが。代わりに俺達が露天を楽しんでやるからよぉ。あっははは!」


ズカズカと男湯に入っていく米太郎。上機嫌だなおい。


「では僕達も行こうか。女性方もゆっくりお風呂を満喫してくれ」


バイバイ水川と火祭と睨む春日~、と。上品スマイル金田先輩に連れられて俺も入る。うお~、脱衣所も広い。つーかこれマジで温泉じゃん。こんな広い脱衣所を個人が持っているとは……金持ちすげー。改めて金田家の財力に感心しつつ生まれた時の姿になって浴場に突撃っ! う、うおー!?


「でかっ!」

「俺の息子が?」


お前の愚息のことじゃねーよ! この風呂場の大きさだよ。ま、まさに温泉……広すぎだろ。立派すぎて開いた口が塞がらない……あ、ありえねぇよ。テレビとかでよく見る高級な旅館にありそうな温泉がどどーんとあるのだ。パネェよ、パネェ。マジですごい。ここって孤島だよね? どうなってるのさ!?


「あっちがジャグジーで、こっちの小部屋がサウナになっているから」


マジですか、サウナがあるんですか!? すごいですね。いや、もう、すごいですね! だって、こんな、あれ…ちょ、っ……すごいですねぇ!


「よっしゃ将也、サウナで我慢大会だ!」

「はいはい」






あぁ、気持ちいい……。極楽だわ~……幸せ。今日の疲れを全て取ってくれるぅ~。心も体もリラックス~。


「どうだい湯加減は?」

「最高ですよ」


さすがですね、もう感無量ですよ。ここに週一で通いたいくらいです。金持ち最高ーっ!


「ぶはぁ、暑いぃっ!」


サウナから全裸で米太郎が出てきた。そして水風呂にダイブ。きゃはあぁ、と奇声を上げている。いちいちうるさいやつだな。大人しく風呂を満喫することもできないのか。


「ここって毎年来ているんですか?」

「ああ、いつもは家族で来ているんだが、僕は受験だから今年は来ないつもりだった。だけど君達にお礼がしたくて」


それはわざわざお招きしてくれてありがとうございます。とても良い思い出になりそうです。今度は俺が何かお礼をしなくては。む……う、う~………庶民の俺に何ができるのやら。


「兎月君は長風呂する方かな?」

「いや、俺いつもは短いですよ。でも温泉行った時はのんびりと浸かってます」


せっかくの温泉だから満喫したいよね。普通に家で入る時はカラスの行水よろしくさっさと上がるけど。


「そ、ん、な、ことより~。将也ぁ、まだやることがあるだろ?」

「あ? ……ああ、露天風呂ね」


露天風呂か……涼しい夜風に吹かれ夜空を見上げつつ、熱~い湯に浸かって……くぅ~!


「惜しい。露天風呂じゃないんだな……混浴さ!」


混よ………あぁ、こいつは……。やっぱ覗きじゃないか。さっきは興味ないみたいなことを言ってたくせに、いやらしいな。


「さあ、楽園に行こうぜ!」

「はいはい」


どーせ結果は……


「い、いない!? 誰もいないぞ!」


おー、景色ハンパねぇ。星空も綺麗だし夜の海って新鮮だな。うぅ、寒い。早く湯舟に~……あぁ極楽~。最高~!


「ま、将也将也将也将也ぁ。露天風呂に誰もいないぞ!」


そりゃそうでしょ。お前がさっき露天風呂に行くって叫んでたじゃん。それ聞いて女性陣が来るとでも? ははっ、ありえない。


「残念だったな。あー、極楽~」

「……しょうがない」


米太郎? どしたよ、そんな気持ち悪い顔して。何か良からぬ企みを考えてる顔だな……ん、おいおい……まさか………!?


「覗くか」


清々しく言うな。この馬鹿は……やっぱり馬鹿だった! 堂々と覗く宣言しやがって。


「このシチュで覗かないなんて、男じゃねーよ」

「安心しろ、それ以前にお前は人間じゃない」

「いいから将也も来いよ。将也だって覗きたいくせに~」


仲間だろ? みたいな目を向けてくるな。そして否定できないことを言うんじゃありません。そ、そりゃ俺だって年頃の男の子だし、そういうのに興味がないと言えば嘘になるわけで……。覗けるなら覗きたい。それが本性であったりする。


「……いや、まあ、うん、覗くのには大いに賛同するが、どうやって覗くんだ?」


露天風呂が混浴だと聞いたからそこで繋がっていると思ったが、女湯の方は頑丈な壁があり、こっち側からは開けられないようになっている(と米太郎が叫んでいた)。さらに設備されたドアには鍵までついている始末。女子達には鍵が渡されている(と金田先輩が説明してくれた)。つまり男湯から女湯へと関与する道も術もないのだ。漫画みたく都合の良い覗き穴なんてものはない。こんな高級浴場にあるはずがない!


「確かに女湯を覗くルートは一切ない。さっきサウナから何やら隅々まで抜け道を探したが、残念ながらなかった」


何やってんだお前は。全ては覗きのためか。逆にもうお前は勇ましいよ。男だよ!


「てことは無理じゃん」


よくよく考えると、覗く相手は火祭と春日……殺されるよね。バレたら問答無用、即刻排除のゲームオーバー……うっ、ヤバい。


「や、やっぱやめよう。相手は春日達だぜ」

「将也よ、お前の言いたいことはよ~く分かる。バレたら一巻の終わりだ。しかーし、俺にはある秘策がある。合理的に覗く方法がな……ふふっ」


ニタァ、と不気味に微笑んだ米太郎はどこからか突然と白い袋を取り出した。そしてその袋をこちらへと突きつける。


「は?」


中を見ろってことか。とりあえず中を覗いて見、うおおぉぉっ!?


「きもっ!」


袋の中には大量の虫が、があああぁぁっ! あああぁぁぁ、気持ち悪い!


「うがあああぁぁっ、キモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイモイモイモイモイモイモイ!」


「お、落ち着け将也。途中からモイモイ言ってるぞ?」


俺に近づくな、このド変態野郎ぉ! む、虫を集める趣味があったのかよ。


「おほほっ、効果絶大だな」


はぁ? 何を満足そうに笑ってんだよ。気持ち悪いっつてんだろ!


「これはな、おもちゃなんだよ」

「おもちゃ……?」


米太郎は袋から虫を一匹取り出して手の平に乗せる。……よ~く観察してみると……おぉ、作り物だ。すげーな、細部にまでこだわった完璧な作りだ。本物と見間違うのも仕方ないくらいに。


「ふふっ、おもちゃ屋『リアルの追求』から大量に買ってきた。一匹あたり二百円~」


なんだそのお店。どこにあるんだよ。


「で、このおもちゃで何をするんだよ?」


うげえ、気持ち悪い。作り物だと知っていても触れないよ。気持ち悪ぃ……。


「これを女湯に向かって投げるのさ」


白い袋をひっくり返す米太郎。どばどばぁと溢れ出る虫の大群……ぎゃああぁぁっ!? 気持ち悪いぃぃっ! 鳥肌があぁっ!


「うぎゃあ、モイモイモイモイモイモイモイ!」

「もはやモイしか言ってねーよ。ちょ、落ち着けって!」


風呂へダイブ! ぬあ~、気持ち悪い。大量に出すぎだろ。何匹買ったんだ何円使ったんだ!


「けけっ、これだけの虫を見てびびらないわけがない。水川達の悲鳴が楽しみだぜ」


うひひ、としゃがみこんで虫を集める米太郎。うげぇ、気持ち悪い光景。見たことない虫までいるし……ゴキブリとか本物にしか見えないぞ。


「気持ち悪っ。で、それがどう覗きに役立つんだよ?」

「ちょ~っと考えてもみろ。風呂場に虫が出る。それにびっくりした水川達は悲鳴を上げて逃げだす。俺達は悲鳴を聞いて駆けつける。そして全裸の水川達を目撃……うひゃひゃ! どうだ、完璧だろ」


こ、こいつ……なんて計画的な犯行を……!


「俺達は悲鳴を聞いて駆けつけただけで決して覗こうとして行くわけじゃない。そして虫にびっくりした水川達がタオルを巻く暇もなく風呂場から出てきたのを見てしまってもそれは事故だ。俺達は悪くない。こっそり覗くのではなく堂々と拝む。くくっ、これが覗きの新しいスタイルだ!」


死神のノートを手に入れた天才みたいにゲラゲラと高笑いする米太郎。新世界の神気取りか。


「つーわけで金田先輩っ、露天風呂でスタンバってください」

「ぼ、僕が?」

「あと三分したら女湯目掛けてこれを投げて、その後大声で虫が出たぁ! と叫んでください。では、よろしくです!」


虫の大群を金田先輩に押しつけると米太郎は走り出した。戸惑う金田先輩。


「ほら早くしろ将也。あと三分で着替えて準備するぞ!」


作戦はもう始まったってか。ふっ……行きますか!


「金田先輩頼みます」

「あ、ああ」






大急ぎで着替えて女湯の前にスタンバイ。隣の米太郎はウキウキワクワクと鼻の穴を膨らませている。スケベな奴め。


「おい将也、鼻の穴膨らんでいるぞ」

「おっと気をつけないと」


下心を見せたら駄目だ。せっかくの計画がパーになってしまう。


「いいか? いかにも心配そうに真面目な表情で行くんだぞ」


分かってるって。これから起こることはあくまで事故だ。シリアスムードのつもりで突入しないとな………でへへ~。


「む~、三人とも正直言って胸は全然ないけど、それはもう承知のことだ。大人しく我慢してやるさ。浴場から慌てて出てきてその美しいスレンダーな裸体をさらけ出して……むふふっ、小ぶりな胸を精一杯揺らして……きゃきゃきゃ!」


おいおい、鼻の下伸ばしすぎだって。作戦が台無しになっちゃうだろうが。


「おい将也、鼻の下伸びてるぞ」

「おっと危ない」


などとワクワク待っていると……


「む、虫だー! うわぁっ!」


男湯から聞こえたのは金田先輩の声。作戦開始の合図だ。指示通り、おもちゃの虫を投げてくれたはず。


「来い、来い、悲鳴来い……!」


数秒のタイムラグの後、


「キャーっ!」


女湯から響いたのは金切り声に近い叫び声。き、き、き……!


「来たぁ! 行くぞ将也」

「おうっ」


顔を引きしめて紅色の暖簾をくぐる。うほっ、禁断のエデンに突入~……さあ、来い! 堂々と見てやるぜ!


「キャーっ!」

「どうした!? 三人とも大丈夫か!?」

「俺と将也が助けに来たからにはもう安心。さあ、俺の胸に飛びこんでおいで!」


虫の襲撃に驚いた女子達はタオルを巻くこともなく、そのままの姿をさらけ出し………え?


「あ、あれ? ちょ……嘘だろ……!?」


いち早く乗りこんだ米太郎が膝をついていた。あ、な、な、なんで……なんでタオル巻いてるの!? 視線の先、水川と春日と火祭。この三人は見事なまでにタオルをガッチリと巻いておるではないか!


「は、は……はれえぇぇっ!?」


う、嘘……嘘嘘嘘嘘嘘!? シドの嘘!? は、はひぁ? な、なんで……おかしいよ!? いきなり虫が出てきたら慌てて逃げるじゃん。それこそタオルを巻く時間も惜しんで。なのに、がっちりタオル巻いてるし。ましてや俺達が突撃してくることを予想していたかのように待ち構えているなんて……はぁ!? お、おかしいよ……!?


「兎月ぃ、佐々木ぃ……いい度胸だね」


仁王立ちした水川。笑っているのに怖い。笑顔なのにすげぇ黒いオーラが溢れている。うっ、水川が本気で怒ってる。つーか計画がバレてる気が……。


「こ、米太郎どういうことだ。話が違うぞ!?」


タオルを巻いているなんて予想外だ。まったくの期待ハズレ。こんなの望んじゃいない!


「うぅ!? ば、馬鹿な……ふざけるなよ水川。全裸で来いよ。なんで全裸じゃないんだよ!?」


それは見事なまでの逆ギレだな。なんで全裸じゃないんだよってキレ方あります? 聞いたことないよ。


「……これ、おもちゃでしょ」


水川が手に持っているのは虫のおもちゃ。おもちゃとはいえ、その完成度は本物と遜色ない。なのに平然と掴んでいる水川。し、しまった水川は虫平気なタイプか!?


「私達見たんだ。佐々木のバッグの中にこれが入っているの」

「え?」


ふえ、ちょ、なっ……どゆことですか?


「びっくりしたけど一度見たことあるから平気だったの。そしてなぜ佐々木がこのおもちゃを持ってきたのかも理解した。……馬鹿なりに考えたみたいだね。でも私達には通用しないから」


や、やられた。夕食前に水川達が悲鳴を上げたのは米太郎のバッグの中の虫のおもちゃを見つけたから。そして風呂場に現れた虫を見てもすぐにおもちゃだと気づき、さらに米太郎の計画に気づき、しっかりタオルを巻いてわざと悲鳴を上げて俺達を誘いだした。…………やられた、完全に計画を読まれていた……っ!


「ば、馬鹿な俺の…あ、違う。俺達の完璧な計画が……」


うおおぉい!? 俺を巻き込むな。作戦を立てたのも虫を準備したのも覗きを企んだのも全部お前だろうが。俺はそれに乗っかっただけだ!


「うーん、佐々木のバッグを見る機会がなかったら危ないところだったよ。故に制裁はかな~りキツイのを加えないとね……」


め、目が怖いよ水川。笑顔だけど、目は全く笑ってないよ。他の二人もすっげー白い目で見てくるし……。春日なんかゴミ虫を見るような目をしてるし……なんか死の呪文唱えてない? こ、怖い。


「あわわわ!? 違うんだ、これはほんの出来心で……」

「桜、やっちゃって」

「うん」


瞬きをした直後には目の前にいた火祭は消えていた。視界に映るのは春日と水川の姿のみ。ど、どこに……?


「ぅ!?」


まず最初に空気が弾けた。次に聞こえてきたのは爆裂音と米太郎の声にならない悲鳴。隣を振り向けばそこに米太郎はおらず、見失ったばっかりの火祭が拳を打ち抜いていた。そして後ろから衝撃音。何かが壁にぶつかる音がした。


「こ、米太郎……!」


か、壁には米太郎が張りついていた。その表情は恐怖で固まっており、ずるずると米太郎が落ちてきた辺りで俺の横を風が走り抜ける。火祭が起こした風が数秒の時間差で今頃になって……ひ、ひぃ!?


「覗きを企んだ罪は重いよ。ねぇ~兎月ぃ……」


床へと崩れ落ちた米太郎。白目を剥いたまま人形のように全く動かない。ぐにゃぐにゃに折れ曲がった手足が無惨……あわわわ……!


「まー君」

「は、はい!?」


ヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ! 米太郎を葬った今、次なるターゲットは……俺。横からただならぬオーラを感じる。これが殺気というのか……息が詰まる……!


「覚悟はできているよね?」


呼吸の自由まで奪うほどの火祭の殺気。体中から溢れ出す脂汗。喉が急速に渇き、心臓が締めつけられる。手先が震え、足がすくんで動けない。こ、これが血祭りの火祭モード……真正面から体験するのは初めてだ。


「ま、待って火祭。ぼ、ぼぼ暴力は駄目だぞ。もう暴力は振るわないって約束したじゃないか」

「まー君、これは暴力じゃないよ。これは……制裁だよ!」


またも火祭が消えた。微かに残像が見えたかと思えば、懐には火祭が。それも一瞬のこと。腹部を襲う衝撃に全身の酸素が口から一気に吐き出された。次の瞬間には視界は大きくブレて天地がひっくり返った。そして浮遊感。足が地を離れ、体が宙に舞う。何が起きたか分からない。ただ腹が痛い。全ての内蔵が弾けたような内側から襲う痛みとぐるぐる回る景色に吐き気がする。しかしそれも一瞬のこと。背中を激痛が襲い、骨が呻いた。た、叩きつけられたのか……? 次には視界が段々と薄暗いなっていき、腹の痛みが熱とともに増してきた。ぐっ、がっ、あああぁぁぁっ!?


「は、らがぁ……」


あ、熱うぅ! 腹が熱くて痛い……があぁ!? 痛いどころの騒ぎじゃない。痛すぎて体は動かせないし、呼吸もままならない。こ、呼吸がぁ……く、空気が入らない……い、息が……ぅっあぁ!?


「か、かー……かー…っあぁっ……」

「苦しい? ごめんね。でも悪いのはまー君達だから」


視界はもう真っ暗だ。目はぱっちりと開いているのに何も見えない。耳にやけにギンギンと響く火祭の声と自分の鼓動音が鮮明に聞こえる。激しくのたれうちまわる心の臓。内臓は硫酸を直接注ぎ込まれたかのように熱い。灼熱の痛みが腹の中を暴れ、全身を走る血の流れが頭から足の指先まで感じる。体がおかしい。あらゆる器官が異常反応に過剰反応と支障をきたしている。目が開いているのに光を感じない。口を開いているのに空気を取りこめない。今自分の体のどこを動かしているのか分からない。全てが異常だ。神経も筋肉も何もかもがイカれている。い、息がで、きな……い……ぐっ、ぐうぅ……


「がっ、あ……っ……」

「楽に死なせてあげたかった……ごめん、もう一発」


火祭の声が遥か遠くの方から聞こえた。その後に耳に届いたのはギロチンが落ちる音。その音は今度は耳のすぐ傍で聞こえたような。そしてそれは間違いではなかった。真っ暗の視界の中、脳がぶち抜かれたような衝撃を受け俺の意識はそこで途絶え、た……



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