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第10話 嬉しくないアドレス交換

その日の夜、ものすごい形相で父さんが帰ってきた。


「将也…お前って奴は……」


これでもかと言わんばかりに顔を近づける父さん。やめてくれ、加齢臭がひどいって。鼻がひん曲がりそうだ。こんな大人にはなりたくない。


「今日、社長からお呼びがあった」

「う、うん」

「平社員の父さんが呼ばれるなんて、ありえないことだぞ」

「へぇ」

「父さんは死を覚悟した。お前と母さんを残して逝くのは心苦しかったよ。特に将也には何もしてやれなかった……すまん」


いやいや、父さんまだ生きてるから。勝手に死んだノリで話を進めないで。


「遺書を書かせてくれと懇願する父さんだったが、社長は『君の息子が私の娘を助けてくれた。社長としてではなく一人の父親として息子さんに感謝しています。有難うございます。息子さんによろしく』とおっしゃられた」


おぉ、やっぱりちゃんとした人だったよ。良かった、ただの親バカではないようだ。


「父さん心臓が停止するかと思ったよ。とにかく! よくやったぞ将也。この調子で春日さんの好感度を上げて父さん達をドバイに連れていってくれ!」

「楽しみにしているわ」


そう言って父と母は楽しげに旅行計画を練りつつ夕食を食べ始めた。すぐ調子に乗りやがって。つーか俺がどうやって春日を助けたか聞かないんだね。知りたくないんだね! なんて親だよ。











週末は家でゴロゴロしたり友達と遊んだりなどして、あっという間に月曜日。休みの日ってすぐ終わるよね。気づいたらもう夕方!? みたいな。そして何も得られなかった自分に溜め息。人生とは何かを得てこそのもの。何も得ないことは生きていないことと同じだ。うん、馬鹿なりに哲学者みたいなこと言ってみた。誰か共感してくれないかな。今度ブログに乗せてみよう。いや、ブログやってないけど。


「兎月君、一組の春日さんが呼んでいるよ」


一時限目開始前の休み時間、教室で俺が米太郎と週末にあった深夜番組『おねだりブルーベリー』について熱く語り合っていると、クラスの女子にそう言われた。朝からご指名。その相手が……ねぇ……。


「春日か……はぁ」


またパシリだろうな。嫌だね~、朝はゆっくりしたいよ。憂鬱な気分で廊下へと向かう。


「ま、将也! いつの間に春日さんと仲良くなったんだよ?」


さっきまでニヤニヤ顔だった米太郎が驚愕と言わんばかりに声を荒げる。おいおい、目が怖いって。飢えた野犬みたいだぞ。


「いやいや、全然仲良しじゃないから」


単なる主人と下僕の関係ですよ、って自分で言うと空しいな。ギャーギャーうるさい米太郎は無視して廊下へと出る。そこにはいつも通りお美しい姿の春日さんがいました。そして無表情。


「おはよう。今日も紅茶?」

「言ってる意味が分からない」


……いや、あなたが紅茶買ってこいって言うと思ったので。


「兎月、携帯貸しなさい」

「なんで?」

「貸しなさい」

「どうぞ」


今日も絶好調、俺の犬魂。あー情けない。乱雑に俺の携帯を奪い取ると春日は自分の携帯と俺の携帯をくっつける。あ~、赤外線通信ですね。それならそうと言ってくれたらいいのに。女子と赤外線をやる楽しさを知らないのか。特に可愛い女子とだと、ニヤニヤしそうなのを堪えるみたいな。そういう楽しみがあるのにさ。


「はい」


春日から携帯を受けとる。アドレス帳には『春日恵』とあった。


「用事があったらメールするから。呼んだらすぐに来なさい」


登録したばっかりであるが早速着信拒否にしたい。要は呼びベルじゃねーか。もしかして、春日が俺とメールしたいのかなとか勘違いしちゃった。はい恥ずかしい。春日はそれだけ言うと自分の教室に戻っていった。……う~ん、また俺の勘違いだと思うけど、なんとなく春日との距離が縮まったっぽいんだよな。昨日の頑張りで少しは認めてくれたのか。ちょっとは「あ、こいつ頼りがいある」と思ってくれたかな?


「春日さんとメアド交換だなんて羨ましいなチクショー!」


教室から顔を半分出した米太郎のシャウト。怖いわ。顔半分ってなんか怖いわ。おいおい、どこが羨ましいんだよ。こんなの女子のメアドゲットのうちに入らないから。


「代わってもらいたいぐらいだけどな……ん?」


携帯のランプが点滅する。メールか? 相手は………春日恵……。


『紅茶買ってきなさい』


……だから俺さっき言ったじゃん!



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