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第1話 出会いと下僕宣言

初投稿です。

ものすごい未熟者ですので、どうか生温かい目で見守ってください。


意見、感想、誤字脱字訂正、批評なんでもお待ちしております。

今朝は雨だった。


四月半ば、季節は春といってもまだまだ寒さは残り、ましてや雨となっては気温もぐっと下がるわけで。ということで、いつもは自転車通学だが今日はバスで行くことにした俺。やっぱ朝というわけでバスの中は混雑しており、後方にクラスメイトの渡部君の姿が目に入った。しかしまあ渡部君とはそんなに親しくないので目で軽く会釈して俺は吊り革を持って立つ。あ~バスって快適……もうこれからもバス通学にしちゃおうかな。のほほんとバスに揺られること数分、次の停留所でバスが止まる。降りる人と乗る人でうごめく中、一人の女子が乗車してきた。その瞬間、車内の空気が変わった。ピシッと緊張が走ったような……な、なんだ?

原因として考えられるのはこの女子。あ、うちの高校の制服じゃん。艶やかな長い黒髪をなびかせて、ちょい強めのつり目が特徴的だ。まぁ正直言って可愛い。俺の中でトップ5にランクイン!

しかし、そんな大型新人アーティストよろしくなイメージはすぐに崩れた。


「アンタ、そこの席譲りなさいよ」


聞き心地良い美声だなんて二の次だ。こ、こいつ今なんて言った?


「え…で、でも……」


うろたえた声を出す渡部君、って渡部君かよ!

その女子は渡部君を睨み続ける。睨まれる渡部君とその震える手。重苦しい空気が張りつめる中、数秒の空白の後……


「ど、どうぞ」


おとなしく席を譲る渡部君。


「ふん」


お礼もなしかよ! その女子はさも当然かのように空いた席に座る。な、何様だ……。

弱々しく俺の横に並ぶ渡部君。その姿はとても憐れだった。つーか単純に可哀想。それと同時に情けなくも思う。あんな理不尽な要求に応えなくてもよかったのにさ。男ならガツンと言ってやろうぜ!


「ちょ、大丈夫?」

「だ、大丈夫だよ兎月君。いつものことだから」

「いつものことって……」


あんなことを毎日してるのか。おいおい、あの女子は何様ですか。女王気取りですかコノヤロー。


「あんなの無視すればいいじゃん」

「そうはいっても相手は春日さんだし……」


春日?











「ああ、それ春日恵(かすがめぐみ)さんだよ」


不快感バリバリの超絶ブルーなバスを降りて今は賑やかな教室でのんびりとくつろいでいる。渡部君にも笑顔が戻ったみたいだし良かった良かった。


「それって同じ学年?」


俺はクラスメイトの水川にさきほどのことを話していた。


「うん、そだよ。二年一組だよ」

「へぇ、まったく知らなかったよ、マミー」

「その呼び方やめてよ」


マミーこと水川は嫌だと言わんばかりに顔をしかめる。水川真美(みずかわまみ)って名前からのあだ名だが、マミーと呼ぶのはごく少数だ。水川とは一年から同じクラスでそれなりに仲良くさせてもらっている。ショートヘアーでつぶらで綺麗な瞳。容姿も可愛らしくて性格も良いと、男女ともに人気が高い。ちなみに彼氏はいないらしい。ちなみに俺もフリー! どうでもいい補足情報。


「でも、なんであんなに偉そうなんだよ」


あの態度はどう考えても普通じゃないだろ。ありえないって。


「噂だけど春日さんのお父さんって有名企業の社長らしいよ」


へえ~、だから偉そうなのか。いやいや、そうであろうと他人の席を奪っていいわけじゃないでしょ。常識を知らないのかねぇ。うーん……父親が社長か……すごいな。


「ま、いわゆるお嬢様ってやつさ」


と、低い声が背後から聞こえた。ああ、こいつか。


「いつの間にいたんだよ米太郎」

「その呼び方やめてよ」

「いや、アンタの本名だから無理でしょ」


後ろを振り向くとそこには長身で細身の男子が立っていた。こいつの名前は佐々木米太郎(ささきこめたろう)。こいつも一年からの付き合いだ。


「にしても米太郎ってホント面白い名前だよな」

「なんでそんな名前なの?」

「前に言ったじゃん水川! 覚えてねーのかよ」

「ほら、あれだよ。こいつん家さ農家だからさ、両親がお米のようにすくすく育ってほしいという願いを込めてつけたんだよ」

「その通りだ将也!」

「あ~ね。にしては凶作だねぇ」


クスクスと笑う水川。


「馬鹿にしてんのかマミー!」

「マミーって言うなインディカ米」

「な、なんだよインディカ米って」

「米太郎が身長高いからじゃね?」

「ちょ、そんなイケてないあだ名やめて」


ハハハと笑う俺と水川。ん?そういえば何の話だったっけ? ……ま、いっか。さて、今日の授業も頑張るか。











今朝は晴れだった。


昨日のうちに雨は止み、見事な快晴。絶好の自転車日和だ。つーことで自転車でさあレッツゴー……のはずが自転車がない。え? あれ? ちょ、俺の相棒は……?

玄関で呆然としていると母さんがぬっと現れた。


「自転車ね、今朝早くからおじいちゃんが乗っていったわよ」

「は? じいちゃんが?」

「なんか風になりたいって」

「意味分からんし! じゃあ俺どうしたらいいんだ?」


歩いて行くと一時間はかかるぞ。とてもじゃないが間に合わない。完全に遅刻。もれなくアウトだ。


「バスで行きなさいよ」


そう言って母さんは家の中に戻っていった。あんのクソジジイ覚えてろよ。勝手に人の自転車使いやがって。……しょうがない、今日もバスか。携帯でバスの時刻表を確認して近くの停留所へと急ぐ。

う~ん、なんか引っかかることがあるんだが………なんだっけ?

俺が停留所に着くと同時にバスも到着。混んでいるかと思いきや、後方に一つ席が空いていた。ラッキー。俺は空いた席に座る……と同時に周りの乗客がざわついた。な、なんですか?

よくよく車内を見回すと、渡部君が焦った表情で立っていた。


「お、渡部君。隣座る?」


しかし渡部君は首を横に力強く振って俺から視線を外した。……俺なんかしたかな? 渡部君の好感度を下げるような真似はしていないけど。昨日フランクに話しかけたのがいけなかったのかと考えているうちに次の停留所に到着。降りる人に乗る人、そして乗りこむ一人の女子生徒。空気が変わる車内。そして俺は思い出した……春日恵のことを。父親が社長でお嬢様のこいつは昨日、渡部君から席を奪った性悪女だ。車内を見回す春日。乗客は誰も彼女と目を合わせず代わりに俺を見てくる……って俺!? 俺ですかい!?


「え……!?」


もれなく全員が俺を睨んできた………え、なにその「せっかく一つ開けておいた席に座りやがって。お前のせいで俺らが立たないといけなくなるかもしれないじゃないか」的な顔は! つーかまさにその通りだよね! さきほどの渡部君の表情の意味がやっと分かった。ごめんね渡部君。


「ちょっとアンタ」


俺が一人反省会を開いていると、例のあの人春日が話しかけてきた。昨日の様子を見た限りじゃ用件は見当がつきます。他の乗客の皆さん、俺も空気は読みますからそんな目で見ないでくださいよ。分かってますって。俺がすべき行動ぐらい。


「……俺?」

「そ。そこの席譲りなさい」

「はい仰せのままに」


俺は鞄を脇に抱え、するりと春日の横を通り抜けて席を空ける。その様子を春日は少し驚いた様子で見ていた。


「これでいいでしょ?」


俺はそそくさと前へ移動して渡部君の隣に立つ。


「他のお客さんに迷惑かけたらいけないからさ」


本当なら春日相手にメンチ切ってもよかったが、周りの迷惑を考えるとそれはすべきじゃないと思ってね。


「う、うん、そうだね」


そしてバスは走り出した。ま、女子に席を譲ったと思えば気持ちは楽だな。うん、良いことした!

……え~っと、なんとなく春日がこっち見てる気がするけど、気のせいだよね?






バスを降りてすぐ、予想もしない人物から声をかけられた。


「ねぇアンタ」


まさかだった。春日が俺に話しかけてくるなんて。


「渡部君、一緒に仲良く登校しようぜ!」

「ぼく今日、日直だったかもだからー!」


急に走り出す渡部君。つーか日直だったかもって! 完全に逃げたよ……。


「無視するな」

「いや…俺ですか?」


俺なんかしましたか春日さん? あなたに席を譲ったごく普通の高校生なんだけど。


「学年は?」

「二年生です」

「クラスは?」

「二組」

「名前は?」

「兎月将也(とづきまさや)」

「私の鞄持ちなさい」

「はい……ってなんで!?」


びっくり! 何気ない質問からいきなり鞄持てって……。あまりに自然な流れで思わずOKしかけたよ。


「え、ちょ……は?」


すると春日は自分の鞄を俺に押しつけてきた。いやいや、持つとは言ったけどさ、最後になんで!? って聞いたよね。そこは無視ですかい?

でもここで反発してもしょうがないし、俺は素直に鞄を持つ。鞄を渡した春日は俺を置いて歩きだす。俺もその後ろについていく。……これ完全にパシリ状態だよね? なんで俺はこんな素直に従順してるんだ? ガツンと言ってやれと思っていた昨日の俺はどうした!?


「兎月、だったわよね」


前を歩く春日の声だ。


「そうだよ」

「変な名前」


な、なんだとおぉ! 名字なんだからしょうがないだろうが。それにそんな変じゃないだろ。兎の月と書いて兎月ってそれなりに良くね? 少なくても米太郎よりはマシなはずだ!


「え~、そうかな? ユーモア溢れた名前だと思うけど」

「私はそう思わない」


はいはい、そーですか。


「アンタ、いつもバスじゃないでしょ?」


意外にがつがつ質問してくるなぁ。


「ああ、いつもは自転車だよ。今日はじいちゃんが自転車で散歩行っちゃって。風を感じたいんだってさ、ハハハ」


「……」


……す、スベったぁ! 場が静寂に包まれたぁ! クソジジイ、お前のせいだからな!


「か、春日はいつもバス通学なの?」

「……」


こ、こいつ無視かよ……。自分は質問しまくりのくせして俺の質問には答えないってか。


「……」

「なんで」

「へ?」

「なんで私の名前知っている?」


いや、あなた有名みたいよ? 俺は先日まで知らなかったけどね。


「まぁ、なんとなく」

「そ」

「………」

「決めた」

「え?」


な、なんすか急に。前を歩いていた春日はこちらを振り返る。髪をなびかせた姿がなんとまあ綺麗だった。しかし、そんな初恋よろしくな思いは次の言葉で一気に壊された。


「アンタ、今日から私の下僕ね」

「……はい?」


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