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ルーズでスイーツなスーツ

作者: ゆーとぴあ
掲載日:2026/06/23

 プロジェクターが壊れた、と上司が目の前で言った。

 焦った様子で物言わぬ箱になった機械を触る上司を前にして、私はそれなりに焦った風に見えるよう、必死に口を開けて雰囲気を出していた。

 台の上に載ったプロジェクターは、口の方から白黒が滲むノイズを吐き出し続けていて、上司がボタンを連打しても、一向にメニューは出ない。

 映像ケーブルの端子とそれが繋がっていた本体側の端子に向けて、カセット式のゲームソフトの埃でも飛ばすように口から風を吹く上司を見て、内心笑えてきた。

 こんなに緊急で重要なときに、プロジェクター一台壊れただけでこれだ。

 仕事というのは、なんとも脆いものだと思う。

 これでは、そろそろ集まり始める方々に面目が立たない。

 今日は我が社における重要なコンペがあり、社長も来るともっぱらの噂で、各社員から悲鳴が上がっていたのを覚えている。

 そんな大切な機会でも、どうやら機械の神は忖度してくれないらしい。

 新卒で入社して二年ほど。

 社会人というのはとても大変だと日々実感する毎日だが、最近はこなれてきたせいか、みんな案外ルーズに働いているのだなと思ったりする。

 学生の頃には、社会人というのは全員が全知全能の神様に見えて、私からすると異星人だった。全員がスーパーエリートで、私はそんな世界に入りたくないし、入れる気もしないという社会人コンプレックスどころではない有り様だった。

 しかし、お金も夢も希望もない今世。諦めて入社してみれば、案外どうにかなるものである。

 そう思っていたが、余裕こいていられたのはつかの間だった。

 プロジェクターが壊れてしまえばコンペ自体ができないのだから、こればかりはどうにもならない。

「ちょ、ちょっと、中島君。び、備品見てきて」

 焦りが加速し呂律も怪しくなった上司が私にそう言った。

「わかりました」

 私は頷いて颯爽と部屋を出た。

 なるほど。ここまで来ると、もはや諦めたほうが早いのかもしれない。社長へは誰が謝るのだろうか。

 私は堂々と歩きながら、私の前で社長に頭を下げる上司の姿を思い浮かべる。

 うん。昇進はしなくていいかもしれない。

 一生、下働き。そういう人生があってもいいと思う。

 備品室に付いて、プロジェクターを探す。

 上司は予備があるだろうという見込みで私を派遣したのだと思うが、それには私も同意だった。以前、同じような白いプロジェクターが壊れ、修理に出され、そのまま備品室に収容されたのを覚えている。

 彼はとても壊れやすく、映りが悪いプロジェクターだった。偶々、社内で彼の用意を任された私は、成り行きでそのまま備品担当となった。それからは、私が大切に面倒を見てきたのだ。

 そうして、私はプロジェクター一号の電源オン係をしていたのだが、彼は急な故障で引取修理に向かってしまった。

 私は彼との再会を待ち望んでいたのだが、その後は無情にも備品室に放置され、埃を被っていった。そんなプロジェクター一号を見て、私は悲しかった。

 しかも、それ以降、私はプロジェクター係、いわゆる動物たちと触れ合う動物園の飼育員のような職を解任され、更には頭を使うパソコン作業、いわゆるオフィス街で目を酷く疲れさせて働くオフィスレディーのような仕事をさせられるようになった。

 何が言いたいかというと、一時の安寧を奪われたのだ。電源オンという、安心の瞬間を。

 文句は大いにあった。しかし、備品の管理業務を別の人がすることになっただけで、文句を言う社員がいたら、流石に相手が対応に困るだろう。

 そう、仕方のないことなのだ。

 それから、私はそれなりに上司を睨みつつ、諦めてパソコン作業をしていた。

 それが今回プロジェクター一号に会えると知って、ワクワクしていたのに。

 何故かプロジェクター一号が見当たらない。

 その代わりに、何やら目が痛くなるような青一色で塗られたプロジェクターらしき機械が、埃を被って置かれていた。

「きもっ」

 つい、口から罵倒が出てしまったが、仕方のないことだろう。

 水色とかではなく、何故か原色に近い青であるから、より気持ちが悪い。

 現実にこんなものがあるのが信じられないほど、違和感満載の物体だった。

「えっ、これ、え? 一号なの?」

 私は信じたくなかった。愛情を込めてボタンを押していた彼が、ついに都会の汚れに染まったように見えた。

 信じられない私は、目を凝らして目の前の異物を凝視する。

 記憶にある一号とは、色以外も違うように見える。ということは、別の個体だろうか。

 以前修理に出す前、彼はボタンの周りに大きな擦れがあって、上司が「なにこれ?」と首を捻っていた。その部分は修理から帰ってきてもそのままだった。

 目の前の青色プロジェクターには、それが無い。

 それが無いということは、一号ではないということになる。

 私は少しホッとした。まさかわざわざプロジェクターを気持ち悪い色に塗る趣味の同僚がいるとは思いたくなかったので、一安心だった。

 とはいえ、強烈な色のプロジェクターが置かれており、これを持っていくしかないという現状は変わらない。かなり辟易とする。

 まあ、映像が出ればいいだろう。

 私は気にせず持っていくことにした。

 持ち上げた際にペンキが手に付いていないか、つい確認してしまったが、そのまま運んでいく。

 幸い同僚には会わなかった。社員数が多い割に珍しいが、まあこういうこともあるだろう。

 変なものを持っているところを見られなくてよかった。

 そう思いながら会議室前まで来て扉を開けると、カッと光が差してきて一瞬目を瞑る。とっても眩しい。

 次に目を開いたときには、目の前には草原が広がっていた。

 離れたところにはマンモスのような大きな動物が倒れていて、側では槍を掲げて喝采をあげている謎の民族風の男たちがいた。しかも、肌が全員青い。

 なにこれ? どういうこと?

 私は混乱した。なぜ会議室の扉を開いたら草原で、有名なSF映画の登場人物みたいな肌の男たちがいるのだろうか。

「あ、えっと、これって、撮影、ですか?」

 自分で言っておいて意味がわからない。

 なぜ、会議室でア○ターの撮影をする必要があるのだろうか。

 そんなわけがないだろう。

 そう思って、私は男たちの返答を待った。

 男たちは、私が声を掛けてもしばらく喝采を上げ続けていたが、集団の一人が私に気づいたのか指差すと、先頭でひときわ主張をしていた男が私の方に振り向いた。

「ひっ」

 私は一瞬、心臓が止まったかと思った。

 男はマンモスどころか、ティラノサウルスでも素手で殺すんじゃないかってくらい、何か尋常じゃない殺意が籠もったような眼光で私を見た。

 逃げなきゃ。このままだと殺される。

 私は咄嗟にそう思って、プロジェクターを放って逃げ出そうとした。

 そのときだった。

 男の目が下を向くと、瞬時に瞳が輝き出し、変身するおもちゃを買ってもらった四歳の少年のような驚きを見せた。

「ソタャケホラ、ハオ、テソセェ!」

 大声で男がそう叫ぶと、男たちはバンと音を立てて足を閉じ、一斉に頭を垂れ、膝をついた。

「ソタ、イャコャセリ、ェアロキッタ、オェ」

 先頭の男がそう言うと、男たちは立ち上がり、ぞろぞろとこちらに来て私を囲み始めた。

「ひぃ」

 流石に恐怖が勝った私は、後ろの扉に逃げ込もうとするが、よく見たら扉が無い。

 その先の我が社の廊下も見えず、ただただ草原が目の前に広がっていた。

「わぁ……」

 なんということだ。

 流石に泣きたくなってきた。

 私はそのまま涙を流しつつ、男たちに持ち上げられる。

 そのまま、プロジェクターとともに誘拐されてしまった。

 男たちにワッショイワッショイと担がれながら見えてきたのは、藁で作られた家が立ち並ぶ原始時代みたいな集落だった。

 集落の前で降ろされるのかと思いきや、何故か集団はそのまま集落の間を進んでいく。

 その間も、集落で私を見た人全員が頭を下げて、私たちが通り過ぎるのを見送っていた。彼らも全員肌が青い。

 その後、広場のような広い空間に入ると、私はようやく丁寧に降ろされた。

 地面に立った私に向かって、男たちは恭しく頭を下げる。

「ソタウ、ウヌキミキ、ェツヤチイシオ」

 私の後ろには、古そうな椅子があって、彼らはそれを指して何かを言っているようだった。

 座ればいいのかな?

 私はとりあえず座ってみる。

 すると、男たちは頷いた後、それぞれどこかに散っていった。

 え? どういうこと? まさかここで放置? 流石にそんなことはないよね?

 プロジェクターが重かったので地面に置いて、しばらく様子を見る。

 心配になりながらも、待つこと数分。リーダーらしき男が箱を持って帰ってきた。

「ソタ、ナキリ、ホクー、ャテヒケェサネ、ッタオ」

 箱を指さして何かを言うと、私に差し出してきた。

 何がなんだかわからないまま受け取ると、箱にはどうやら鍵がかかっているようだった。金属製の錠が掛かっている。

「これを開けて欲しいの?」

 私が錠を指さして尋ねると、男は激しく首肯した。なるほど。これを開ければいいらしい。

 とはいえ、この錠に対応する鍵など持っていない。何かヒントがないかと私は鍵穴を覗き込んだ。

「……ん?」

 不思議な形をした錠だった。普通の鍵穴と言えば一つで、鍵らしい凹凸のあるものだが、これは違う。何故か鍵穴が二つあり、しかも綺麗な細い長方形だった。その長方形が二つ近くに並んでいる。

 これは……鍵というのか? それよりも何か見覚えが……。

 私は目を凝らして、鍵穴を見つめる。

 そのとき、視界の端に私が抱いて持ってきたプロジェクターが映った。そして、そこから伸びる長いコードも。

「え! ……えぇ?」

 信じられないが、つまりはそういうことなのだろうか。

 私は地面に置かれたプロジェクターからコードをたぐり寄せる。

 そして先端にあるプラグを目の前に持ってくると、鍵穴とプラグを見比べる。

 うーん、かなり似てる。いや、ほぼこれ。いや、間違いなくこれかも。

 正直、信じられないという思いが強い。試してみるしかないか。

 私は鍵穴とプラグを近づけ、差し込んだ。

 すると、パカッと箱がひとりでに開き、中から鍵が出てきた。

「おお」

 やるじゃん私。どうやら正解だったようだ。まあ、なぜこれで開くのかは全くわからないが。

 私が開いた箱から鍵を手にして眺めていると、男が再び頭を下げた。

「ホョタミ、マソタ。ェスホクー、ェサネイケ、ェニウュッタオ」

 男は鍵を指して、また頭を下げる。

 なんだろう。使っていいってことかな。でも使う場所なんてないんだけど。

「スグェ!!!」

 と思っていたら、男が急に大声を出した。ビックリして固まっていると、先ほどの男たちがゾロゾロと現われた。またあなたたちか! 今度は何!?

 男たちはそのまま近寄ってくる。怯えていると、四人ほどが集団から出てきて椅子の周りで膝を付いた。そして四人が椅子の下に手をやると、急にぐいっと私の足が浮き、姿勢が崩れた。

「ええ!?」

 足が地面から離れた。バタバタと動かしても宙を蹴るだけで、何も無い。

「ひぇ」

 信じられない。今度は椅子ごと私を運ぶ気なのか。

 男たちは椅子を肩に載せてバランスを取ると、そのまま集団に合流して歩き出した。

 遠巻きに頭を下げている住人たちが見える。助けて欲しいんだけどなぁ。

 そのまま男たちと私は集落を抜け、そのままどこかに向かい始める。

 雑木林を抜け、森の小道を抜けて、その先へ。

 本当にどこに連れて行かれるんだと不安になってきた頃、目の前に丘のようなものが現れた。登るのかなと思ったら、集団は丘を回り込む。

 これまた何かの儀式の始まりかと思った途端、丘の側面に綺麗な円形のトンネルが現れた。コンクリートか、または他の石か。とにかく、人工的な規則を持って掘られた線のある綺麗なトンネルだった。

 集団はそこで五人ほどに減り、先導する一人と、四人で私を担いで中に向かう。

 生贄にでもされるのだろうか。

 想像してみる。トンネルの先には、地下に伸びる深い穴が掘られていて、生贄として放り込まれるんだ。

 そう想像したら、流石に辛くなってきた。

 なんでプロジェクター持ってきたら、こんなことになるの?

 涙が止まらない。

 まだ遺書書いてないよぉ。

 真っ暗闇の中、粛々とトンネルの中を進む男たちとは反対に、私は泣きじゃくっていた。

 そして、ついにゴールに来たようだった。

「ソタェケッ、タオ」

 何かを呼びかけられ、そのまま降ろされる。

 目の前には模様の書かれた壁があって、先頭の男はそれを手のひらで差して頭を下げる。

「オソタ、ホクネェクォ、サッタオ」

 なるほど。何かをしろと言われているらしい。

 殺されるかと思ったが、どうやら違うようだ。

 しかし、目の前の壁に対して何をしろというのか。

 私の手には、プロジェクターしかない。

 電源の入らないプロジェクターでどうしろと。

 私は半分くらい白目を向きながら、壁に向かう。

 必死に壁を眺めてみる。

 例えば、ボタンとかないだろうか。

 ぽちっと押したら、何かが起きてハイ終了。

 帰宅を許され、私は無事会社に戻り、プロジェクターを届ける。

 そんな夢を見るが、押せるところなどありそうにもない。

 その代わりと言ってはあれだが、鍵穴らしき穴があった。穴の上には丸いマークのような線が掘られている箇所があり、特徴的だ。

 幸い先ほど箱から出てきたのも鍵だし、流石にここで使えということだろう。

 私はポケットにしまっていた鍵を取り出す。

 ひと思いに差し込んで回すと、ガチャンと音が鳴った。

 壁の内側でガタガタと音がすると、鍵の上にあった丸い箇所が奥にへこみ、橫にスライドしていく。

 そうしてできた丸い穴には、やはりまたよくわからない穴があった。

 縦型の綺麗な穴が揃って二本開いている。

 私はその穴に見覚えがあった。

「こ、これは……ま、またコンセント?」

 なんだかそれっぽい形をした縦穴だった。

 その縦穴の周りにはご丁寧に四角く枠が掘られていて、もしこれが下の方にあったらファストフード店のコンセントと見間違えてもおかしくない。

「う、うーん……」

 プロジェクターと目の前の縦穴。

 何か、こう、相乗効果がある気がする。

 というか、それくらいしか、こじつけられるものがない。

「まあ、うん。いいか。これで」

 男たちも期待の眼差しで見てきているし、これは諦めて挿すべきだろう。

「これで何も起こらなかったら、ついに終わりかも……」

 私は一人呟きながらも、プロジェクターから伸びるケーブルをたぐり寄せる。

 そして、先端の端子の根元を持つと、一息ついた。

「よしっ」

 もうどうにでもなれっ!

 私は勢いよく穴にケーブルを差し込んだ。

 その瞬間、プロジェクターの口から光が放たれ、私の目が下から照らされた。

 強烈な光で、抱えている私の服から漏れた光でもかなり眩しい。

 私は地面にプロジェクターを置き、離れる。

 光は洞窟を丸ごと照らすほど明るく、昼間になったようだった。

 私は男たちの様子を見ようと後ろを見た。

 すると、彼らは後ろを向いて、何か喜んでいる。興奮が抑えられない様子で、地面に手をついて感極まっている人もいる。

 その瞬間、私は目を疑った。

 プロジェクターから放たれた光は、男たちの先、洞窟の入り口があるはずのところに何かを映し出していた。

 よく見ると、それは一つの街で、箱が空を飛び、ピラミッドのような形の未来的で無機質な風貌の建物が立ち並ぶ異様な光景だった。

 明るいが、昼なのか夜なのかわからない未来的な町並みの中で、ネオンのような光が建物の周囲に掘られた線から放たれ、箱が縦長の塔から飛び出していく。

 奥には、巨大な塔のような建物があって、表面はつるりとしていた。

 そして、それらは手に触れられそうなリアルさで、私の五感を全力で揺らしていた。

 なんか、とんでもないものの扉を開いてしまった。

 そんな気がする。

「イャクホカソ、リホオカソャ、トヒイフ、ソオェ!!!!」

 凄まじい大声で叫んだ先頭の男は、両手を掲げて踊り出すと、男たちも興奮を抑えられなかったのか踊り出す。

 彼らはそのままリズミカルに踊りながら私の元まで来ると、何故かまた持ち上げられた。

「なに!? 終わりじゃないの!? ちょっと待っ!!!」

 私はそのまま担ぎ上げられ、男たちはプロジェクターから出る光の先へ向かう。

 え、これ、本当に不味いのでは?

 時すでに遅し。私はそのまま二度目の誘拐をされてしまった。

 

 *

 

 一年後、私の目の前には二人の男が怯えたように立っていた。

 一年前に見た上司と、実はホームページでしか見たことのない社長である。

 二人は揃って手もみしていて、私を下から見上げている。

 そう、私の方が上なのである。

 祭壇のように作られた玉座の頂点。

 私は仰々しい装飾の付いた椅子に座って、肘をついて彼らを見ていた。

 うん、どうしよう。

 今の今まで、彼らのことを忘れていた。

 私の側には大量の食べかけのフルーツと、食事が置かれており、グラスに注がれた氷の入った飲料に、巨大で美味しそうなお肉もある。

 身体には、金銀鮮やかなネックレスとバングル、ダイヤモンドのような輝く石がふんだんに使われたジュエリーが身につけられていて、下を見るだけで目が痛いほどだ。

 ふと横を見ると、大きな窓越しにあの日見た未来都市が広がっている。

 これは流石に不味いかも。

 今まで会社を休んで何をしていたんだと怒られるパターンだ。

 内心冷や汗をかきながら、私は退屈を持て余した女王様のような表情を作っていると、二人は謙りながら言った。

「こ、この国の、じょ、女王様とお見受けしますが……、お、お話しだけでも聞いていただけませんか……?」

 おずおずと話す上司。久しぶりだなこの感じ、と私は思った。

「わ、私は、日本国から派遣されてきた株式会社イセカイの仁星と申します……。い、いかがでしょうか……」

 うーん、この光景。なんか見たことある気がする。

 私はしばらく考えていて、ようやく思い出した。

 上司と一緒に行った営業先での光景だ。

 相手の方が大企業で、中々こちらの肩身が狭かった覚えがある。

 下手に出るこの感じ。間違いない。

 これは、仕事ビジネスなのだ。

 つまり、これは私が営業されているということか。

「ふむ……」

 私がそう言うと、二人はビクッとした。

 ちょっと面白い。

 まあ、からかうのも程々にして、と。

「いいでしょう。エンベロ、席を用意しておきなさい」

「承知いたしました」

 私の側にいた従僕が頷いて離れる。

 私もようやくこの立場が身についてきたのかも。

 相変わらず彼らの肌が青いのには慣れないけど。

 私は祭壇から降りる時、側に豪奢な服を着せられて置かれていた青色のプロジェクターの背を撫でる。

 彼にはとてつもなく世話になった。彼のお陰で生き延びたと言っても過言ではない。

 今では唯一無二の相棒である。

 二人で乗り切った旅路が脳裏をよぎるが、今は物思いにふける場合ではない。

 名残惜しい感覚を振り払うと、二人に声をかけた。

「それでは、席が整うまではこちらへ」

「はっ……。ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます……な、何で日本語?」

 上司の方がボソッと小声で首を傾げていた。

 ありゃ、疑問があっても口に出しちゃ不味いでしょ。

 それじゃあビジネスやってけないよ?

 でも、私はそんな粗を突くことはしない。

 私にはわかる。

 お仕事って大変だからね。優しくしなきゃ。

 まあでも……。

「どうぞ。美味しいですよ」

「あ、ありがとうございます」

 待合室の席に着いてから、机の上のフルーツをもぎ取る。

 一口食べると、甘い果汁が口の中に広がった。

 うーん、最高。

 ぜーんぶ、これくらい甘いのが最高だよね。

 でも……。

 私は未だに肩を強ばらせている二人を見る。

「……もっと楽にしてくださって構いませんよ」

 そう言って、二人に向かって笑みを浮かべた。

 楽だともっといいよね。

 そう言って私は従僕の差し出してきたデザートを頬張った。

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