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『すみません...弾代って学費に含まれますか?』 ~ドケチな新入生、学園の宇宙を「コスパ最強」で無双する~  作者: 染抜き
学園編

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第5話 不器用な貴公子

入学式を数日後に控えたある日。 僕の携帯端末に、学園から一通のメールが届いた。


【入寮手続きのご案内】 対象:第1年 A組 男子生徒 宿舎:第1生徒寮『プラチナ・ハイツ』 部屋番号:2101(最上階)


「(A組...一番上のクラスか)」


僕はホログラムの地図を見ながら、指定された寮へと足を運んだ。 目の前に現れたのは、高級ホテルと見紛うばかりの白亜の巨塔。地上21階建て。その威容は、学生寮というより要塞に近い。


「(これが、無料なのか?)」


自動ドアを抜けると、冷房の効いた広大なラウンジが広がっていた。 床は大理石で磨き上げられ、天井にはクリスタルのシャンデリアが輝いている。 案内板を見ると、施設の充実ぶりに目が点になった。


1F: エントランス・ラウンジ・コンシェルジュ


2F: ジム・屋内プール・サウナ・映画館


3F: 寮管理・セキュリティルーム


4F~21F: 居住エリア(1フロア1住戸)


「(1フロア1住戸!? 馬鹿みたいに広いな...)」


スラム街のコンテナハウスなら、この1フロアに50人は詰め込まれるだろう。 呆れながらエレベーターホールへ向かおうとした時、掲示板の一角にある広告が目に止まった。


『学園推奨! プレミアム家事代行サービス』 『掃除・洗濯・料理...プロのメイドが全て担当します』 『月額:50,000クレジット~』


「(...誰が使うんだ、こんなの)」


自分の身の回りのことくらい自分でやるのが当たり前だろ? 金持ちの考えることは分からないな、と首を振りながら、僕はエレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押した。


――21階。 エレベーターの扉が開くと、そこはもう玄関ホールだった。 カードキーをかざし、重厚な扉を開ける。


「失礼しまー...」


言葉が止まった。 広々としたリビングルーム。その中央にあるソファに、金髪の美青年が優雅に座っていた。


「やあ。やはり君もA組だったか。よろしくね、レイ君」


ランキング2位、アーサー・バリテン。 彼は陶器のカップで紅茶を傾け、絵画のような美しさで微笑んだ。


「あ、アーサーさん。まさか同室とは...。これからよろしくお願いします」


僕が慌てて頭を下げて敬語を使うと、アーサーは苦笑してカップを置いた。


「よしてくれ。これから同じクラスで、同じフロアで暮らすんだ。敬語はいらないよ」


「...分かった。じゃあ、改めてよろしく。アーサー」


爽やかな握手を交わす。 最高の同居人だ。物腰は柔らかいし、知的だし、何より静かだ。 僕はホッと息をつき、リビングを見渡した。


「...ん?」


違和感に気づく。 アーサーの座るソファ周りは優雅だが、その背後にある広大なダイニングキッチンが、まるで爆撃を受けたかのように荒れ果てていた。 皿は散乱し、床は水浸し。自動掃除ロボットがひっくり返り、空回りしている。


「...アーサー。あの惨状は何だ? 敵の襲撃でもあったのか?」


「...ああ、あれかい?」


アーサーは少し頬を染め、恥ずかしそうに視線を逸らした。


「君が来る前に、少し部屋を綺麗にしておこうと思ってね。掃除をしていたんだ」


「掃除?」


僕は散乱した残骸を指差した。


「あれが?」


「うん。最新式の掃除ドローンを使おうとしたら暴走して、止めようとしてモップを持ったら棚にぶつかって、水を拭こうとしたら洗剤をこぼして...」


僕はその瞬間、1階のロビーで見た広告を思い出した。


『プレミアム家事代行サービス』


「(...なるほど。あれは、こういう奴のためにあったのか)」


需要と供給が完全に一致した瞬間だった。 アーサーがシュンと肩を落とす。


「面目ない...。実家では執事が全てやってくれていたもので、勝手が分からなくてね」 「(はぁ...ここに来ても、家事をやる羽目になるとは)」


思わず溜息が漏れた。 だが、これからここが僕の城になるのだ。汚いまま放置するわけにはいかない。


「...分かった。僕がやる!」


僕は腕まくりをして、散らばった皿を拾い始めた。 すると、アーサーが慌てて立ち上がる。


「い、いけないよレイ! 汚したのは僕だ、僕も手伝う!」


「いや、僕に任せて座っててくれ」


「そうはいかない! 騎士道精神が廃る!」


アーサーが強引に皿を奪おうとして――ツルッ。


ガシャン!! 高級そうな皿が、床で粉々になった。


「あ...」 「......」


二人の間に、重苦しい沈黙が流れる。 アーサーが今にも切腹しそうな顔で固まっている。 僕は深呼吸を一つしてから、アーサーの肩を掴み、無傷のソファへ強制的に座らせた。


「いいか、アーサー」


「は、はい」


「二度と動くな。そこでお茶でも飲んで、優雅に休んでおけ!」


「で、でも...」


「お前が動くと仕事が増えるんだ。頼む!じっとしててくれ!」


僕は懇願しながら叫ぶと、素早く新しい紅茶を淹れて彼の手に持たせた。 それから、猛然と片付けを開始した。


割れた皿を片付け、床を拭き、暴走したドローンを分解修理して再起動させる。 戦場でジャンクパーツを回収・整理していた経験が、ここで活きた。 作業は迅速かつ的確。30分後には、部屋は入室時よりも輝きを取り戻していた。


「...ふぅ。終わった」


一息ついて汗を拭う。 ソファでは、アーサーが申し訳なさそうに小さくなっていた。


「すまない、レイ...。君にばかり苦労をかけて」


「気にするな。汚い部屋で寝るよりマシだからやっただけだ」


「君はすごいな。戦闘だけじゃなく、家事まで完璧だなんて。...正直、君を見くびっていたよ」


「大したことじゃないさ」


「それより紅茶は口に合ったか?」


「あぁ。とても美味しかったよ。」


「そうか、ならよかった」


僕は冷蔵庫から水を取り出し、一気に飲み干した。


「それに、手のかかる奴の世話には慣れてるんだ。以前世話をしていた人に比べれば、お前なんて可愛いもんだよ」


「以前世話をしていた人?」


「ああ。...生活能力がないくせにワガママで、すぐ物を壊す困った人がいてね」


脳裏に、ごみ屋敷のような部屋でふんぞり返る「誰か」の姿が浮かぶ。 それに比べれば、申し訳なさそうにするアーサーは聖人のように思えた。


「そうか...。君も色々と苦労してきたんだね」


アーサーは深く追求せず、ただ優しい目で頷いてくれた。


その後、僕たちは片付いたばかりのダイニングで簡単な食事をとりながら、これからの学園生活について語り合った。 育った環境は正反対だが、不思議と波長が合う。 夜も更け、就寝の時間。


「それじゃあ、おやすみ。レイ」


「おやすみ、アーサー」


それぞれの個室に入る。 ふかふかのベッド。空調の効いた部屋。 天井を見上げながら、僕は小さく拳を握った。


「(...いいスタートだ。明日から、本格的に始まる)」


隣の部屋には、少し手のかかる友人がいる。 悪くない気分で、僕は深い眠りについた。

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