閑話:教官たちの憂鬱な午後
セレスタ学園、中央管理棟にある大会議室。 円卓を囲むようにして、数十名の教官たちが深刻な顔で座っていた。部屋には重苦しい空気が漂っているが、上座だけはまるで宴会場のような騒がしさだった。
「ガハハハハハ!! 99機撃墜だと!? 傑作じゃねぇか!!」
机にドカッと足を乗せ、葉巻をくゆらせながら大笑いしているのは、この学園の学長、ゲオルグ。 白髪のオールバックに眼帯をした、海賊のような風貌の巨漢だ。かつて銀河大戦で『雷神』と呼ばれた英雄でもあるが、今はただのエロ親父にしか見えない。
「いやぁ、今年の新入生は活きがいいのぉ! エレーナちゃんのお尻くらいパンと張ってて最高じゃ!」 「...学長。セクハラで訴えますよ」
戦術教官のエレーナが、氷点下の視線で学長を睨む。 その隣で、実技担当のオットー・ワグナーは胃薬を握りしめながら、必死に会議を進行しようとしていた。
「が、学長! 笑い事ではありません! 今議論すべきなのは、この1位の少年のことです!」
オットーが空中モニターを指差す。
「彼のデータは異常です。出身地『軍事惑星』以外、すべてが空白。出生記録も家族構成もない。まるで幽霊です」
「ふむ? 幽霊にしては派手に暴れたもんじゃないか」
「そこなんです!」
「これほどの腕を持ちながら、過去の記録が一切ない!」
「だが、何もわからなかったわけでもなっかたと?」
「はい。一つだけ手がかりがありました」
オットーが声を潜め、周囲の教官たちを見渡す。
「彼の『学費』です。セレスタの学費は個人で払うとなると高額です。特にこの聖アストライア学園は特に...。ですが彼はそれを一括で納入しています。」
「振込の名義は?あの少年が払える金額でもなかろう」
「それが...振込名義は『匿名希望』の軍特別口座からでした」
会議室がざわめく。 軍の特別口座。それは、一般兵士が使えるものではない。
「IDを照会しようとしましたが、特級機密で弾かれました。こんな権限を持てるのは、現役の将軍クラスか、あるいは...『対戦の英雄』くらいです」
「まさ...セラ・ヴィクトリアか!?」
B組の教官が息を呑んだ。
「まさか、こいつは『あの戦争』を生き残った英雄の隠し子か? あるいは、秘密裏に育てられた『最後の弟子』とでも言うのか?」
得体の知れない少年、レイ。 圧倒的な戦闘スキル。空白の経歴。そして、背後に見え隠れする英雄の影。 教官たちの顔色が青ざめていく。スパイか、それとも軍が極秘に送り込んだ兵器か。
「オットー君よ」
不意に、ゲオルグ学長が大きなあくびを噛み殺しながら言った。
「お前ら、難しく考えすぎなんだよ。眉間にシワ寄せてるとハゲるぞ?」
「ハゲてません! ですが学長、これは学園の安全に関わる問題で」
「ふん!だからハゲるのだ。この学園が掲げているのはなんだ?」
「『この学園では実力がすべて……すべては自らの実力で決まる』」
「そう!実力がすべて!」
「金払って試験に受かったなら、もうそいつは『生徒』じゃ」
学長はニカっと笑い、エレーナの腰あたりをいやらしく眺めながら、豪快に言い放った。
「英雄の弟子だろうが、宇宙人の手先だろうが構わん! どうせ学園生活が始まれば、化けの皮なんてすぐ剥がれるわい」
「は、はぁ...」
「あいつがどんな性格で、どんな人柄で、どんだけスケベか! 一緒に飯食って、喧嘩して、風呂に入ればいずれ分かることだろ? ガハハハ! 大丈夫さ!」
根拠のない自信。だが、かつての英雄にそう言われると、反論できない迫力があった。
「それより、問題はクラス分けだ。……オットー、例の『劇薬リスト』を見せてみろ」
エレーナが、ため息交じりにリストを表示する。
「2位、世間知らずの貴族のアーサー・バリテン。3位、食料庫荒らしのメイリン・シェン。犬猿の仲の4位、雪乃・スメラギと5位、カチューシャ・オルロワ。...他にも、サンバ馬鹿に、ハンバーガー中毒に、居眠り常習犯……」
学長がリストを見て、さらに声を荒げて笑った。
「ガハハ!最高じゃねぇか! よし、決めた!」
バン! と机を叩く。
「今年は筆記の試験結果は無視だ!実技試験の上から24人全員、A組にぶち込め!」
「「「「えぇぇぇぇぇ!!!」」」」
「毒を以て毒を制す!混ぜるな危険を全部混ぜる!劇物は劇物同士を混ぜた方がうまくいく !」
「「「「....」」」」
「担任はお前だ、オットー! 胃に穴が開く前に、若者たちから精気を吸い取るんだな! ガハハハハ!」
こうして、教官たちの不安と、学長の無責任な高笑いの中、学園史上最もカオスでブラックホールよりも混沌と言われた史上最強の「第541期・A組」の編成が決定した。




