割安のランチタイム
実技試験の熱気が冷めやらぬまま、僕は学生食堂へと足を運んだ。 そこは、ちょっとしたショッピングモール並みの広さがあった。和洋中、あらゆるジャンルの料理が並んでいるが、僕が迷わず向かったのは券売機の端っこだ。
「(『日替わりA定食・大盛り』...たったの300クレジット。しかも栄養バランス完璧)」
トレイを受け取り、空いている席に座る。 山盛りの白米。合成肉のハンバーグ。野菜の煮込み。 故郷なら、これだけで命の奪い合いが起きるレベルのご馳走だ。
「(ここは天国か...!)」
周囲の遠巻きにする視線など気にならない。 僕はスプーンを握りしめ、猛烈な勢いで食事を開始した。
「すごい勢いアルね! 見てて気持ちいいヨ!」
ドンッ! 突然、僕の目の前に蒸篭が置かれた。 顔を上げると、お団子頭にチャイナ風の制服を着た小柄な少女が、ニカっと笑って立っていた。
「ボクはメイリン・シェン! ランキング3位だヨ。よろしくネ、1位サン!」 「...どうも。僕はレイです」
口をもぐもぐさせながら会釈する。 彼女が、黄龍国出身のメイリンか。小柄だが、身のこなしに隙がない。ただの元気っ子に見えて、体術の達人特有の「芯の強さ」がある。
「戦う前も後も、ちゃんと食べなきゃダメアルよ。ほら、この肉まんあげる。特製ダヨ!」 「え、いいんですか? (タダ飯だ!)」 「もちろん! ボクの拳法は『医食同源』だからネ!」
メイリンが勝手に隣の席に座り込む。 すると今度は、反対側から優雅な紅茶の香りが漂ってきた。
「やあ。相席しても構わないかな? レイ君」
トレイに上品なティーセットとスコーンを載せた金髪の美青年――ランキング2位、アーサー・バリテンだ。 彼は僕の「激安定食」を見ても眉ひとつ動かさず、優雅に微笑んだ。
「筆記試験の時、隣の席だっただろう? あの時から君の集中力には驚かされていたが...まさか実技であれほどのスコアを叩き出すとはね」 「ああ、あの時の。どうも、筆記ではペンを貸していただいてありがとうございました」
「ふふ、気にしないでくれ。しかし、99機撃墜とは...僕でもあそこまでの蹂躙は真似できないよ」
アーサーが優雅に紅茶を啜る。 その瞬間、周囲の空気がピリリと凍りついた。
「...見つけたわ」
氷のように冷ややかな声。 現れたのは、腰まで届く美しい銀髪の少女――ランキング4位、雪乃・スメラギ。 その切れ長の瞳が、値踏みするように僕を射抜いている。
「あなたがレイね。」「ふ~ん...見た目は平凡だけど」
「ちょっと雪女! あたしの前を歩かないでくれる!?」
雪乃の後ろから、金髪碧眼の少女が不機嫌そうに現れた。ランキング5位、カチューシャ・オルロワだ。 彼女は雪乃を睨みつけた後、僕の方を見てフンと鼻を鳴らした。
「あんたが1位? ふん、どんな奴かと思えば、貧相な男ね」 「うるさいわね、駄犬。キャンキャン吠えないで」 「あぁん!? 誰が駄犬よ!この雪女!」
バチバチと火花を散らす二人。 カチューシャは好戦的で、雪乃はそれを冷たくあしらっている。メイリンが「はぁ...また始まったアル」と呆れ顔で肉まんを頬張っている。
「単刀直入に聞くわ」
雪乃がカチューシャを無視して、僕に詰め寄った。
「あの実技試験のシミュレーション。デフォルトのままだったというのは本当?」 「ええ。設定の変え方がよく分からなくて」
ハンバーグを頬張りながら答える。
「はぁ? ふざけないでよ」
カチューシャがドスの効いた低い声を出した。
「あのラグであの反応速度はおかしいわよ。計算が合わないわ。まさか、まぐれ当たりしただけで英雄気取りってわけ?」 「カチューシャ、落ち着くネ。でもボクも気になるアル。あのボロボロの機体であの動きは無理アル!」
3人の天才たちが、答えを待っている。 僕は最後の米粒を飲み込み、水を一口飲んでから、ニッコリと笑った。
「無理と言われましても……動きましたよ?」
「だから、それがおかしいって言ってるの!」
カチューシャがテーブルを叩く。 僕は困ってしまった。彼女たちが何に驚いているのか、本気で分からない。
「ラグがあるなら、その秒数ぶん早く入力しておけばいいだけじゃないですか」
「……は?」
「それに、機体がボロボロだったからこそ、やりやすかったんです。フレームがきしむ音や振動が、一番正確なセンサーになりますから」
僕はコップの水を飲み干し、至極当然のこととして続けた。
「『あと何度傾けたら翼が折れるか』が、音で正確に分かるんです。おかげで、墜落手前まで、無駄なく使い切ることができました」
シン……と、テーブルの空気が凍りついた。
「無駄なく……使い切る……?」
雪乃が呆然と呟く。 僕はニッコリと頷いた。
「はい。だってシミュレーターは武装が無料なんでしょう? せっかく使い放題なのに、武装や機体の耐久値を余らせて終わるなんて、もったいないじゃないですか」
カチューシャは「正気じゃない...」と後ずさりし、雪乃は戦慄したように目を細めた。 アーサーだけが、ゾクリとしたものを感じたようにカップを置いた。
彼は、機体が分解する恐怖を感じていないのではない。 **「死ぬ寸前まで酷使するのが一番お得だ」**と、本気で思っているのだ。 それは、平和な世界で育った自分たちには決して理解できない、生存本能の欠落した「怪物」の論理だった。
「ごちそうさまでした!」
僕は手を合わせ、空っぽになった食器を持って立ち上がる。
「あ、肉まんありがとうございます、メイリンさん。すごく美味しかったです!」 「あ、ああ...どういたしましてアル」
引きつった笑顔で見送る4人を残し、僕は返却口へと向かった。 お腹はいっぱいになった。 次は、クラス分けと自己紹介だ。
「(さて、次はどんな敵と遊べるのかな)」




