デフォルトの怪物
閲覧していただきありがとうございます。処女作のためつたないところがあると思いますが温かい目で見ていただければ幸いです。
成層圏の空に、無機質な撃破通知が連なって流れる。 右主翼からは火花が散り、機体全体が激しく揺れている。操縦桿を通して伝わるのは、もはやカデットが分解する寸前の振動だ。
「(……すごいな。ここまで無茶をしても、誰も怒鳴り込んでは来ない)」
スロットルを全開にし、歪んだ機体の悲鳴を聞きながら、僕はヘルメットの中で口元を緩めた。 実機なら修理費請求書が頭をよぎって絶対にできない操作。 エンジン限界駆動。スタビライザー無視の急旋回。
――ズドォォン!
背後から迫る複数の光線。 回避は不可能。普通なら、機体保護のために脱出を選択する状況だ。 でも、ここは夢の「撃ち放題・壊し放題」。
「なら――一度やってみたかったんだ、これ」
右のスラスターをフルブースト。 損傷した主翼が受ける空気抵抗を逆利用し、あえて機体のバランスを崩壊させる。 本来ならフレームが歪む禁じ手。だが、その反動で機体はありえない速度で横滑りした。
「(ははっ、本当にできた!)」
光線が、コクピットの数センチ横を通り過ぎる。 このスリル。この自由。
慣性に逆らわず、滑る機体の機首を強引に敵へねじ込む。 照準が重なる瞬間。 両翼の『光子銃』が、正面の敵へ閃光を放つ。
――ジュッ、ジュジュッ!!
ドリフトの勢いを乗せた一撃が、逃げ惑う3機を次々と撃ち抜いた。
試験会場の最上階。厚い防弾ガラスの向こう、数百のモニターが並ぶ監視室。 そこにいた教官たちは、一つのモニターの前で足を止めていた。
「おい!第4ブロックのこれ、何だ?」
顔に深い傷跡のある古参教官オットー・ワグナーが、眉間に皺を寄せた。 モニターの中では、ボロボロの量産機が、まるで水を得た魚のように空を跳ね回っている。
「候補生番号4096。レイ、という少年です」
横に立つ技術分析官、マーク・ミラーが、更新される数値を二度見した。
「信じられません。彼の機動、テレメトリーデータが真っ赤です。ジャイロは狂い、エンジン出力も不安定。普通なら制御不能で墜落するレベルの損傷ですよ」
「それを腕でねじ伏せてるってのか。っ設定はどうなってる」
「それが...」
マークが、困惑したように声で言った。
「デフォルトです。感度、レスポンス、補正、すべて初期設定のまま...。この劣悪な操作環境で、彼はコンマ数秒先の未来を読み、あろうことか『機体への負荷』を楽しんでいるように見えます」
「馬鹿な...。初期設定のラグすらも、あいつにとってはハンデにもなっていないと言うのか?」
冷徹な雰囲気を持つ女性教官、エレーナ・ロマノヴァも身を乗り出した。
「オットー、見て。彼の移動軌跡。最短距離で敵の背後を取り、かつ自分への被弾は最小限。いえ、わざと当たりどころを選んでいるわね。致命傷だけを避けて、今まで試せなかった限界機動をテストしているわ」
「シミュレーターだからって、これほど徹底的にシステムを味わい尽くす奴は初めて見たぞ」
オットーが、呆れたように、しかし感嘆を含んで呟いた。
「あいつにとって、この試験は戦いですらない。ただの遊園地だ」
『作戦終了。ブロック4、全機撃破を確認』
静寂が戻った仮想空間に、システム音声が響く。 機体はもはやどちらが前か分からないほど無残な姿になっていたが、エンジンだけはまだ脈打っていた。
「(ふぅ。楽しかった)」
意識が、現実へと浮上する。
ポッドのハッチが開くと、ドーム内の空気の匂いが鼻をついた。 周囲は、異様な静まり返りを見せている。
通路へ降りると、先にログアウトしていた受験生たちが、まるで化け物でも見るような目で道を開けた。
「...貴様ぁ!!」
前方から、顔を真っ赤にしたギーリッヒが詰め寄ってきた。 シミュレーターから強制排出された衝撃のせいか、足元が少しふらついている。
「あ、ギーリッヒさん。お疲れ様でした」
足を止め、いつも通り丁寧に会釈する。 充実感のある、さっぱりとした笑顔で。
「お疲れ様だと!? よくも僕をあんな...あんなデタラメな機動で! 貴様、一体どんな不正を仕込んだ! あんな設定、人間が扱えるはずがない!」
「不正なんてしていませんよ。ただ、シミュレーターでの武装や補給がタダだと教えていただいたので、少しだけ羽目を外してしまったんです」
ニコリと笑って答える。
「本当に楽しかったです。あんなに弾を撃っても、機体を無茶苦茶に振り回しても、誰からも怒られないなんて。セレスタの学園は、なんて寛大で素晴らしい場所なんでしょうか」
「くっ...な、何を言って!」
ギーリッヒが言葉を詰まらせる。 周囲の受験生たちも、その「無邪気な笑顔」と「さっきまでの戦闘の狂気」のギャップに、戦慄したように黙り込む。
「さて、次の試験の準備をしないと。それでは失礼しますね」
足早に立ち去る。 ドーム中央の巨大なホログラム掲示板に、第1次実技試験・全部門の総合ランキングが表示された。
【第1次実技試験・総合ランキング】
1位:レイ(No.4096)
SCORE: 12,800 pts
撃破数: 99機(全滅)
生存評価: S
2位:アーサー・バリテン(No.0012)
SCORE: 4,200 pts
撃破数: 32機
生存評価: A+
3位:メイリン・シェン(No.0055)
SCORE: 4,050 pts
撃破数: 30機
生存評価: A+
会場がざわめく。 2位のアーサーですら30機程度。それが通常の「乱戦」における限界値だ。敵同士が潰し合うため、物理的にそれ以上スコアを稼ぐことは難しい。 だが、1位の数字は壊れている。 99機。つまり、「敵同士が戦う暇すら与えず、自分以外の全員を一方的に狩り尽くした」ということだ。
「(……よし。これで、しばらくは食事に困らなそうだ)」
ざわめきなど気にも留めず、僕は小さくガッツポーズをして、学生食堂へと足を向けた。
後数話は書き溜めてあるので9日中にあげれたらいいなぁ




