第13話 余り物たちの小隊
閲覧していただきありがとうございます。
翌日のホームルーム。 教室の教壇に立ったオットー教官は、いつものように胃薬の瓶を片手に、気だるげに口を開いた。
「さて、単刀直入に言うぞ。...2週間後、お前らには実戦想定演習に行ってもらう」
教室がざわめく。 入学してからまだ日が浅い。それなのに実戦という言葉が出てくるとは予想外だったようだ。
「場所は第4宙域の端...かつての最前線に近い旧資源採掘惑星帯だ。そこには、戦争当時の廃棄された宇宙施設群や、野良のアドヴァサリー(敵性体)がうろついている」
「野良のアドヴァサリー...!」
生徒たちが息を呑む。 シミュレーターではない、本物の怪物が出る宙域。
「今回の演習は、個人の戦闘能力だけでなく、生存能力と『連携』を高く評価する。したがって、スクワッドのフォーメーションを組め。小隊ごとに出撃するセクターを割り当てる」
教官は黒板に『機と大きく書き、チョークを放り投げた。
「僚機の人選は自由だ。好きな奴と組んで構わない。お前たちの生存率と評価が上がるならな。さあ、決まった小隊から前に来て報告しろ。解散!」
教官の号令と同時に、教室中が弾かれたように動き出した。
「ふっ」
喧騒の中、僕は余裕を持って席を立った。 昨日の決闘騒ぎで、僕の実力は証明済みだ。つまり、今の僕は「Aクラスの人気者」であり「最強のエース」。
引く手あまただろうから、断るのが大変だな...なんて思いながら、近くにいたアーサーに声をかけた。
「よう、アーサー。もし枠が空いてるなら...」
「あ、レイ! 僕は構わないよ。ぜひ――」
「アーサー、少し待ってくれ」
アーサーが笑顔で応えようとした瞬間、彼と同郷の親友であり、礼儀正しい常識人・セオドアが割って入ってきた。彼は僕に軽く会釈をしてから、アーサーにきっぱりと言った。
「レイの実力は僕も認めている。だが、彼の機動は航空戦のセオリーからあまりにも外れすぎている。一人で先行されては編隊が崩れ、僚機である僕らが危険に晒される。それに、チームプレイができなければ小隊としての連携評価はガタ落ちだ」
「えぇ? でもセオドア、レイがいてくれれば頼もしいじゃないか」
「君のお人好しにも困ったものだね。...レイ、すまないがそういうわけだ。我々は堅実な航空部隊を目指している。今回は別の小隊を当たってくれないか?」
セオドアの理路整然とした言葉に、アーサーは「す、すまないレイ! また今度!」と苦笑しながら引き下がった。 彼らの後ろでは、歩くマニュアル人間のフリッツと、重装甲乗りのボリスが頷いている。
「セオドアの言う通りだ。単独行動で編隊を乱すなど、教範への冒涜だからな!」
「うむ。鉄壁の十字編隊を組んでこそ...男のロマンだ」
どうやらこの4人でカッチリとした優等生チームを組むらしい。僕のような予測不能な単独行動派は、たしかに相性が悪いだろう。
気を取り直して、僕は騒がしい一角へと向かった。 巨漢のジャック、陽気なガルシア、そしてギャルのジェニファーたちが集まっている。
「よう、筋肉ダルマたち。お前らなら前衛が必要だろ?」
「No! Noだ、アミーゴ!」
ガルシアが全力でバツ印を作った。その横で、彼にそっくりな金髪褐色肌の少女――妹分のルナが、サンバのステップを踏みながら笑う。
「お兄ちゃんが言ってたよー! レイは一人で勝手に突っ走るから、ウチらのサンバのリズムに合わないって!」
「なんでだよ。昨日はあんなに盛り上がったじゃないか」
僕が抗議すると、ガムを膨らませていたジェニファーが呆れたように言った。
「あーしらのチームはド派手な面制圧がモットーなの! あんたみたいに一人で先行して敵の群れを壊滅させちゃう奴がいたら、あんた一人が派手で、私たちは派手じゃなくなるじゃん!それに連携スコアがゼロになんじゃん! U.S.A!」
「そう! しかも今回は班ごとに出撃する宙域が分かれるだろ?」
ジャックがニヤリと笑って指を立てた。
「お前と別の班になれば、お前に獲物を横取りされる心配はない! 俺たちは俺たちに割り当てられた空域で、自分たちのペースで気兼ねなくスコアを稼げるってわけだ!」
「そ、そういうことか...」
痛いところを突かれた。彼らにとって僕は「頼れるエース」ではなく、連携ができるか疑問な危険分子であり、別の宙域に隔離しておきたい存在だったのだ。
「悪いな、レイ。俺たちは手堅く稼がせてもらうぜ!」
彼ら4人も足早に去ってしまった。 雲行きが怪しくなってきたぞ。僕は教室を見渡した。残る有力株は...。
「カチューシャ」
「お断りよ」
窓際でジュースを飲んでいたカチューシャに声をかけると、食い気味に拒否された。
「まだ何も言ってないだろ」
「どうせ『余ってるなら僚機にならないか』でしょ? 冗談じゃないわよ。私はもう決めてるの」
彼女はフン、と鼻を鳴らし、自分の後ろに控えているガチムチの巨漢――彼女の翼を守るボディガードのイワンを顎でしゃくった。
「ダー! カチューシャお嬢様の背後はおれがお守りする!」
「そういうこと。それに今回は、この淫らな雪女とも組むことにしてるのよ」
カチューシャが隣の雪乃を指差す。
「誰が淫らよ、この発情駄犬。でも、今回ばかりは利害が一致してるわ」
雪乃が氷点下の視線で同意する。彼女の後ろには、お付きの忍者少女スズメが控えていた。
「あわわ、手裏剣落としちゃった! あ、雪乃様はしっかり護衛します!」
「今回の演習、担当宙域が別になれば純粋なスコア勝負ができるわ。トップスコアを取るのは私たちの小隊よ。あんたを出し抜いてね」
「あんたに負けたままじゃ夜も眠れないのよ! この氷炎同盟で、あんたの鼻をへし折ってやるんだから!」
どうやら昨日の敗北が、逆に彼女たちの対抗心に火をつけてしまったらしい。
「そ、そうか。頑張れよ」
僕は引きつった笑みを浮かべて後ずさった。 おかしいな。気がつけば、教室のあちこちで次々と小隊が結成され、オットー教官の元へ報告に行っている。
「戦う前には腹ごしらえアル! 私と組む奴には特製肉まんをあげるヨ!」
「ほう、その肉まん、我が四千年の歴史に基づく商売ルートに乗せれば...よし、メイリン! 私と組むがいいよ!」
お団子頭のメイリンと、守銭奴のロンが意気投合している。
「あらあら、誰か被弾したら私がタダで治療してあげるわね。その代わり解剖させてね。ふふっ」
「敵機の出現座標は、私の水晶玉が告げています。ロンさん、占い料は後で請求しますね」
巨乳の衛生兵マリアと占い師のアイシャが合流し、カオスな女子小隊が完成していた。
「フッ...暗黒の宇宙はキャンバス。私の美学を理解できる者だけが羽ばたけ」 優男のピエールが髪をかき上げる。
「あなたの機体のカラーリングは悪くないわ。隣を飛ぶ許可を与えてあげる」 紫髪のデザイナー・シエルが冷たく言い放つ。
「宇宙の波の音を聴こうぜ...。流れに乗れば、どんな敵もかわせるさ」 マイペースなカイが笑う。
「星の動きも、敵の弾道も、すべては数式の通りです。...すでに勝利の演算は完了しました」 常に瞑想している天才・ラフールが目を開いた。これで彼らも4機編成だ。
...そして、僕の周りだけ、見事な空白地帯。
「(嘘だろ? 昨日の今日だぞ?)」
まさかの、技術はあるが、連携できない危険分子としてハブられ。 一人で突っ走るから編隊評価は落ちるし、僚機は危険になるし、何より獲物を全部持っていかれる。別の宙域に押し付けておけば、自分たちは安全にスコアを稼げる。 それがA組の出した合理的かつ冷酷な答えだった。
やがて、報告を終えた生徒たちが席に戻り、オットー教官がため息をついて顔を上げた。
「よし、あらかた決まったようだな。...ん? まだ報告に来ていない奴らがいるな」
教官の視線が、教室の隅に向けられた。 そこには、僕を含めて、いまだに誰とも組んでいない「4人」の生徒が、ポツンと取り残されていた。
一人は、もちろん僕。
そして窓際の席で、こぢんまりと並んで座っている美少女の二人組。 ルナリア出身で銀髪のアルテミスと、ヴォルク連邦出身で金髪のソフィアだ。
二人は出身も違うらしいが、双子みたいに一緒にいつも行動を共にしている。今も無言のまま、二人で器用に一つのお菓子の袋を共有し、もぐもぐとクッキーをかじっていた。そもそも彼女たちは、自分たちから僚機を探す気すらなさそうだ。
そして最後の一人は、教室のいちばん後ろの席で、マイ枕をぎゅっと抱きしめて突っ伏している男子生徒。 ロレンツォだ。
「あと5分」と寝言を言っている彼は、チーム決めが始まっていることすら気づかず爆睡していたため、完全に忘れ去られていたらしい。
「レイ、アルテミス、ソフィア、ロレンツォ。...お前ら、見事に余ったな」
オットー教官が呆れたように言った。 教室中から同情と好奇の視線が刺さる。
「...ま、ちょうど4機だ。計算も合う。よし、お前ら4機でA組F小隊だ。文句はないな?」
決定通知が僕の端末に届く。
連携不可能なスコア泥棒として隔離されたエース。 お菓子をシェアし合う無口なマイペース美少女二人組。 枕を持参して一生寝ている低身長スリーパー。
「(...前途多難すぎるだろ)」
僕は天を仰いだ。




