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『すみません...弾代って学費に含まれますか?』 ~ドケチな新入生、学園の宇宙を「コスパ最強」で無双する~  作者: 染抜き
学園編

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第12話 女王の賭けと決闘

ニナによる衝撃の機体解説が終わり、放課後のチャイムが鳴った瞬間だった。 僕の机に、真紅のカードが叩きつけられた。


「...約束通り、万全の状態になったわよね? 1位」


見上げると、そこには腕を組んだカチューシャが立っていた。 燃えるような赤髪。勝ち気な瞳。Aクラス序列5位にして、「緋色の女王」の異名を持つ彼女は、不敵な笑みを浮かべている。


「まさか、まだ本調子じゃないなんて言わないわよね?」


「ああ、おかげさまで全快だよ。わざわざ待っててくれたのか」


「勘違いしないで。手負いの獲物を狩っても私の名折れになるだけよ」


カチューシャはフン、と鼻を鳴らすと、僕の顔を覗き込み、悪戯っぽく唇を歪めた。


「ただ飛ぶだけじゃつまらないわ。...賭けをしましょう」


「賭け?」


「そう。勝った方が、敗者に『一つだけ何でも言うことを聞かせられる』権利。どう? 自信があるなら乗れるでしょ?」


教室がざわめく。 「何でも」という言葉に、男子生徒たちが色めき立ち、女子生徒たちが悲鳴を上げる。 僕としては面倒ごとは避けたいが、ここで断れば「逃げた」と言われ、卒業まで付きまとわれるだろう。


「...分かった。その条件でいいよ」


「言質は取ったわよ! 場所は第4甲板上空。真空の海で、私の靴を舐めさせてあげるから覚悟しなさい!」




放課後。「第一セレスタ、プライム」外壁、第4演習宙域。


漆黒の宇宙空間を、全長数キロメートルにも及ぶ超巨大な「船」が静かに航行している。 その背中には、ドームに覆われたきらびやかな学園都市が乗っており、まるで宝石箱を乗せた鋼鉄の島だ。


その遥か上空、人工重力が希薄になる真空地帯に対峙するのは、僕の『レイヴン』と、カチューシャの深紅の重宇宙戦闘機『ヴォルク・クリムゾン』。


彼女の機体は、無重力空間での機動を制御するための多数の姿勢制御バーニアと、翼下に大量のミサイルポッドを懸架している。見るからに「重い」。だが、その火力は戦艦並みだ。


『準備はいい? レイ』


「いつでも」


『いくわよ! エンゲージ!』


開始のシグナルと同時だった。 カチューシャの機体が、轟音なき爆発的な加速で翼下のハードポイントを開放した。


「(...開幕弾幕か。雪乃の時と同じだな)」


シュババババッ!! 数十発のマイクロミサイルが白い推進剤の尾を引いて宇宙を埋め尽くす。 僕はメインスラスターを吹かし、回避行動に移ろうとした。


雪乃の氷柱を避けた時と同じように、敵の射線の死角へ飛び込み、攪乱する。


だが、違った。 ミサイル群は僕の機体を狙っていない。あろうことか、僕が回避しようとした航路の空間そのもので爆発したのだ。


カッッ!!


まばゆい閃光。 それは通常の爆発ではない。彼女の機体に搭載された高熱プラズマ弾頭だ。 真空の宇宙に、紅蓮の熱の壁が出現し、レイヴンの進路を塞ぐ。


『あんたが雪女の氷柱をどう避けたか、何度も映像を見返したわ!』


通信機越しに、カチューシャの勝ち誇った声が響く。


『あんたは点の攻撃を見切るのは天才的ね。敵の弾幕の隙間を縫うように飛ぶ。...なら、その「隙間」ごと燃やしてしまえばどうかしら!?』


「...ッ!」


さらに、ヴォルク・クリムゾンの機首下部に懸架された、深紅の砲身が鎌首をもたげる。 光子銃が赤色に輝く。 通常のビームライフルとは違う、敵を溶解させることに特化した極太の熱線が薙ぎ払われる。


ジュッ...!! かすったデブリが一瞬で蒸発し、赤い霧となって散る。 上下左右、360度がプラズマと熱線。 宙域のエネルギー密度が一気に跳ね上がる。コックピット内のアラートが狂ったように鳴り響いた。


「(...なるほど。対策済みってわけか)」


真空では熱が逃げない。 ラジエーター(放熱板)が限界を迎え、ジェネレーターの出力が強制的にダウンする。熱でレーダーがホワイトアウトし、ロックオンが機能しない。


『まだよ! これで終わりにする!』


カチューシャの機体から、巨大な球体が射出された。 それはゆっくりと空域の中央に停滞し、次の瞬間――太陽のように膨張した。


『――喰らいなさい! 戦略級プラズマ機雷『クリムゾン・スフィア』!!』


ボォォォォォ...!! 直径数百メートルに及ぶ、灼熱のプラズマ球体。 それは爆発するのではない。そこに在るだけで、周囲の空間を焦熱地獄に変えるMAP兵器だ。 量産機の装甲なら、近づくだけで飴細工のようにドロドロに溶けるだろう。


『逃げ場はないわ! 熱で動きが止まったところを、撃ち落とす!』


プラズマの輝きを背に、ヴォルク・クリムゾンが急降下してくる。 全ての退路を断たれた。 完全に詰みの状況。


――普通のパイロットなら、な。


「(いい戦術だ。...相手が常識的な耐熱性なら)」


僕はため息をつきながら、モニターの数値を一瞥した。 外気温は数千度。普通の機体ならラジエーターが溶解し、ジェネレーターが緊急停止するレベルだ。 だが、レイヴンの内部温度計は、ピクリとも動いていない。


「(甘いよ、カチューシャ)」


僕は冷静にスロットルを握り直した。 僕の機体はエンジンだけじゃない。装甲も、フレームも、そして放熱板に至るまで、すべてが結晶体で作られている。数万度の熱エネルギーすら喰らって成長する怪物の素材だ。 この程度のプラズマなど、温かいシャワーでしかない。


「熱対策も...万全だ」


僕はスロットルの横にある、真紅のレバーに手を当てる。 彼女の想像を超える速度で、引導を渡すために。


「結晶炉直結」。 ほんの一瞬。心臓の鼓動ひとつ分の時間だけ、燃料噴射バルブを強制開放する。


ドォォォォォン!!


レイヴンのメインノズルから、真空を震わせるほどの莫大な光が噴出した。 プラズマの熱すら「エネルギー」として吸収したかのように、機体が青白く輝く。


「――そこだ」


僕は回避行動すら取らなかった。 灼熱の中を、真正面から突っ切ったのだ。


『なッ!? 熱でダウンしてな...嘘でしょ!?』


カチューシャの驚愕の声が聞こえた時には、もうすれ違っていた。 僕は一瞬で彼女の背後を取り、インメルマンターンで機体を反転。 そのまま無防備な彼女の機体の真後ろのポジションにピタリとついた。


ドッグファイトにおける絶対的な死角。 レイヴンが、ヴォルク・クリムゾンのメインスラスターを照準に捉え、赤く点滅する。


「チェックメイトだ」


ロックオン・アラートが鳴り響く。 トリガーを引けば、彼女のエンジンは蜂の巣だ。


『う、嘘...。後ろ!? いつの間に...!』


静寂。 プラズマが霧散し、静謐な星の海に、審判の電子音声が響き渡った。


『勝者、レイ!』


帰投シグナルに従い、セレスタの第1デッキへと着艦する二機。 キャノピーを開けて無重力のタラップを降りてきたカチューシャは、ヘルメットを抱えたまま、呆然と僕を見上げていた。


「...信じられない。あんな高熱源地帯を、平気な顔で突っ切ってくるなんて...」


彼女は震える声で呟いた。


「私の戦術は完璧だったはずよ。あんたの機体をオーバーヒートさせて、動きを封じて...。なのに、どうして計器もエンジンも生きてるのよ」


「完璧な作戦だったよ。ただ、僕の機体が少しな作りだっただけだ」


僕は肩をすくめた。


「僕のラジエーターは金属じゃない。結晶素材だ。あの程度の熱なら、むしろ機体のコンディションが良くなるくらいだよ」


「...はぁ!? 放熱板まで結晶!? あんた、どれだけコスト掛けてるのよ...馬鹿じゃないの!?」


カチューシャは目を丸くし、それからガックリと項垂れた。


「...負けたわ。理屈が通じない相手に、理詰めで勝とうとした私が馬鹿だった」


「...で、賭けの話だけど」


「っ...!」


カチューシャがビクリと肩を震わせ、顔を真っ赤にした。 プライドの高い彼女にとって、屈辱的な瞬間だろう。彼女はギュッと目を閉じ、叫ぶように言った。


「わ、分かったわよ! 負けは負けよ! 何でも言うことを聞くわ! ...パシリでも靴舐めでも、好きにしなさいよ!」


「いや、そんな趣味はないよ。」


僕は苦笑して手を振った。


「けどお願いがある」


「な、なによ」


「その1位とかあんたって呼び方、やめてくれないか?」


「...は?」


「これからは、名前で呼んでくれないか?」


カチューシャがポカンと口を開けた。 数秒の沈黙の後、彼女の顔色が急速に変わり始めた。悔しさの赤ではなく、羞恥の赤へ。 耳まで真っ赤に染まり、視線が泳ぎ始める。


「え、あ...そ、それだけ? もっとこう、屈辱的な命令とかじゃなくて?」


「ああ。クラスメイトなんだし、番号で呼ばれるのは味気ないからね」


「...っ」


カチューシャがもじもじと指先を弄り、俯く。 そして意を決したように、上目遣いに僕を見た。


「わ、分かったわよ...。負けたんだから、呼んであげるわよ」


彼女は深呼吸をして、小さな声を出した。


「...レ、レイ」


蚊の鳴くような、消え入りそうな声。 だが、その瞬間だった。


「ヒューーーッ! 聞いたかおい! 『レ、レイ♡』だってよ!」


物陰からニヤニヤしながら現れたのは、ジャックとガルシアたちだった。


「やるなァ、アミーゴ! 空でのダンスの次は愛の語らいか!?」


「青春だねぇ。僕の美しさには敵わないが、尊さは認めてあげよう」


ピエールが髪をかき上げる。 さらに、人垣の後ろから雪乃が歩み出てきた。 彼女は氷のような冷たい視線をカチューシャに向け、吐き捨てるように言った。


「公衆の面前で、男の名前を甘ったるい声で呼ぶなんて。...この淫乱女」


「は、はぁぁぁ!? い、いんら...ッ!?」


カチューシャが悲鳴を上げる。 雪乃は絶対零度の瞳で、さらに追撃した。


「負けた罰ゲームにかこつけて、名前呼びイベントを消化するなんてあざといのよ、駄犬。発情した猫みたいでみっともないわ」


「なっ、ななな...!?」


その一言で、カチューシャの何かが切れた。 ボォンッ! と音がしそうなほど顔を真っ赤にして、彼女はわめき散らした。


「う、うるさぁぁぁぁいッ!! あんたたち、いつから見てたのよ!?」


「最初からだヨ! どっちが勝つか肉まん賭けてたネ!」


メイリンが肉まんを頬張りながら笑う。


「も、もう知らない! 雪女も筋肉も、全員まとめて焼き払ってやるから覚悟しなさい!!」


「わー! 女王様がご乱心だー! 逃げろー!」


カチューシャが怒り狂ってジャックたちを追いかけ回し、それを雪乃が「ふん」と鼻で笑い、アーサーが苦笑しながらなだめる。 いつもの賑やかで、騒々しい光景。


「(...ま、悪くないか)」


僕はその様子を眺めながら、思った。 カチューシャのプラズマ機雷よりも、この連中の熱量の方がよっぽど制御不能かもしれない。


「おい、レイ! あんたも笑ってないで助けなさいよ! ...名前、呼んであげたんだから!」


遠くからカチューシャが叫んでいる。


「はいはい、今行くよ」


僕は笑いながら、彼らの輪の中へと歩き出した。


この勝利によって、僕の評価が「化け物」として定着し、2週間後の演習でスコアを独り占めされたくないからと「誰も組んでくれない」という未来が待っていることなど、今の僕には知る由もなかった――。

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