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『すみません...弾代って学費に含まれますか?』 ~ドケチな新入生、学園の宇宙を「コスパ最強」で無双する~  作者: 染抜き
1.入学試験編

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戦場から来た新入生

「...少佐。洗濯物は裏返してネットに入れてくださいと、何度言えば学習するんですか」


深い溜息を一つ。散乱した衣服の山から軍服だけを器用につまみ上げ、手際よく畳んでいく。ここは銀河の最果て、第6軍事惑星の最前線基地。その奥深くにある特務部隊隊長室――という名目の、ゴミ溜めだ。


デスクの奥から、ズズッ...とカップ麺を啜る音が聞こえる。書類の山に埋もれていたのは、銀河の英雄と称えられる美人上官、セラ・ヴィクトリア少佐だ。


「んぐ、むぐっ。だってレイ、あんたが全部やってくれるじゃない。私が家事スキルを上げたら、あんたの仕事がなくなっちゃうでしょ?」「俺の本職はパイロットです。家政婦じゃありません」「はいはい、分かってるわよ。...で、本題」


少佐は麺を飲み込むと、汁の飛んだ端末をこちらへ滑らせた。画面には『第1セレスタ・聖アストライア学園入学命令書』の文字。


「...は?」手から、畳んだばかりの洗濯物が落ちる。「学校?俺がですか?冗談でしょう。来週の大掃除のシフト、もう組んでますよ」「それはキャンセル。あんた、まだ16歳でしょ?軍規により、適齢期の兵士は教育機関へ送ることになってるの」


少佐はニヤリと笑った。


「あ、そうそう。試験のことなんだけど」「はい」「実力は隠さなくていいわよ。どうせ演習授業ですぐバレるんだから、最初からガツンとやってきなさい。...私の部下がナメられるのはしゃくだからね」


短く敬礼し、最後のゴミ袋を縛る。「了解しました。...少佐こそ、俺がいない間に部屋を腐海に沈めないでくださいね」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


数日後。第1セレスタ『プライム』の空港に降り立つ。


「うわぁ...。すごい!空気が甘い!」


ハッチが開いた瞬間、鼻孔をくすぐる清潔な匂いに目を細めた。鉄と油と火薬の匂いしかしない故郷とは違う。空調で完全管理された風。埃ひとつない舗装路。見上げれば、透明なドームの向こうに、無限の星空と美しい青色の惑星が輝いている。


学園へと向かう大通り。ビルの壁面に巨大なホログラム・ニュースが浮かび上がる。


『――臨時ニュースです。辺境の第7軍事惑星にて、アドヴァサリーの大規模侵攻が確認されました』


アナウンサーの緊迫した声。爆発する基地。逃げ惑う地上部隊。足が止まる。第7軍事惑星。昨日までいた第6惑星の、すぐ隣のセクターだ。


「あーあ。やっぱり始まったか。大掃除のシフト、キャンセルして悪かったな」


頭をかいていると、隣を歩いていたカップルの会話が耳に入ってきた。


「うわ、見てよあれ。まーたドンパチやってんの?」「やだー、気持ち悪い。あんなのがこっちに来たら最悪じゃん」「大丈夫だって。ここには聖アストライアの機士様がいるんだから。あんな虫ケラ、近寄れっこないって」「だよねー。あ、それより新しいカフェ行こうよ!」


彼らはニュースを一瞬で「不快な映像」として切り捨て、笑いながら去っていく。誰も銃を持っていない。防弾チョッキも着ていない。自分たちが踏んでいる平和な床の下で、どれだけの血と金が流れているかなど、想像もしない。


「...いいな」


バックパックを背負い直し、小さく笑う。


「俺たちが戦っているのは、この『無関心』を守るためなんだから」


ここに来る任務は「学生生活を学ぶこと」。なら、郷に入っては郷に従えだ。ここでも、彼らのように穏やかに、そして効率的に学ぶとしよう。


手元の端末で、学園までのルートを検索する。最短ルートはエア・タクシーで15分。運賃は...1200クレジット。


「は?たった数キロ移動するだけで、バルカン砲の弾薬一箱分?」


正気じゃない。迷わず「公共リニア・チューブ(学生無料)」のルートを選択する。時間はかかるが、コストゼロには代えられない。


静かで揺れのない車内に揺られること30分。目的の駅で降り、地上へのエスカレーターを上がると、目の前にその威容が現れた。


聖アストライア学園。今日はこのセレスタにある最高峰の機士養成校、その入学試験日だ。


「すげぇ」


ゲートの前で、足が止まる。


「外壁に装飾用の希少金属チタン?ゲートのセンサーは軍用グレードの最新型...いや、無駄に高機能すぎませんか?これ、あっちの基地の年間予算より高いんじゃ」


あまりの浪費っぷりに目眩を覚える。その時だ。


「ちょっと。いつまでそこで口を開けているの?」


背後から、氷のように冷ややかな声が降ってきた。振り返ると、豪奢なリムジンから降り立ったばかりの少女が立っていた。艶やかな銀髪に、雪のように白い肌。制服の胸元には、大和皇国の紋章が輝いている。


彼女――後に知ることになる大和雪乃は、こちらの顔など道端の石ころを見るような目で一瞥した。


「そこの田舎者。田舎のプレス機を見るような目で校舎を見るのは勝手だけれど、通路を塞がないでくれないかしら」「あっ」


ハッと我に返る。どうやらゲートの中央で突っ立ったまま、後ろの列を塞いでしまっていたらしい。


「すみません、このゲートの値段を計算していたら、つい圧倒されてしまって」「は?」


雪乃が「何を言っているのこの男」という顔をする。すぐに脇へ退き、道を譲る。


「お待たせしました。お先にどうぞ」


ニコニコと笑って先を促すと、雪乃は眉をひそめた。


「...あなた、プライドというものがないの?」「え?あ、いえ。急いでいるんですよね?どうぞ」「っ..変な男」


彼女は小さく吐き捨てると、逃げるようにゲートを通過していった。


「ふぅ。セレスタのお嬢様は手厳しいな」


苦笑しながら、ポケットから支給されたばかりの学生証を取り出した。リーダーにかざすと、『認証:特待生レイ』の文字が浮かび、ゲートが静かに開く。


よし、と気合を入れ直し、「ここから新しい生活が始まるんだ」そう思い試験会場に向かった


初日の科目は、筆記試験だった。案内された講堂に入り、机の上に置かれたものを見て固まる。


「紙...」


目の前にあったのは、真っ白で上質な紙の束と、一本の万年筆。周囲のエリートたちは、懐からマイ万年筆を取り出し、優雅にインクを吸わせている。おそるおそるペンを握る。


「これ、力加減間違えたら破れるよな?」


カリカリ、というペンの走る音が会場に響き始める。隣の席の貴族風の男は、まるで詩でも書くようにスラスラと数式を解いている。一方こちらは、まるで臨界寸前のリアクターを調整するような目つきで、解答用紙に向かっていた。


ブゥン。手元に、蚊のような極小の監視ドローンが飛んできた。瞳孔の動きや心拍数をスキャンしているらしい。


「(うっさいな...叩き落としていいか?)」


反射的に手が動きそうになるのを必死にこらえ、問題文に目を落とす。


『問:敵勢力アドヴァサリーとの遭遇時、指揮官として最も優先すべき事項を述べよ』


ペンを走らせる。


「民間人の安全確保と、部隊の生存」


教わった通りの模範解答で、解答欄を埋める。本音は『資源の確保と鮮度の維持』だが、ここでそれを書いても減点されるだけだ。優秀な兵士であり、優秀な機士たるもの、TPOは弁えなければならない。


――キーンコーン。


試験終了のチャイムが鳴る。周囲の受験生たちが「難しかったな」「僕は満点確実だよ」と談笑する中、一人、凝り固まった肩を回す。


「さて、次は実技か」


明日は、シミュレーターを使用した対人模擬戦だという。少佐は言っていた。『隠さなくていい』と。


ポケットの中のコアを指先で撫でる。


「そろそろ、行きますかぁ」

処女作なので温かい目をしながら見ていただけると幸いです

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