第四話
こんなにかわいらしい女性が来るとわかっていれば、色々準備しておくのに!!!
「急に申し訳ございません。天気が回復したら、すぐに立ち去りますので。」
それは困る!
せっかく出会えた理想の女性なのに、これでベルナードに帰してしまえば
連絡の取りようがないではないか。
俺がベルナードに行ったらセリス・アルメリアの餌食になるだろうし。
今日のこのチャンスをモノにしないと、俺はもう女性と知り合うことなどない!
「疲れただろう。この椅子にでも座ってくれ。」
よし!うまく言えた!
「えっ、でも、貴方が座る場所が無くなってしまうではないですか。」
しまった!そうだった……。
もうこうなったら、この方法しかない!!
「俺は、すこしやることがあるから遠慮せず、座って。」
俺は直ぐに立ち上がり別室と言っても、ほぼ使用していない部屋に向かう。
「確かこの辺に……。あった!」
作業に使おうと簡易的な背もたれの無い椅子を作ろうとして途中だったのだ。
しかし、まだ形にはなっていない。
これを数分で、悟られずに製作しなければならない。
幸いはめ込み式で作ったので、作れないことは無い……が。
はめ込むには、工具で叩き込まなければ立て付けが悪い。
しかし、そうは言ってられない。
目を離したスキに帰ってしまうかもしれない。
全体重を掛けてはめ込む。はめ込む。はめ込む……。
「出来た!!」
ここまで1分弱。
今作ったとは思わないだろう。
直ぐに部屋を出ると、彼女は、俺がいつも座っている椅子にちょこんと座っている。
かわいい。
「俺は、この椅子に座るから遠慮なく。」
「でも、そちらの椅子は背もたれがないではないですか、私がそちらに座ります。」
そう言って腰を上げたところで、制止する。
「この椅子は、俺専用に作ってあるから、他の人ではバランスが取れないんだよ。」
嘘である。
叩きこんでいないため、高さがちぐはぐなだけである。
「そうなんですね。わかりました。」
これで、定位置を作ったぞ……っと!
ああっ!やってしまったーっ!
何も考えず、正面に座ってしまった。
これでは、どこに視線を向けていいかわからない!
「えっと……。私に何かついていますか?」
無意識に見つめてしまっていたようだ。
「いや、なにも。」
吸い込まれそうな大きな目。
整った顔立ち。
透き通るような肌。
どこを取っても理想の女性だ。
よく見ると腰に短刀を掛けている。
山に入るくらいだから、そのくらい必要だな。
荷物は、数日分というところか。
人探しというには、少々少ない印象だ。
「探している人というのは、山に用事が?」
「いえ、山というか、山に居そうな感じです。」
詮索すると嫌われそうだから、このくらいにしておこう。
おっと飲み物すら用意していなかった!
ここはスマートに準備しないと。
って火を起こしてねー!
普段水しか飲まないのに、この時間に火を着けているわけがない。
それに、魔法が出来ない俺は、火打ち石で火を起こす必要がある。
これが何より面倒で、火が安定するまで結構な時間がかかる……。
が!仕方ない最短で火を起こす!!
カチッ、カチッ、カチッ
風の音に紛れて、火打ち石の音が響く。
早くつけとばかりに打ち付ける手に力が入る。
着かない!焦る気持ちと裏腹に火打石の音が大きく響く。
「少し手を引いてください。」
言われるがままに手を引くと、煙すら出ていなかった竈から炎が上がる。
「すごい……。」
思わず声が漏れてしまった。
着いたばかりだというのに安定した火力。
「生活魔法は得意なんです。」
生活魔法が得意!
なんて良い響きなんだ。もう嫁にほしい。
お茶を持つ細い指
上品な佇まい
どこを取っても理想の女性だ。@2回目
こんなことを考えている間に、別の引き留め策を考えないと。
嵐になってくれるのが一番良いのだが、今のところその様子はない。
暗くなれば、帰ることは不可能だろう。それまでにどうにか足止めを。
足止めするには……。そうだ会話だ!
「風が強いね。」
「そうですね。」
「……。」
「……。」
普段人と交わりをもたない俺には無理だ!
そうだ!なにか特技を見せよう。
っ……。
俺の特技は農作業だ。結果が出るまで数か月かかる。
う~む
「あの、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
そう言えば、俺自身が名乗っていなかった。
「レオン・バルディア。俺もベルナード出身だ。」
彼女は、ふっと笑顔をこぼし
「レオンさん……。私と同郷ですね!」
笑顔が素敵すぎてまぶしい。
この笑顔を独り占めしたい!
この幸せな時間を終わらせないためには
これからどうやってこの娘を引き留めるか……。
”泊まっていけば?”
なんて言ったら、警戒されるだろうし。
かと言って
”もう遅いから街の宿屋にでも”
なんて言っても、拒絶しているみたいだし、第一、俺の意思に反する。
困った。
実に困った。
俺に何かできること、何か出来ることは無いか…。
俺はただの農民だ。ほかに特に得意なことはない。
……。そうだ、この手がある!
「あまり人が訪ねてくるようなところじゃないから……。
俺の作った野菜を食っていってくれないか?」
彼女は顔を上げ、笑顔を見せてこう返した。
「あっ!ぜひいただきたいです!」
よっしゃー!
心の中で最大級のガッツポーズをした。
しかし、この時俺は忘れていた。
自分が殆ど料理なんてしたこがないことを……。