第三話
もうすぐグレイモアに到着する……。
街や村をいくつ経由しただろう。
どこでも聞こえてくる最強パーティー『クラリオン・ヴェール』の噂。
特に剣と弓の達人でありなが、光の祝福を受けた最強の冒険者
「セリス・アルメリア」
騎士が10人いても、倒せるかわからない魔物を1人で何体も討伐
パーティーメンバーも最強の名に恥じない強さで、敵を狩るという言葉が一番似合うという。
女性のみのパーティーというが、どう考えてもゴリラがそれ以上。
もしかしたら、熊というかグリズリーかもしれない。
そんな人と会話が通じるのか?
婚約破棄してくれなんて言ったら、切り落としより恐ろしい事態になるんじゃないか?
不安に押しつぶされそうになりながら、重い足取りで歩みを進める。
街を出発してから、今日で7日。
恐ろしい噂以外、耳に入らなくなった。
もう婚約受けてしまった方が良いのではないか?
いや、ゴリラと一生一緒に生活なんて御免だ。
まだ23の俺は、もっと良い出会いがあるはずなのに……。
かわいい子と付き合いてぇなぁ。
美人さんとデートしてぇなぁ。
もういっそのこと全部投げ出してしまおうか……。
……ん、まてよ
そうか!
その手があった!
俺は農民だ。荒れていても生きていくくらいの作物は作れる。
街から離れて、一人で生計を立てればいいじゃないか。
もうそれでいい。自分を守ることで精いっぱいだ。
あれから1月が過ぎた。
俺はグレイモアに行かず、1つ手前の街で小さな家と田畑を譲りうけた。
場所は街から少し離れており、夜は魔物が出るが、家を出なければ問題ないという場所だった。
俺はここに住み、しばらく身を隠すことにした。
もしかしたら、何年、何十年かかかるかもしれないが、グリズリー
いや、セリス・アルメリアの餌になるよりはマシである。
幸い田畑は荒れておらず、自然に捲かれたであろう作物も育っていた。
家も小さいものではあるが、1人で住むには十分広く、井戸もあり申し分ない。
街も近くにある、普段人と会話することが無く寂しいというところを除いて
生活に困ることはなかった。
それから数か月の時が流れた。
季節が変わり、天候が荒れる日が増えてきた。
今日も強い風が吹き荒れている。
夜になる頃には、大雨が降るであろう。
魔物が出るこの辺りで夜に外出はしない。
家から出なければ特に問題はない。
ドンドンドンッ!
突然、ドアを叩く音が鳴る。
魔物か!?
いや、魔物が出るには早い時間だ。
しかし、用心するに越したことはない。
ドアをノックする魔物など聞いたことは無いが、近くにあった農機具を構え、ドアに近づく。
すると、声が聞こえる。
「道に迷ってしまい、家が見えたので……。開けてもらえませんか。 」
女性の声だ。
声真似をする魔物など聞いたことがないが、ここは慎重にするべきである。
「ここは、魔物が多い。あなたは魔物でないと証明できるか?」
どう証明するんだよ……。
と自分で思ったが、女性はこう答えた。
「ベルナードから来ました旅の者です。訳あって人を探していたところ道に迷ってしまって。」
ベルナードは、俺の住んでいた街だ。
同郷ならば、同郷の質問をすれば良い。
「ベルナードの新興農村地域の名前はわかるか?」
「ベッカです。」
間違いない同郷の女性だ。
俺は厳重に閉ざされた扉を開けた。
するとそこには、かわいらしい女性が佇んでいた。
しかし、俺の顔を見てピクリとも動かない。
若干、驚いているような顔のまま、小刻みに震えているようにも見える。
風が強いのに、それを忘れたかのようだ。
「あの、風が強いので中に入ってくれないか?」
「あっ!ごめんなさい!ぼーっとしてしまって!」
そそくさと中に入った彼女は、こう自己紹介をした。
「リセア・ルミナと申します。」
後に思う。
完全に一目惚れだった。