第二話
とんでもないことになってしまった……。
「ベッカのレオン・バルディアと結婚します!!!」
酒場に響き渡る悲鳴にも似た叫び。
そう、酔った私の声だ。
「おいっ!セリス・アルメリアが結婚するんだってよ!」
「誰だ?レオンって知ってるか?」
「ベッカってあの新興農村地域だろ?知るわけないだろ。」
「でも、あのセリス・アルメリアが叫ぶくらいだから、相当な奴なんじゃないか?」
そこからの記憶は、全くない。
叫んだ記憶もあるような、ないような……。
「あんた、またベッカに行くの!?ホント飽きないわね!」
パーティーメンバーの言葉を尻目に、私はベッカを目指す。
目的は、レオンに会いに行くため……。という名の遠くから眺める為……。
こんな感じで、毎週のようにレオンに会いに行っては、声もかけられず帰る日々を送っていた。
そう、あの叫びをするまでは……。
次の依頼はかなり危ない地域であるグレイモア。時間もかかるし、
いくつもの街を通る必要もある。
しばらくレオンに会いに行けないことが辛くて、飲みすぎてしまったのが叫びの原因だ。
幼い頃、レオンと私はご近所でよく遊んでいた。
その頃からレオン以外の男性に興味がない。
私が光属性の能力に目覚めてから、街の中央部に引っ越し、ずっと会えない日が続いたけれど
冒険者になってからは、農村で暮らしている時も、引っ越してベッカに行っても
毎週のように会いに行っていた。
恥ずかしくて、話しかけることが出来ないけれど……。
でも、いつかもう一度仲良くなって、結婚すると心に決めている。
明日からグレイモア……。切り替えないと!
「ただいま~。」
依頼を受けてから、3か月。やっと家に帰って来れた。
さっそく明日はベッカに……。
「婚約手続きしておいたわよ。」
婚約?誰の?
「お母さん、お父さんいるのに結婚するの?」
「何言ってるのよ。あなたの婚約でしょ?」
「え?誰と婚約するの?相手は?えっ?えっ?」
「バルディアさんとこの息子さんでしょ?自分で周りに言いまわっていたそうじゃない。街中の人が知っているわよ。」
記憶にない……。もしかして、あの酒場の時!!
「いや、たぶん、それ私が勝手に叫んだだけで、レオとは、もう何年も会ってません……。」
「でも結婚したいんでしょ?」
「それはしたいですが。」
「じゃあ、いいじゃない。いつしても同じよ。」
「そーいうんじゃなくて、相手の意思確認をしてないってこと!」
「そうなの?でもバルディアさん、喜んで手続きしてくれたわよ?はい、これ証拠の指輪。」
指輪を受け取る。
レオが!?私との結婚を喜んで!?
「あっ、お父さんの方ね。そういえば、本人はいなかったわね。上級司祭様がいるタイミングは少ないから、そのタイミングよ。」
やっぱり勝手に進めてる……。
「とにかく、レオに大変失礼なことをしてしまってるから、事情を説明しないと!」
「いいじゃない。結婚したいなら。」
「こんな強引にしたら、レオに嫌われちゃう。もう生きていけない……。」
奈落の底に落とされた気分だわ……。
お話も出来ないくらいなのに、結婚なんてどう説明すれば……。
「そういえば、レオ君、グレイモアに向かうってバルディアさん言ってたわね。」
グレイモアに?
「なんでも、あなたに話を聞かないと、とかなんとかで?会わなかった?」
「そんな大事なことを!先に言ってよ!」
「まだ帰ってきてないみたいね。グレイモアってそんなに遠いのかしら?」
「まって!いつ出発したの!?」
「もう2か月くらい前かしら?」
ありえない……。
グレイモアまで掛かっても10日くらい
帰るまでに1カ月もあれば十分なのに。
「レオに何かあったのかもしれない!私、グレイモアに向かう!」
「グレイモアから帰ってきたと思ったら、またグレイモアに?忙しい子ねぇ。
そのうち帰ってくるわよ。」
「グレイモアの街は治安も保っているけど、外はとても危険なところなの!
レオに何かあったら、私の責任だ……。」
直ぐに身支度を整えると、家を飛び出し
酒場に居たパーティーメンバーにグレイモアに向かうことと
しばらく休むことを伝え、その足でグレイモアへ向かった。
もしレオに何かあったら、私はどうやって償えばいいのだろう……。
そんなことを考えながら、絶望に押しつぶされそうになっていた。