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第9話 聖属性と回復魔法

 翌朝、すっきりとした気分で目が覚めた。支度(したく)を整え朝食を()ませた後、昨日の中広間で講義の続きが始まる。


「では、魔法の講義を始めましょうか」


「はい、お願いします」


「今日は私の専門分野、聖属性魔法について伝授いたします。聖属性は神々のエネルギーを媒介とするものです。主に回復系、浄化系、加護系、その他といった用途で用いられます」


 エレノーラの説明によると、聖魔法は神官や修道士、聖女などの職に就く人々によって管理されてきたそうだ。各国ごとに魔法の分野に特長があり、国家にとっての貴重な資産なのだという。


「これを先にお渡ししておきますね」


 エレノーラは白い少し厚い本を出して私に手渡す。


「これは?」


「聖魔法を記した魔導書です。主だったものはそこに網羅(もうら)されています」


 「なるほど。ありがとうございます」


 私は本を開き中を見てみた。ページをめくると魔法名と呪文、効果などが記されている。


「こんなにたくさんの魔法があるんですね」


 不思議と文字や単語は頭の中ではっきり理解できる。私は感心しながらページをめくる。


「そうですね。それらをすべて覚えていただきますわ」


「これ全部ですか!」


 見るからに複雑なものも含まれているうえ、相当な量だ。覚えられるだろうか。


「ええ。それだけではありません。さらに何冊かありますので、それも覚えてもらいますよ」


「ええ! まだあるの!?」


 これはさすがに参った。こんな膨大な量を一気に覚えられるはずがない。前途多難になってきた。


「そうですね。このくらいはしてもらいますよ」


 エレノーラが腕組みしながら答える。何か彼女が鬼に見えてきた。


「やれる気はしませんが、覚えるしかないんですね」


「ええ。覚えてもらいますよ」


「はい……」


 私は(なか)ばあきらめつつ、無意識にインベントリを呼び出し魔導書を収納する。その瞬間、頭の中に一気に違和感が広がった!


「うおおおおお!!!」


 膨大な知識が頭の中に流れ込み、すみずみまで()け回ったのちに集約されていった。今までにはない不思議な感覚だった。


「ハァ、ハァ、ハァ、何なんだこの感覚……」


 翻弄(ほんろう)されてしまい息が乱れるが、少しして元に戻った。ほんの十数秒間の出来事。一体何が起こったんだ!?


「どうかしましたか? かなり息が上がっていましたが」 


 私の違和感を感じ取りエレノーラが(たず)ねる。


「あ、いえ。大丈夫です」


 大丈夫ではないのだが思わず取り(つくろ)ってしまった。


「そうですか、様子が変わったので何かあったのかと。念のため応急処置をしましょうか」


 エレノーラは私にヒールをかけてくれる。状態は良くなった。


「ではそろそろ参りましょうか」


 不意にエレノーラから言われて(あせ)る。


「え? どこか行くんですか?」


「はい、今から行きますよ」


「わ、わかりました」


 私に確認してから、エレノーラが詠唱の構えを取る。


「では移動しますね。テレポート」


 魔法が発動すると、それまでいた景色が消え、人気(ひとけ)の多い場所へと転移した。


「ここは?」


「修道院の中にある治療院です。負傷した人や病気で治療中の人々が集まる場所です。ここで魔法を見てもらい、実践してもらいます」


 患者と(おぼ)しき人々がたくさん集まっている。修道女達が慌ただしく動き回っている。その中に患者に魔法を(ほどこ)す修道女を見つける。


「ちょうど今ヒールで治療しているところですね」


 患者が負った傷がヒールによってみるみる(ふさ)がっていく。


「なるほど。これはすごい」


 傷が治り回復した患者は感謝して治療院を後にする。そんな姿に違和感を感じる。


「彼らからは代金をもらっているのですか?」


「ええ。そんな高額ではありませんがね。お布施(ふせ)程度ですね」


「それだと経営が苦しいのでは?」


「毎月国から一定の援助が出ていますね」


 そうなのか。何か魔法とは関係ないことを聞いてしまった。エレノーラがベッドで横たわる患者の前に向かう。


「こんにちは、お加減はいかがですか?」


 今日新たに運ばれてきた急患のようである。苦しんでいて返事どころでは無さそうだ。


「では始めましょうか。見ていてくださいね」


 エレノーラはそう言うと、患者に手をかざして詠唱する。


「キュア。ハイヒール」


 術が発動して光が患者を包む。苦しんでいる患者の顔の血色がみるみるよくなり、うめき声が消える。穏やかな顔つきになり、目に光が戻ってくる。


「もう心配ありませんよ。少し休んだら帰ってかまいません」


「おお! 痛みがなくなった! 神の御業(みわざ)じゃ。ありがたや」


 すっかり完治した初老の男性はエレノーラに深く感謝している。なるほど、これが回復魔法か。


「さて、ではタクトにもやってもらいますね。それでは……」


 エレノーラはあたりを見回す。とその時隣のベッドで寝ている男性が急に咳込(せきこ)みだす。


「ああ、この方がいいですね」


 男性の近くまで行くと私に言う。


「タクト、この方にヒールをかけてあげてください」


 私は一瞬戸惑うが、観念してエレノーラのそばへ行く。苦しむ患者を前にしてもどう対応したらいいかわからず緊張がこみ上げる。


「さあ、やってみてください。教えた通りにやれば大丈夫ですよ」


 エレノーラの催促(さいそく)(あらが)うこともできず、やってみることにする。患者に対して手をかざす。


「ええい、ままよ! ヒール!」


 詠唱すると突然魔法が発動する。信じられない光景が広がる。緑の光が患者を包み込み、一気に回復していく。(せき)は消え、男性の体に生気がみなぎる。


 「おお! どうやらヒールだけで病気まで直してしまったようですね」 


 患者の様子にエレノーラが驚く。男性は自分の体の変化を確認してから、私に喜びを伝えてくる。


「ありがとう! 苦しいのが取れた。もう大丈夫だ。君、すごいね」


「いいえ、お役に立ててよかったです」


 私は少し照れ笑いしながら返す。私自身まだ起こったことが信じられなかった。だが不思議とできたことには違和感を感じていない。


「素晴らしいですね。では次の魔法に移りましょう」


 その後もエレノーラとともに様々な状態の患者に聖魔法をかけていった。 


 やがて治療院の患者達が元気になり、私達は中広間に戻って魔法習得の続きを行った。エレノーラの導きで私は次々と魔法を習得していった。


 魔導書をインベントリに収納してから何かが変わった。その後魔法の発動に困ることはなかった。


 昼食をはさんでエレノーラの指導は続き、相当な数の聖魔法を実践していった。気づけば夕暮れになっていた。


「では今日はここまでにしましょう。あとは自習しておいてくださいね。お疲れ様でした」


「ありがとうございました。エレノーラ様」


 エレノーラの付きっ切りの指導に私はいつしか敬称をつけるようになっていた。


「どういたしまして。食事を()ってからゆっくり休んでくださいね」


「はい。あ、そうだ。エレノーラ様」


「何でしょう」


「お願いがありまして、残りの聖属性の魔導書をお借りできますか?」


「いいですよ。殊勝(しゅしょう)なことですね」


「ありがとうございます」


 エレノーラ様は魔導書を数冊出し、私に貸してくれた。彼女は食事をしに中広間を後にする。私は本を両手で持ち部屋に持ち込むことにする。


 疲労感を感じつつも、様々な体験のわりに思ったほどではないことに少し驚いている。私は部屋に戻り、魔導書の収納と夕食を()ることにした。


ここまでお読みいただきありがとうございます!


「面白いかも!」「続きが読みたい!」「陰ながら応援してるよ!」


ほんの少しでもそう思ってくれた方は、いいねを押して、ブックマークや広告下の「☆☆☆☆☆」から評価していただけると幸いです。



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