第8話 魔法の講義
夕食後、約束通り私とエレノーラは中広間で集まり、彼女から魔法について手ほどきを受ける。すでに準備は整っており、講義が始まるはずだった。
「その前に先日お話しした職業ですが、タクトのこれからの頑張り次第では、大賢者以上のクラスになる可能性もありますよ」
「え? それ以上があるのですか?」
「一般にはありません。それ以上は勇者以上、伝説級の職業となりますね。固有の職業を持つ者もいます」
「そうなんですね」
伝説級の職業。ゲームでもそんなの見た事ないな。大魔導士の上位、超位魔導士?
「それと、簡易的に鑑定もしてみましょうか。約束していましたし」
「あ、お願いします!」
エレノーラは水晶を出現させ、念を込め始める。水晶が呼応し光を発する。
「鑑定が出ましたね。読み上げます。総合、鑑定不確定。基礎値、測定不能。使用可能スキル、全魔法、錬金術、召喚術、神術……」
「え? 鑑定不確定とは……」
「能力が高すぎて測れないのですね。伝説級以上の力を有しているようです。追放なんてとんでもない事、引き留めて正解でしたね」
「ハハッ……」
「まあ、能力が高いことは分かっていましたからね。追放は論外でしたよ」
「結局ステータスもわからないですか。神術というのは?」
「神の御業に関するスキルです。私も一応使えますが、他の人が持っているのを見たのは貴方が初めてです」
そんなものが使えるのか。前の世界の自分では考えられない能力だな。何かとんでもない事が起こっている予感。
エレノーラさんこのスキルを使えるのか。やはりこの方はすごい人なんだ……
「ギルドで測っても数値までは出ないかもしれませんね。ほかの方法を探しておきますね」
「ありがとうございます、エレノーラさん」
エレノーラは水晶を空間から消して私に向き直る。
「さて、ではそろそろ魔法の講義を始めましょうか」
「わかりました。お願いします」
エレノーラはイメージボードのようなものを出現させて説明を始める。
「魔法は自然界にある元素やマナを利用して力を生み出す術です。属性や使用目的によって様々な魔法が存在します」
エレノーラは一つ一つ丁寧に説明してくれた。その内容は私がゲームの世界で得たものとほぼ同じだった。
属性は火・水・土・雷・風・木・氷・聖・闇、そして無属性。用途としては攻撃系、防御系、補助系、回復系など。
「タクトにはまず基礎になるものを覚えてもらいます。それが習得できれば、私の領域である聖魔法と無属性魔法について伝授いたしますね」
「わかりました。よろしくお願いします」
エレノーラは涼しげな顔で片手を出し、手のひらに炎を出して見せる。
「これが炎の魔法です。出し方は色々ありますが、一通り学んでもらいますね」
術式呪文を唱える詠唱式、イメージを増幅させて唱える即効式、杖や魔道具を介して発動する発動式。エレノーラは一つ一つ原理を説明し私に伝授してくれた。
「おお! 火が出たぞ。 だけどちょっとでかいな」
イメージしていたよりかなり大きめの炎が発現する。
術による効果や威力を体に受けずに発現する方法も前もって教えてくれた。そのおかげで私はやけどをすることなく火を発動できている。
「素晴らしいです! 術の威力の調整についても説明しますので、覚えてやってみてくださいね」
「わかりました」
「魔法の発動に関しては問題なさそうですね。では杖をお渡ししましょう」
エレノーラは何もないところからスティック型の小型杖を出現させ、私に手渡してくれた。
「今私が出した方法が、物を移動させて出現させる魔法ですね。錬金術とは違います」
彼女ははにかみながら答える。
「なるほど。ぱっと見わかりませんが、術者的には大違いですね」
「その通りですわ」
その後杖を使っての魔法の発動について指導してくれた。教え通りにやってみると、魔法はすぐに発動した。
「うまくいきましたね。素晴らしいですわ」
「私の方が驚いてますよ。エレノーラさんの指導のおかげです」
「最初からここまでできる人は見たことありませんわ。これは相当な素質がありそうですね」
エレノーラは無邪気な子供のような笑みを浮かべて答える。心なしかその瞳はキラキラ輝いているようにさえ見える。
この後、一通り属性についても指導を受け、私はすべての属性の基礎魔法を発現させることができた。
「全属性を操れる術者は私の知る限りいません。タクトがこれからどうなっていくのか楽しみですわ!」
「そうなんですね……」
「皆さんそれぞれ向き不向きやできない場合もありますからね」
彼女は今の状況が特殊なことを教えてくれたが、指導自体は淡々と慣れた感じだった。きっと多くの人に指導してきたのだろう。
「今日の講義はここまでにしましょう。明日からは属性ごとに魔法を覚えてもらいますね。明日は聖属性について講義します」
「わかりました。ご指導ありがとうございました!」
こうして講義の一日目は幕を閉じた。特段疲れてはいなかったのだが、部屋に戻りベッドに横になると、すぐに深い眠りに落ちていった。
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