第48話 超電の雷帝②
『これが我の最大の業だ。受けるがいい! フォトン・アーク・レクイエム!』
雷帝の姿が消え、巨大な雷が私の頭上を二度襲う。だが雷はすべて反射し、天井を打ち抜くだけだった。階層の天井は固く、穴を開けるには至らない。
「残念だったな。では終わらせようか」
私はグレッグ達に結界を張った後、地属性呪文を唱える。
「『重力領域』展開」
私の周囲二キロほどに重力場が発生し、消えていた雷帝が出現して地面に叩きつけられる。
『ぐがあああぁっ!』
十Gを越える圧力が加わり、祭壇以外の岩が崩壊し、地面が少し沈下する。雷帝の悲痛な叫びが反響する。だが戦いを終わらせるために容赦はしない。
「『大地重力掌』」
魔法が発動し、雷帝の上に十メートル以上の岩の掌が現れ、雷帝にのしかかる。やがて骨の砕ける音がして完全に押しつぶし、消滅する。
消滅した地面にはドロップアイテムと硬貨が散乱している。その中には金貨も混じっている。
「なかなかに強い相手だった。耐性と耐久がなかったらこっちがやられていたな」
私は術を解き、重力は元に戻り静寂が訪れる。グレッグ達を探すと結界ごと少し地面にめり込んでいる。結界を解き、回復呪文を唱える。
「すまないみんな。範囲高位治癒魔法!」
効果はグレッグ達を癒し、身体と状態の異常を回復させる。やがて皆が意識を取り戻す。
「俺達は確かあのボスにやられて……っていないぞ!」
「グレッグ大丈夫か? これから出すよ」
「一体どういう事だ? わかるように説明してくれ」
私は皆に雷帝を倒したこと、勝てば召喚させてもらう約束をしていたのでこれから復活させることを話した。
「やっぱりタクトはすげえな。また助けられたな」
「復活させたらあのアイテムのことも聞いてみるか……」
私は皆に下がってもらい、呪文を唱える。
「光の祝福よ、肉を縫い、血を巡らせ、骨を結べ。我が声に応え此処に完全なる姿を現さんことを! 『蘇生術』超電の雷帝!」
魔法が発動し、私達の前に光が集まる。光は巨大な肉体を再生していき、雷帝が目の前に出現する。
「う、嘘! 信じられない」
カーラが驚嘆の声を発する。
「ま……まさか本当に復活させるとは!」
「復活の魔法、初めて見ました……」
グレッグとアーノルドが感嘆の声を上げる。
雷帝は少しぼーっとした後気がついて自分の身体を確認し始める。
「復活させたぞ、雷帝。私が勝ったから約束は守ってもらうよ」
雷帝は私の言葉に気づいて事態を把握する。
『なるほどそういう事か。見事である! 約束を果たそう』
雷帝はそう言うと、地面に落ちている光る玉のアイテムを指差す。
『そこにある雷晶帝核を拾うがいい』
雷帝の言葉に私は一つ問いかける。
「このアイテムに呪いはかかっていないだろうな?」
『ああ。大丈夫だ』
雷帝の言葉を信用して光る玉を拾い上げる。帯電しているが問題はなさそうだ。
『それで我と契約するがよい。「契約せよ」と言うだけだ』
「わかった」
私は雷帝の指示通り玉をかざして「契約せよ」と発する。
玉は輝きを増して反応すると、また元の明るさに戻る。
『これで我とうぬの契約は成立した。いつでも呼び出すがよい』
「ありがとう。あと二つほど聞きたいことがある」
私の言葉に雷帝は少し興味を示す。
『何だ?』
「まず、今回貴方が出現した条件、うちのリーダーが勝手に祭壇にセットさせられたのだが、あのアイテムに呪いがかけられていたのか?」
『その通りだ。しかし普段はそのような事はない。今回は特殊な状況にあったのだ』
「どういうことだ?」
『実はうぬらの前に我を呼び出した人間達がいたのだが、戦いの途中で彼らは私の前から逃亡してしまったのだ。それ故、我はその玉に宿り次の者達に強制させる呪いが着いたのだ』
「そうだったのか……」
「そんなことがあったのか。そりゃあ気づかないわ」
グレッグが雷帝の話に頷きながら言葉を漏らす。
「気づかないじゃなくて、気をつけなさいよ、グレッグ!」
カーラがすかさず叱責する。全くその通りだ。
「済まねえ、気をつけるよ」
今回の罠ともいえるこの呪いは下手をすれば全滅しかねない出来事だった。今後パーティーとしては慎重に対応しなければならないだろう。
「もう一つの質問、なぜそんなに強い雷帝がダンジョンの中層にもならない十三階層に現れるのだ?」
私は率直な思いを雷帝に尋ねた。雷帝は少し考えてから答える。
『ふむ。それはダンジョンの創造主の意思だからだ』
「ダンジョンの創造主……」
『そうだ。このダンジョンは魔界によって創られておる。我をスカウトし、この場所に配置したのは創造主である魔王様だ』
「魔王だと?」
私はいきなりその名前を聞いて驚く。将来対峙し倒すべき相手だ。
『魔王様はこうおっしゃった。「攻めてくる人間達に隙を与えたくない。簡単に攻略されるようでは面白味がない」と』
なかなかに恐ろしい魔王だと聞いていて思う。国王が殲滅したいという気持ちも少し理解できる。
『この先にも階層ボスや裏のボスが存在するが、楽に勝てるような者はおらぬ。それは創造主の考え抜かれた配材だからである』
「なるほど。その魔王はどんな方なのだ?」
私の問いに雷帝はニヤリと笑い答える。
『魔王クライスライン様は誠に恐ろしく、頭の切れるお方、そして面白きお方である』
「魔王クライスライン?」
『そうだ。もし我を倒す者が現れれば教えても良いと賜っておった。よく覚えておくがよい』
これほど強い雷帝にそう言わせるだけの存在なのか。魔王とはやはり気を引き締めなければ敵わないのだろう。
「わかった。質問は以上だが、あとはまた召喚した時に話そう」
『そうか。では我はこれで帰らせてもらう』
超電の雷帝は静かに姿を消す。私は雷晶帝核をインベントリに収納する。
残された私達【勇ましき翼】はアイテムと硬貨の回収を始める。
「それにしてもあの裏ボスを倒すとは、タクトはやっぱりすげえな」
「だが本当に強い相手だった。特にスピードではどうにもならなかったよ。対策していなければやられていたと思う」
「そりゃあ、裏ボスだからな。冒険者でもまともに倒せたという話はあまり聞かないぜ。強いってのはギルドでも把握されている。皆避けて先に進むからな」
グレッグがさも当たり前のように教えてくれる。冒険者にとって裏ボスとはそういう存在なのか。ならば存在自体に意味はあるのか?
「グレッグ、アイテムを回収したらギルドに戻りましょう。今日は早く休みたい気分です」
珍しくアーノルドが口を開く。カーラも頷き同意している。
「お、おう。わかった。じゃあ回収を頼むぞ」
数分後、作業を終えた私達はポータルからギルド本部へと帰還する。こうしてダンジョン三日目の攻略は幕を閉じたのだった。
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【まめちしき】
【フォトン・アーク・レクイエム】…… 超電の雷帝最大の必殺技。フィールド全体を閃光で覆う超範囲スキル。スタン・沈黙・防御無視の雷撃。一時的に実体を失い「雷そのもの」と化す。
【雷晶帝核】……超電の雷帝を召喚するためのアイテム。黄色く光る手のひらサイズの水晶の玉。アイテムとしての効果は雷耐性+100%、スタン・沈黙・感電無効
、雷属性スキル威力 +20%などがある。
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