第44話 ダンジョン三日目
【勇ましき翼】でダンジョン攻略を開始して三日目の朝。私達は冒険者ギルド本部にいる。グレッグが突然ギルドから呼び出され皆で本部に転移したのだ。
ギルド運営本部はパーティーのリーダー、ソロメンバー達を招集し、緊急招集会議が行われている。
三十分ほど待機していると終了のアナウンスが流れる。しばらくしてグレッグが戻ってきた。
「グレッグ、どんな内容だったのです?」
心配していたアーノルドが真っ先に切り出す。
「そうだな。ここは混雑しているから場所を変えてから話そう。タクト頼む」
「わかった」
私は皆をグレーター・テレポートで集合場所だった地点へ転移させる。グレッグは水を飲んで落ち着くと、私達に話し始める。
「ギルドから冒険者全員に注意喚起があった。ここ最近、【冒険者キラー】によって冒険者が襲われる事例が増えているらしい」
「冒険者キラー?」
「ああ。冒険者キラーってのはダンジョン攻略する冒険者パーティーを狙って攻撃してくる連中のことだ。元冒険者が多いらしいが、最初から殺害目的で冒険者登録する奴もいるみたいだ。出没する階層や時間帯はランダムでギルド本部も手をこまねいているらしい。だが確実に被害報告が増えているとのことだ」
冒険者を襲う輩か。ただでさえ多くの魔物が出現する場所なのに許せない連中だ。
「グレッグ、そいつらのランクは聞いているのか?」
「いや、ランク帯はバラバラらしい。D級もいれば、A級もいるみたいだ」
「そうなんだ」
「俺達は晴れてレベル四十以上になってランクDになった。だがC級以上に出くわしたら対処できねえかもな」
C級は二十階層以上を戦えるくらいの力だ。交戦すればグレッグ達はかなりの差を感じるだろう。
「もしそうなったらどうすればいいの?」
カーラが不安げに尋ねる。
「そうだな。その時はタクトに頼らないといけなくなるな」
「ああ。だが状態異常の対策をされていれば難しいかもしれない……」
「今日の第十三階層は雷と麻痺の厄介な場所だが、現れるとすれば奴らは対策してきているはずだ」
「なるほど。みんなを守りながらは厳しいかもな」
手練れとなると、状態異常系の魔法だけでは対処できないかもしれない。
「おいおい。その時は攻撃してくれよな」
「いや、できる限りしない方向で考えてみるよ」
実のところみんなを守るだけなら正直何とかなる。敵の生け捕りが難しいのだ。攻撃せずに相手を拘束してしまう方法……金縛りか?
「グレッグ、何とかしてみるよ。高ランクの奴なら手出しせず逃げてくれ」
「おう、助かるぜ。だがタクト、さっきも言ったが今から行くのは雷対策が必要だ。その格好で大丈夫か?」
グレッグが心配しているのはエレノーラ様から頂いた黒装束のことだ。ほかの三人は対策用に絶縁装束、絶縁靴、絶縁篭手、絶縁兜、導雷のマントを装備している。
「ああ、大丈夫だよ。五十層以上の環境で問題なかったからな」
「マジかよ! じゃあ心配いらないな。みんな待たせたな、行こう!」
グレッグがポータルを出現させる。私達は順にポータルに入り十三階層の安全地帯に足を踏み入れる。
絶えず雷鳴が轟く紫灰色の空間。金属質の床に不安定な雷エネルギーが走り、空中には帯電した結晶が浮かんでいる。
「環境だけじゃなく魔物も帯電している。麻痺に気をつけてくれ」
皆は対策装備を身に着けているが、私は念のため全員に麻痺と衝撃耐性の魔法をかける。
「よし、これで大丈夫だ」
ちょうどその時周囲から瘴気が立ちこめ始める。
「お、早速おいでなすったな!」
グレッグの言葉通り、スパークゴブリンが群れでやってくる。私達を嗅ぎつけたのか、空にはサンダーバットの群れが出現する。
「キエエエエッ!!」
奴らは私達に襲いかかる。アーノルドが大楯でゴブリン達に対処する。カーラが上からの雷光弾を軽やかに回避すると、大きく跳躍し上空のサンダーバットに攻撃する。
「氷雪の舞!」
カーラの吹雪攻撃がサンダーバット達を打ち落とし、消滅してアイテム化する。
「奥義、一文字・斬!」
グレッグの一撃でゴブリンの前衛が切り伏せられ消滅する。
三分後、群れは減る気配がなくどんどん増えている。地中からエレクトロスネークも出現している。
「エリアヒール!」
私は皆を回復させる。
「くそっ! これじゃきりがねぇ……」
「こんなに多くちゃいずれ力尽きるよ。タクト、何とかならないの?」
「うーん、そうだなあ。さすがにこれは……」
私は思案し、エレノーラ様に確認することにした。
「どうしました、タクト」
「師匠、現状の映像を思念で送ります。敵の数が多すぎて、攻撃に参加してもいいかの確認です」
「少しお待ちを。今確認しますね……。なるほど、これは確かに大変ですね」
しばしの時をおいてエレノーラ様から返答が来る。
「わかりました。使用を許可します」
「ありがとうございます、師匠」
「戻ったらまた話し合いましょう」
「わかりました」
私は通信を切って状況を確認する。皆が私を見る。
すぐに許可が下りたことを皆に話し、私は呪文を唱える。
「『太陽の輝き』!」
魔法が上空に発動し、サンダーバット達が焼け焦げてすべて消滅し、アイテムをまき散らす。
「ありがとうタクト! 助かったわ」
「グレッグ、そっちは行けそうか?」
グレッグが息を荒げてスパークゴブリン達に対処している。アーノルドもエレクトロスネークを抑えている。
「できればこっちも助けてくれー!」
「わかった」
「焼き尽くせ、『ファイヤートルネード』!」
四方に紅蓮の炎が出現し、大量のゴブリンや魔獣の群れに襲いかかる。奴らは断末魔をあげ消滅しアイテムをぶちまける。煩かった魔物達の鳴き声がすべて消え、静寂が訪れる。
「さすがタクト、助かったぜ」
「やっぱり魔法使いがいてくれないとこういう時対処できないよ」
カーラがふてくされている。
「気持ちはわかるけど、私がすべてやっていたらカーラ達の出番が無くなってしまう。そしてカーラ達がもらえる経験値も少なくなってしまうよ。エレノーラ様はそれを危惧しているんだよ」
「そうだったのか、タクト?」
グレッグがエレノーラ様の条件の理由を知り驚いている。
「ああ。私はエレノーラ様と二人で五十五階層のボスを突破できた。一人でも四十階層くらいなら何とかなるよ」
「え? じゃあ何で私達とパーティーしてるのよ?」
「エレノーラ様からの依頼だし、それにこう見えて初心者なんだよ」
「初心者……」
カーラがぽかんとした顔をしている。
「マジか……。それは悩みどころだな」
「グレッグ達を紹介してくれたのはエレノーラ様だしな。今日戻ったら今後も攻撃魔法を使っていいかどうか聞いてみるよ」
「ああ。俺達としてもその方がありがたい。頼んだぞ」
「わかった」
そうしていると遠くから磁気竜巻が発生する。
「ヤバい! 逃げるんだ!」
グレッグ達が避難体制に入る。私は呪文を唱える準備に入る。
「怒りを鎮めんとする! 『聖なる領域』!」
竜巻に向けて聖属性の領域を展開する。磁気を帯びた竜巻に影響を及ぼし、消滅していく。聖属性の効果で魔物の気配も完全にしなくなる。
「ふぅ……」
「ま、魔法便利すぎ!」
状況を見ていたカーラが驚嘆の声を上げる。
「スタン以外は大丈夫かな、ここは」
「スタン?」
「ああ。状態異常で動けなくなることだよ」
「いやあ、でもタクトがいなかったら今頃大変でしたよ」
アーノルドが感心して語る。だがその時、五メートルほど離れた右側方の岩陰から悲鳴が上がる。
「何だ一体!?」
グレッグが小走りに岩陰の向こうを確認しに行く。そして目の前の人物を目撃してたじろぐ。
「お前は確か【狂信の炎術士】ユーデル=カーマン! なぜこんなところに? 上位のB級冒険者だったはずだ……」
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【まめちしき】
【サンダーバット】……魔獣。体長七十センチ、翼長一・五メートル。飛行・奇襲型で感電波動、麻痺咬みをしてくる。
【スパークゴブリン】……亜人。体長一~一・五メートル。群れで行動し投擲武器持ち。感電手榴弾、スタン爆弾で攻撃してくる。
【エレクトロスネーク】……魔獣。体長二メートルの蛇。地中を移動し電気鱗や雷突きで攻撃してくる。
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