第43話 クララからの依頼
イグノールとの面会が終わり部屋に戻ると、すでにクララが食事の皿を丁寧にテーブルに載せ終わっている。私に気づき彼女が話しかけてきた。
「先に失礼してご用意させていただきました」
「ああ、ありがとう。助かるよ」
クララは急にうつむいてもじもじしだす。
「タクト様、実はお願いがございまして……」
何だろう? 久しぶりのクララの頼みとあらば気にならないわけがない。
「な、何かな?」
「御食事ですが、私達と一緒に取っていただけないでしょうか? 皆さんタクト様と話したくて仕方ないようでして……。実は私もその一人です」
なるほど、食事か。何か少し肩透かしを食らった気分になる。
大人数の人間との接触が嫌で部屋で食事を取らせてもらっているが、ここに来てから時間が経ち、不思議と今は昔ほどの嫌悪感はなくなった。
「そうだなぁ……」
ただ、今はダンジョンとアビスでの修練が始まったばかりで疲労感はある。まあそれも慣れの問題か。
「わかったよ。じゃあ明日の朝からそうしようか」
私の返答にクララの顔が明るくなる。
「タクト様、ありがとうございます! 明日から食堂にてご用意させていただきますね」
「ああ、わかった」
「楽しみですね……。皆さんに色々な話を聞かせてあげてくださいね」
クララがそう言ってまるで天使のような微笑みを向けてくる。こんな顔されたら反対なんかできないよ……。
◆◆◆
翌朝、目覚めてから準備すると、クララが食事の用意ができたと呼びに来てくれる。
「ありがとうクララ。では行こうか」
「はい。こちらこそありがとうございます、タクト様」
クララが先導して食堂へと向かう。食堂の扉は開いており、かなり多くの聖職者達でにぎわっている。クララが席まで誘導してくれる。私は皆に一礼しながらついていく。
そして先に来て席に着いているエレノーラ様と挨拶を交わす。
「こちらです、タクト様」
クララがエレノーラ様の隣の椅子を引いて用意してくれる。テーブルにはパンや料理がすでに並べられている。
「ありがとう、クララ」
私が椅子に腰かけると、皆の視線が私に集まるのを感じる。
「ふふふ、皆さん待ちきれないようですね」
エレノーラ様が取り仕切り、皆で一緒に神に感謝し食事の挨拶を行う。食事を始めるとしばらくして続々と聖職者達が私の周りに集まってくる。
「戦争に勝利してくださり感謝いたします!」
「料理がすごく美味しくなりました。ありがとうございます!」
「魔法の習得は順調ですか?」
様々な人から色々な言葉をかけられる。私はその一つ一つに丁寧に答え、一礼して感謝する。皆目を輝かせ、満足して自分の場所へと戻っていく。
やり取りしながら食事もいただき、すべてをたいらげる。クララが空いた皿を手際よく下げてくれる。
「タクト様ありがとうございます。皆さん喜んでいましたね。これからもお願いしますね」
「ああ、クララもありがとう。ゆっくり味わって食べるんだよ」
「はい。ありがとうございます」
やはり皆にとって異世界人は物珍しく映るのだろう。中には悩みを相談してくる人もいた。すべてに応じられるわけではないが、そのうち皆の熱が冷めて落ち着いていくだろうと思う……。
「ごちそうさまでした。師匠、それでは行ってきます」
「お気をつけて。帰ってきたらお待ちしていますよ」
「わかりました」
私は食堂を後にして部屋に戻る。手間は増えるが、誰かと話する方が気が紛れるかもしれないと、この時は軽く考えていたのだった。
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