第41話 アビスからの帰還
「私は一体……どうしてここにいるのか、誰なのかもわからない……」
「そ、そうですか……どうすりゃいいんでしょうね、ハハハ」
彼女をこんな風にしてしまった張本人がどうしていいかわからずにいた。笑ってごまかしている場合ではない。
考えあぐねている私を見かねてか、エレノーラ様がやってくる。
「お困りのようですね、タクト」
「は、はい……。師匠、彼女の件は一体どうしたら良いでしょう?」
エレノーラ様が人間となったリヴィアをひと目見る。彼女達の目が合う。
「これはもう見事というしかないですね。記憶もないのですね」
「はい」
「そうですね……。貴女はミリエラ=エルンとして私と共に来なさい。悪いようには致しませんので」
リヴィアの瞳が輝く。
「は……はい。名前までありがとうございます。貴女は?」
「私はエレノーラ=オーベルシュタイン。クラヴェール王国の聖女です」
「エレノーラ様、ありがとうございます」
こんなあっさり解決してしまうとは……さすがエレノーラ様。だがさっきまでデーモン・ロードだった彼女を連れ帰って本当にいいのだろうか?
「師匠、本当によろしいのですか?」
「構いませんわ。それにしてもタクト、貴方はとんでもない怪物を生み出しましたね。素晴らしいですわ」
「えっ?」
怪物? そりゃあ彼女はデーモン・ロードだった存在。それを改めて言うことでもないと思うが……。
「彼女に関する責任はすべて私が負いますので、心配ご無用ですわ」
「わ、わかりました。そこまでおっしゃるなら、よろしくお願いします」
もしリヴィアの記憶が戻ったとしても、エレノーラ様が何とかしてくださるだろう。
その後エレノーラ様は空から私達を主だった場所へ連れて行ってくださった。
「この辺りは以前私が来て地慣らししていますから、また今度ゆっくりと案内しますわ」
「は、はい……。わかりました」
今までに悪魔達の住処ともいえるこの広大な巣窟でどんなことをなさって来たのだろう……。考えるとゾッとするが、それでも興味は尽きない。
「ここでも座標を登録しておいてください。次はタクトに任せますからね」
「わかりました」
私は初めてこの地に来た場所をはじめ、いくつかの場所をテレポートに必要な座標登録を行う。人間の世界でも正確に登録する必要があるが、特にこのアビスでは雑にやると転移後に悪魔達と鉢合わせる可能性があり危険だ。
「師匠、座標の登録が終わりました」
「そうですか、早かったですね。さて、今日のところはこれで戻るとしましょうか」
「わかりました」
荒野だった土地が今はキラキラ輝きを放っている。悪魔の棲まう土地にもかかわらず、私達を引き留めようとする者はもはやいなかった。
アビス……。想像以上に恐ろしい場所だが、それ以上にエレノーラ様の力の絶大さを思い知った。底が知れないというか、もう神々でしか止められないのかもしれない。
「グレーター・テレポート」
エレノーラ様が呪文を唱えると、私達は元いたクラヴェール王国のカルシミール大聖堂の中広間に転移する。
「お疲れ様です。なかなかに大変な場所でしたね」
「そう感じましたか。これからもっと過酷になっていきますよ」
エレノーラ様はニコニコしながら答える。よほど楽しいのだろうな。ミリエラは彼女のメイドとして仕えてもらうのだそうだ。
「わかりました。頑張ります。今日もありがとうございました」
「明日からまたみっちりやりますので、今日はゆっくりしてくださいね」
エレノーラ様に挨拶し、部屋へ戻ることにする。エレノーラ様はミリエラと共に私を見送ってくださった。
部屋へ戻ると早速身を清めてさっぱりしてから、テーブルについて今日の振り返りをする。
「さてと、データを出すか」
インベントリを開きデータの可視化を行う。一度収納したデータは原本がなくても好きなようにデータを出すことができるようになった。少し前に発見した機能だ。
階層の地図、大体の状況解説、悪魔の分布とステータス情報。詳細に出ている。現地での敵情報にも活用できた。すべてエレノーラ様がまとめた情報である。
「今日の第一階層、結構膨大なデータだな」
エレノーラ様も完全に網羅は難しいとおっしゃっていた。半分くらいは不明となっている。だが調査したところはかなり詳細にデータ化されている。
「他の階層のデータもざっと見ておくか」
アビスの全階層が網羅されているわけではなく、バッサリと無い階層群もある。
「ここ全部に悪魔が棲んでいるんだよな。すごい場所だよなぁ……」
ちょうどその時、扉をノックする音がする。クララがやって来たようだ。
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