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第37話 古の大蛇バジルラージ

 どこに姿を隠していたのかわからないが、全長二十メートルはあろう大蛇が私達の目の前に出現する。黄金色で縦長の瞳孔(どうこう)。見る者の魂を射抜くような威圧感がある。私以外の三人の足がすくんでいる。


 左右に1本ずつの角がある頭部に、身体は濃緑と黒の混ざり合う鱗が幾重にも重なり、光沢はなく濡れているように見える。各鱗には呪文のような古代紋様が刻まれている。


「シャアアアッ!!」


 耳をつんざく金切(かなぎ)り声をあげて私達を威嚇(いかく)する。


「かなり大きいな。どこから出てきたんだ」


「あ、あれは裏ボスって奴だ。条件を満たさないと現れない。俺も初めて見た」


 グレッグが教えてくれる。何か条件を満たすようなことをしたのだろうか。


「条件って何なんだ?」


「わからん。ギルドでも聞いたことがないな。俺達には無縁だと思っていたからな」


 だがギルドからもらった魔物図鑑の中にはある。名前は『(いにしえ)の大蛇バジルラージ』。属性はバジリスクとほぼ同じ。いわゆる上位互換のようだ。


「明らかにさっきの魔獣とは桁違いの強さだな。グレッグ、どうする?」


「簡単には逃がしてくれないだろうな。隙をついて戦うしかないな」


 大蛇はぎろりと大きな目でこちらを(にら)み、私達をロックオンしたようだ。舌を何度も出し入れし、体に見合わぬ素早さで襲いかかってくる。


「ダメだ! 間に……」


「『聖なる壁(ホーリーウォール)』、いでよ!」


 魔法が発動し、グレッグ達の前に壁ができる。大蛇は突然出現した壁に頭をぶつけてのけぞる。


「グレッグ、しばらくは持つはずだ。そのうちに戦闘態勢を!」


「サンキュ、タクト」


 大蛇は長い尾を駆使して何度も壁に叩きつける。ガンガンと大きな音が響き渡る。


 破られるとアーノルドだけでは対処できないだろう。私は呪文を唱える。


「『創造・木人形(クリエイト・パペット)』!」


 魔法が発動し、アーノルドの両隣りに彼を模した人形が出現する。


「アーノルド、こいつらは君の命令通りに動く。防御は任せた」


「そうか。ありがとう」


 更にアーノルド達に身体強化の魔法を重ねる。グレッグは気を練って準備をしている。


「私はどうすれば……」


 カーラが目の前の敵に動揺している。私は彼女に指示を出す。


「カーラは後ろの岩陰に隠れて。あとで攻撃してもらうから」


「わかった」


 その時魔法の壁がはじける音がして消滅してしまう。


「アーノルド!」


「了解。うおおおおおお!!!」


 アーノルドと二体の人形は大蛇に向かい、大楯を構える。


「行けるぞ。これなら」


 アーノルドは目を輝かせバジルラージの突撃を受け止める。尻尾の攻撃にも人形達が対処する。その間にカーラと私は岩陰に身をひそめる。


「よし、今から槍を出す。カーラ、奴に当てることは出来る?」


「今まで投げたことはないよ。重いのは無理なんだけど……」


「いや、軽いから大丈夫だよ。命中させられるかどうかって話」


「ああ、それなら大丈夫よ」


 私は呪文を唱え、魔法を発動する。


「いでよ、聖槍スレニプール!」


 頭上に十メートルの聖なる槍が三本出現する。


「これが槍? 大きいわね。すごく重そうだけど」


「大丈夫。バジルラージに関するギルドからの情報では奴の急所は頭だけど、心臓が三つもあるそうだ」


「そんな……。ということは全部当てないとダメってこと?」


「ああ。でも失敗してもまだ出せるから」


「そうなんだ。やってみるよ」


 カーラは槍の一本を片手に持ってみる。


「軽っ! 全然重さを感じないよ。でもしっかり持てる。これならいけるかも」


「そうか。頭めがけて投げてもらえばいい」


「うん、わかった」


 私達が打ち合わせている間、アーノルドとグレッグがバジルラージの相手をしている。


「奥義・紅の一撃(レッドクラッシュ)!」


グレッグが渾身(こんしん)の一撃を叩きつける! だがバジルラージの硬い鱗は攻撃を寄せ付けなかった。


「何て硬い身体なんだ! 手がしびれてやがる……」


 グレッグは反撃をかわしながら驚いている。彼の一撃は火属性。どうやら弱点属性での攻撃でないとダメージが与えられないようだ。


 バジルラージはこちらを(にら)みつけ石化しようとする。だか無効化の魔法が効果を発揮し、難を逃れる。


「このまま長期化するのはまずい。何とか方法はないのか……」


 焦るグレッグに私が応える。


「グレッグ、あとは任せてくれ!」


 私は両手をバジルラージに向け、即効魔法を発動する。


金縛り(スリープパラライズ)!」


 術は発動し、バジルラージの動きを一瞬止めることに成功する。


「カーラ、頼んだ!」


「うん、一本目!」


 狙いを定めていたカーラが聖なる槍を投擲(とうてき)する。槍は勢いよく飛んでいき、見事バジルラージの額を直撃し、貫通する。


「よし!」


 大蛇の頭が消滅するが、程なく再生を始める。


「復活か。なんて奴だ」


 アーノルドが目の前の光景に絶句する。その間にもカーラが二本目の槍を握る。


「カーラ、行けそうか」


「うん、任せて」


 バジルラージの頭が再生しかける瞬間、カーラが反応する。


「行け! 二本目」


 聖なる槍はカーラの意思に呼応するかの如く勢いよく狙い通りに飛んでいき、再生を終えたばかりの頭部を貫通する!


「やった!」


 バジルラージの頭部が再び消滅するも、また再生の兆しを見せる。


「よし、最後。頼んだぞ」


 私が言葉を発した時にはすでにカーラの態勢は整っている。


「これでラストよ! くたばれ!」


 カーラの三度目の投擲が綺麗な軌道を描き、再生するバジルラージの頭を貫通する! 最後は大蛇の巨大な身体ごと爆散し、消滅していく。


「やったのか!?」


 あまりの再生に疑い気味のグレッグが叫ぶ。


「データ通りなら大丈夫のはず」


 静寂が洞窟内を包み込む。時間が経過するが、再生の兆しは見られない。どうやら討ち取ったようだ。


「やったわ!」


 カーラが叫ぶ。同時にカーラ達の身体を光が包む。


「力があふれてくる。レベルが上がったのね」


 グレッグ達のレベルが上がったようだ。バジルラージはやはり段違いに強い魔物だったのだろう。


「カーラ、すごいな。あんな強敵を倒すとは!」


 グレッグが褒めちぎる。


「へへへ。でもタクトのお陰だよ。私は指示通りにやっただけだから」


「いやいや、見事な命中精度だった。なかなかできることじゃないよ」


 皆で戦果を(たた)えあった。バジルラージのいた場所に少量のアイテムとかなりの量の硬貨が散乱している。私はその中に丸いものを見つける。


「これは何だろう」


 アイテムに瘴気(しょうき)は感じられない。呪いはなさそうだ。


「レアアイテムかもしれないな」


 グレッグが私に告げる。アイテムは大蛇の目のようである。


「グレッグ、これ少し借りてもいいかな」


「ああ、いいぜ」


 私は落ちているそのアイテムを拾い、インベントリを出して収納する。


複写(コピー)


 インベントリは私の言葉に反応し光る。その後アイテムを取り出してグレッグに渡す。


「もういいのか?」


「ああ。このアイテム、『蛇神の瞳核』というレアドロップらしい。バジルラージの象徴的な瞳を加工した秘宝。

装備者の精神を蛇神の呪縛から守る特殊な力を持つ、だそうだ」


「おお! さっきのバジリスクのアイテムよりいい効果がありそうだな」


 グレッグが喜ぶ。私が収納した後に流れてきたこのアイテムについての詳細はこうだ。


==============


【蛇神の瞳核じゃしんのどうかく】レア・装飾品

解説:バジルラージの象徴的な瞳を加工した秘宝。装備者の精神を蛇神の呪縛から守る特殊な力を持つ。

効果:・石化・呪い・幻覚を完全無効化

   ・視線攻撃への耐性+100%


==============


 私達は散乱していたアイテムと硬貨を回収し終える。


「けど、さっきのバジリスクより出てくるアイテムの数が妙に少ないな。何でなんだろう……」


 グレッグが違和感に気づき不思議がっている。確かに強敵にしては少ないかもしれない。


「ギルド本部に戻ったら聞いてみたらどうだ?」


「そうだな、そうしよう。今日の探索はこれで終わりにして戻るか。みんなお疲れ様だった」


 周囲に魔物の気配がない事を確認し、グレッグがポータルを出現させる。私達はポータルに入りギルド本部の前へと戻る。


 なかなかに苦戦して大変だったが、私達のダンジョン探索二日目は幕を閉じたのだった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【まめちしき】

 

(いにしえ)の大蛇バジルラージ】……太古より封印されていた高位バジリスク系の魔獣。石化の視線と変化する猛毒を(あやつ)る。知性を持ち、かつて蛇神に仕えていた誇り高き存在。巨大な体躯(たいく)と呪紋の鱗に(おお)われ、異質な威圧感を放つ。


【聖槍スレニプール】……神話の時代に「天と地を結ぶもの」として神より授けられたとされる神聖な槍。かつて「白き神アリエル」が地上に降りた際、彼女が地上に残した三つの神器のひとつ。その穂先は銀よりも白く輝き、柄は古代樹の化石でできており、柄の表面には精霊文字が浮かび上がる。触れるだけで浄化の力が流れ込み、邪悪なるものを()く。タクトが魔法で呼び出したものはいずれも模造品。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


「面白いかも!」「続きが読みたい!」「陰ながら応援してるよ!」


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