第36話 第十二階層ボス:バジリスク
「みんな、ここに人間の石像があるよ」
先行していたカーラがギルドから支給されていた通信器で私達に伝えてくる。
「ああ。この階層ボス、バシリスクに石化されたのかもしれないな」
グレッグが私達に説明する。バシリスクは石化と毒を仕掛けてくるらしい。
「毒は命に関わるし、石化が厄介なんだよ。解除方法があるから何とかなるが、パーティーが全滅させられることもあるからな」
「全滅?」
「ああ、全員石化で終わりだ。だがギルドで管理しているから、もしそうなったとしてもギルドの管理者が救出に来るんだ」
「どういうことだ?」
「ダンジョンから戻ってこないパーティーを組合が管理しているんだ。だから行方不明になるとギルドが動く。前の勇者パーティーの件はさすがに動けなかったようだがな」
そんな話をしているとカーラから通信が届く。
「グレッグ、ここにある石像はどうする?」
「俺が連絡する。そこにいてくれ」
「わかった」
一時後、私達はカーラに追いつき状況を確認する。グレッグがギルドに連絡しようとする。
「これか。グレッグ、任せてくれないか」
私はグレッグに意見する。
「何か策があるのか?」
「ああ。解除してみるよ」
私は石像に向けて呪文を唱える。
「『呪い解除』!」
魔法は効果を発動し、五体の石像に降りかかる。柔らかい光が石化を解除していく。
「お、俺は一体!?」
つい少し前まで石だった男が声を上げる。
「石化させられてたんだよ。タクトが今呪いを解除したんだ」
「そ、そうだったのか。ありがとう」
「いいってことよ。すぐギルドに報告するんだな」
「ああ。君達もどうか気をつけて」
石化させられていたパーティー一行は私達に感謝し、ポータルを出現させ離脱する。
「タクト、サンキューな。手間が省けたぜ」
「ああ」
問題が解決したと思ったのも束の間、私達の目の前に階層ボスが復活の兆しを見せる。
「出やがったか! 何てタイミングだ。まるで見ていたかのようじゃねぇかよ」
グレッグの言う通りだ。『ダンジョンは生きている』と前の世界でやっていたゲームの説明でもあった。同じなのかもしれない。
「みんな、フォーメーションを組むんだ!」
闇が晴れると、目の前に全長五メートル以上はある巨大な蛇竜が現れる。
「来たな、バジリスク!」
全身濃い緑色の鱗に覆われ、鶏のような太い四本の脚。私はまだ十二階層でこんな強力そうな魔物が出現することに驚く。
バジリスクは私達を認識すると唸り声をあげ襲いかかってくる!
ガキイィィィィン!
洞窟中に金属音が響き渡る。棍棒はアーノルドの大楯に食い止められる。
「おお! 助かったぜ。今日は吹き飛ばされなかったな、アーノルド」
グレッグが称える。アーノルドがバジリスクの攻撃に必死に抵抗している。
「ああ、いつもより力がみなぎっている。今のうちに対策を!」
「おう、奴の目を見るんじゃねぇぞ!」
アーノルドが皆に訴える。バジリスクは後退し、私達に向けて口を開けて液体を吐きかける。
液体は私達全体に襲いかかるが、皆の手前で消滅する。どうやら魔法が発動したようだ。
「大丈夫だ。毒だったみたいだな。異常系のものは防いでくれるよ。力技や嚙みつきに気をつけて」
私は皆に声をかける。対策は万全だ。バジリスクは面食らったようで目の前の光景に固まっている。その隙に私はカーラに指示する。
「カーラ、短刀を出して」
「え? わかった」
カーラが短刀の柄を握り鞘から抜く。私は刀身に強力な聖属性と風属性の魔法を付与する。
「これで奴に攻撃をしかけるんだ」
「わかった」
バジリスクは蛇鱗の硬化を開始する。カーラが素早い足さばきで巨人に向かう。
「流星八連撃!」
バジリスクの身体にカーラの鋭い斬撃がヒットしダメージを与えていく。魔獣は激しい叫び声をあげ苦しみだす。
その隙にグレッグの身体強化を施す。
「グレッグ、頼んだ!」
「おう!」
グレッグがバジリスクめがけてジャンプする。握る剣に赤々と炎が宿る。
「奥義・紅の一撃!」
大きく振り下ろした一撃がバジリスクの身体を両断し、爆散してアイテムをぶちまける。
「やったなグレッグ! すごいぞ」
私は思わず叫んでグレッグを称える。
「見事です! 今までは歯が立たなかったのに今日はやれましたね」
散乱する戦利品の中に異様な瘴気を放つ丸い石を見つける。
「グレッグ、あのアイテムは何だ?」
「ああ、『バジリスクの魔眼』だな。カーラ、処置できるか?」
「ええ。やってみる」
カーラはシーフの技能でアイテムの無害化を施す。
「これでよしと。タクトの魔法のおかげで早くできたよ」
魔眼は無害化処置され、無闇な石化をしなくなる。
「サンキュー、カーラ。そいつはタクトにやるよ」
「いいのか?」
「ああ、倒せたのはタクトのおかげだしな。取っとけよ」
「じゃあありがたくもらうよ」
私は魔眼を受け取り、インベントリを出して収納する。アイテムの効果が頭の中に入ってくる。
「何? 今何かしたの?」
カーラが私のインベントリの操作を見て反応する。
「あ、ああ。物の出し入れはこれでやるんだ」
「へえ。私達はギルドからのバッグに入れるけど、それは便利そうね」
「カーラにはこれ見える?」
私はインベントリからアイテムを出し入れしてみる。
「ううん。全然見えない。どうやってるのか不思議ね」
やはりこの世界の人々はこの機能を知らないらしい。
「タクト、俺達はこっちのマントが必要なんだが、もらっていいか?」
グレッグが布を持って私に尋ねる。
「ああ、いいよ。こっちの魔眼も欲しくなったら譲るよ」
「いや、それはいい。これさえもらえれば十分だ。サンキューな」
「それはどんな効果があるんだ?」
「ああ、石化と毒を防げるんだ」
「それはいいな」
バジリスク討伐の恩恵は意外とあって良かった。だが石化や猛毒が冒険者を遠ざけているのだろう。このボスを避けて戦う冒険者が多いらしい。
「よし、じゃあ今日は戻るか」
グレッグがそう言った時だった。急に階層全体を瘴気が包み、悪寒が走る。
「グレッグ! 何かが来る!」
私達は程なくしてその正体に遭遇することになる。
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【まめちしき】
【通信器】…… ギルド本部が冒険者達に支給している。魔法と錬金術が発達した異世界の技術を駆使して製作された小型機械。耳に装着でき、その状態で音声を集音してくれる。魔法が使えない冒険者の為に製作されたが、コストが高すぎて一般には普及されていない。
【バジリスク】…… 種族は魔蛇獣。体長8メートルほどで、全身うろこに覆われたトカゲのフォルムに四本の鶏のような太い脚。毒・石化攻撃を主体とする。
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