第28話 異世界への理解
私はグレッグ達と別れ、テレポートで一旦自分の部屋へ戻った。身を清めてからエレノーラ様の部屋へ顔を出す。
エレノーラ様は聖女の立場上、民衆との過度な接触や飲酒を禁じられているため、先に帰還していたのだ。
「あらタクト。帰りが早かったですね」
「はい。歓迎してくれて盛り上がりましたが、お酒は苦手で。今日は早めに切り上げてきました」
「まあ、そうでしたか。それでいつからダンジョンへ?」
「明日の朝九時から待ち合わせて出発です。攻略は早い方がいいと言ってました」
「わかりました。私はこの後仕事がありますので、今日はお休みでも結構ですよ」
エレノーラ様仕事なのか……。申し訳なく思いつつ自分の要望を進言する。
「いいえ。今日はこの世界についてもっと知っておこうと思いまして、勉強したいのです」
するとエレノーラ様はにっこり微笑んで答える。
「それはとても良いですわね。わかりました。案内しますのでついてきてください」
エレノーラ様に導かれ大聖堂の図書室へ初めて案内される。
「これは…… すごいな!」
私は入り口でその大きさに圧倒されてしまう。巨大な部屋には奥まで整然と本棚が並び、各棚にはびっしりと本で埋め尽くされている。
本の多さに圧倒されていると、受付を終えたエレノーラ様が戻ってきた。
「さて、行きましょうか。何の勉強をしますか?」
ふとその時、ずっと疑問だったことが頭をよぎり、質問することにした。
「その前にお聞きしたいのですが、この世界には暦はありますか? 今が何年なのか知らなくて」
「ああ、ありますよ。今はカリユス歴1320年です。神が降り立った年から数えた年ですわ」
「ありがとうございます」
特に困っていたわけではないが知る事ができてよかった。
「カレンダーがありますので、夕食の時にクララに部屋まで持っていかせますね」
「わかりました。勉強ですが、この世界と各国の歴史について知りたいです」
「とても素晴らしいですわ。案内しますね」
エレノーラ様は私を先導し、しばらく歩いてとある場所で止まる。
「ここですね。何冊か見繕ってみましょう」
エレノーラ様が魔法で十冊ほどの本を本棚から取り出す。本のタイトルは「世界の歴史」や「グラコスタ帝国興亡史」などまさに知りたい文献だ。
「ありがとうございます。読ませてもらいます」
「この辺りの本棚が歴史系の文献ですので、他にも読みたいものがあれば探してくださいね」
「わかりました」
エレノーラ様は仕事に戻るため図書室を後にする。私は受け取った本を近くのテーブルまで運んで、一冊ずつインベントリに入れては頭に記憶し、取り出して次の本へという作業を繰り返した。
一応すべての本をパラパラと目を通し、めぼしい内容を熟読する。
「なるほど。この世界も色々あったんだな。やはり勉強して正解だった」
クラヴェール王国は建国四百年ほどの比較的新しい国で、国名が三回変わっているらしい。その前はグラコスタ帝国の領地だったそうだ。
はるか昔、長きにわたり神々と魔界の魔王との戦争があり、魔王を討ち取った神カリユスが世界を再創生したという歴史も書かれている。暦の源流となったものだろう。
文献には各国の歴史や地理的状況、社会風習、人々の考え方なども書かれており、常識として吸収できた。本棚から他の本を十数冊借りてインベントリに入れる。
◆◆◆
「これでこの世界の人並みには理解できたかな。一応知識としては入ったから、細かいことは部屋でするかな」
気づけばすっかり夕方になっている。持ち出した本を戻し、部屋に戻って知識の整理にいそしむのだった。
◆◆◆
そうして作業をしていると、不意にノックする音が聞こえる。
「失礼いたします」
クララが夕食を運んできてくれた。作業に没頭していたので時間感覚がなかったようだ。
「ああ、もうそんな時間なのか……」
「タクト様、エレノーラ様から申しつかったカレンダーをお持ちしましたよ」
クララは皿を並べる前に筒状に丸められた紙のカレンダーを私に手渡してくれた。広げると月日がびっしり書かれている。
「ありがとう。大きなカレンダーだな。クララ、今日は何月何日かわかるか?」
「はい。五月十四日ですね。タクト様が来られてから二週間になります」
もうそんなに経っていたのか。クララの話からして、暦は前の世界とほぼ同じ基準なのか。一か月が三十日で決まっていることが違うくらいか。
この国は季節に乏しいから日本のようには月日の感覚が感じにくい。何月かはチェックしておいた方がよさそうだ。
「ありがとう。助かるよ」
私はインベントリを出してカレンダーを中に収納する。食事が終わったら錬金術で卓上カレンダーを作っておくか。
クララがテーブルに皿を並べ終えて私に一礼する。
「では食事が終わりましたらまた来ますね。ごゆっくりどうぞ」
クララが空いたワゴンを運んで部屋を出ていく。私は食事をしながら今後について思いを巡らせるのだった。
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