第24話 クララの気持ち
「タクト様、見えてきました。あの場所です」
私達は小高い丘を駆け上がり歩き続けている。前方に石造りの高台が見えてきた。結構歩いてきたがクララは元気そうだ。逞しく思える。
高台を上ると遠くに海が見渡せる景色の良い場所。こんなきれいな景色が見られるとは思わなかった。
「海か。きれいだな」
「タクト様、海をご存じなのですね」
「ああ。前の世界では子供の頃よく泳ぎに行ったな」
大人になってからは仕事の日々で海どころではなかったが、学生の頃まではたまに見に行っていたなあ。
「そうでしたか」
「こんないい場所があるなんて。クララ、ありがとう」
「ご満足いただけて何よりです」
私とクララはそのまましばらく海を眺めていたが、私が沈黙を破る。
「なあ、クララ。私のことをどう思う?」
どういうわけか自然に言葉にしていた。前の世界では絶対出なかっただろう。
「そうですね、素敵な方だと思います」
「そ、そうか。その……よかったら私と一緒に……」
クララの方を向くと、クララと目が合う。
「私と、ですか?」
「あ、ああ……」
「それは、私を女性として、ということですか?」
「え? そ……そう」
私が頭から湯気を出しながら必死に言葉をふり絞るが、これが精一杯だ。そんな私を見てクララは驚くが、少し目を閉じた後、海の方を見つめる。
「タクト様のお気持ち、とてもうれしいです。ですがタクト様はみんなの希望。私では釣りあいませんよ……」
私は頭が真っ白になる。だがクララは少しうつむいた後、私を見て答える。
「ですがこれまで同様、私にタクト様のお世話をさせてください。今まで以上に頑張りますのでどうかお願いいたします」
「あ、ああ。もちろんだよ」
私の答えにクララの表情がパッと明るくなる。
「ありがとうございます! ですがタクト様のせっかくのご好意に沿えなかったこと、どうかお許しくださいませ」
クララが深々と頭を下げる。フラれはしたが、彼女が慕ってくれているのはわかる。私はクララの手を取る。
「ああ。残念だけれど、君の気持ちが知れたのはよかった……。これからもよろしく頼むよ」
「はい、タクト様。私のような者にもお優しいのですね」
クララが涙をこぼす。なぜかはわからないが私はフラれてしまった。だが心はぐっと近づいた気がする。
「もうだいぶ日も傾いてきたし、そろそろ帰ろうか」
「は、はい」
私は涙にくれるクララにヒールをかけて回復させる。そして大聖堂までグレーター・テレポートで転移すると、クララを帰して別れ、部屋に戻ったのだが……。
「うおおお! わからん!!」
私はベッドで頭を抱え転げ回る。何か悪いことをしたか? いや、むしろすごく喜んでいた気さえする。それなのになぜだ? 考えれば考えるほどわからなかった。
それから三十分後、クララが夕食を運んでやってくる。口数は少ないが、いつも通り丁寧に食事の皿をを並べて去っていく。食後も食器を取りにやってきて手際よく片付け、去っていった。
ますますわからなくなった私の頭はショートしてしまい、そのまま深い眠りに落ちていった。
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