第18話 思いがけない魔法
翌日、私はエレノーラ様と魔法の修練を継続している。強化魔法のおさらいをしている時だった。
「師匠、質問があります」
「何でしょう?」
今から素早さの強化魔法、ファストを試そうとしている。
「ファストで対象者の素早さを上げた時、普段以上のスピードが出ることに対して戸惑いとかはないのでしょうか?」
「結論から申し上げますとありますね。一時的にすべての身体能力が強化されますが、対象者の状況によってついていけなかったり、違和感を感じることはあります。また、疲労度も個人差が出ます」
やはり思っていた通りか。私は思いついたことを試してみることにする。
「師匠、試しにファストをかけます」
「わかりました」
私は少し慎重に念を込めて呪文を唱える。
「ファスト!」
魔法は発動し、問題なくエレノーラ様にかかる。
「その状態で動いてもらえますか?」
「ええ」
次の瞬間エレノーラ様の姿は消え、はるか遠く見えなくなってしまう。しばらくして元の場所まで戻ってきた。
「どんな感じですか?」
「素晴らしいですね。効果は通常の倍です。それに体への負荷がほとんどありません。強化されることでの違和感も少ないですね」
申し分ない反応を頂いた。さらに微調整すればもっと使いやすい魔法になるだろう。
「よかったです」
「これはファストとは違う魔法になりそうですね。強化魔法、いえ、無属性の領域を超えています」
「どういうことですか?」
エレノーラは少し考え込んで答える。
「そうですね、無属性よりは時間に特化した感じがします。そう、「時空魔法」ですね」
「時空魔法?」
「その名の通り時間と空間を操る領域の魔法です。過去に研究者も存在したとか」
そんな便利な魔法があるのか。それは覚えておいて損はない。
「ぜひ教えてください!」
「それが…… 資料がほとんどないのです。過去に禁呪とされた事もあり、私達も現物を見たことがないのです」
それは残念。何か手掛かりがあれば…… あっ!
「師匠、テレポートの呪文も時空魔法ではないのですか?」
「確かに、テレポートは時間と空間を移動する魔法。文献をあたってみましょう」
「ありがとうございます!」
エレノーラ様がテレポートで図書館へ転移する。これで何か見つかれば強力な武器になるだろう。
しばらくしてエレノーラ様が魔導書を携えて戻ってくる。
「一冊だけでしたがありましたよ。ご覧ください」
エレノーラ様は古びて朽ちかけているその本に聖魔法をかけ、新品に戻してしまう。『転移大全』と書かれている。
「少しお借りします」
私は本をインベントリに収納する。例の感覚を味わった後、本を取り出す。
「ありがとうございます。内容は理解できました」
「そうですか、では一緒に見てみましょう」
私は該当していそうな魔法の項目を開いてエレノーラ様に説明する。彼女は吟味しながら詳細について解説してくれた。
「これも時空魔法とみなしていいでしょうね。ほかにもないか探してみましょう」
「わかりました」
生活魔法にも時空魔法と判断できるものが出てきたり、まったく未知の時空魔法もかなりの数確認できた。
「師匠、この魔法すごいですね!」
「盲点でしたね。テレポートに特化して考えてましたわ」
エレノーラ様も使用できるらしい。無属性魔法と思って覚えていたのだ。
私はエレノーラ様とともに時空魔法を一つずつ紐解いていった。特に時間系の魔法はどれもチートと思えるものばかりだ。
「これ、悪用したら大変ですね」
「そうですよ。悪用厳禁ですわ」
エレノーラ様から改めて念押しされる。
「特にこの金縛りの術みたいなのはだめですね」
「まったくです。禁呪になるのも当然ですね」
現状廃れているとはいえ、使用してくる敵も現れるかもしれない。対策しておかねばならない。
「師匠、これもですが、特に時間停止系の魔法が厄介です。対応策はありますか?」
「そうですねぇ……」
エレノーラ様は少し考え、いくつか策を伝授してくださった。
「使うと有利になりますが、使われるとかなり大変ですね」
「師匠は使えるのですか?」
「ええ。やってみましょうか」
エレノーラ様はそう言うと術を発動し、私を漆黒の闇キューブの中に閉じ込めてしまう。
「うわぁ!! これはマズい」
十秒ほどで術は解除され私は元の状態に戻る。
「どうですか?」
「かなり凶悪な魔法ですね。あのままでも酸欠で死んでしまいそうです。聖女が使う魔法ではありませんよ」
「そうですね。転移が封じられたら厄介なことになります」
「これも対策しておく必要がありますね」
私はエレノーラ様と魔導書に存在するすべての時空魔法を吟味することにした。複雑な魔法もいくつかあり、すべてをチェックするのに丸一日を要した。
「師匠、お忙しいところ一緒に見てもらってありがとうございました」
「礼には及びませんよ。私も知らなかったことがたくさんあり勉強になりました。とても楽しかったですわ」
「そうおっしゃられると救われます。お陰で戦闘の幅が広がりました」
「フフフ、タクトは面白い人ですね。明日はいよいよ戦争当日です。頑張りましょう」
「はい。今日もご指導ありがとうございました!」
明日の戦争にこの国の命運がかかっている。緊張で眠れないと思っていたが、意外に疲れていた私はこの日の晩、ぐっすり眠る事ができたのだった。
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