8.いつも通り学校に行く
50分ほど電車に揺られて登校する。
自然と兄と同じ高校に入学した私は、毎日通学に1時間近くかけることになってしまった。
兄は、電車代がもったいないという理由で毎日自転車で登校していた。
兄のゴタゴタで久しぶりに行く学校だ。
今は兄のことというよりも魔術のことで頭が一杯になっている。
学校の最寄り駅に着き、改札を抜ける。
「どうしたのっ?浮かない顔して」
そう言って私の横に来る女の子
この子は美華。アメリカ人とのハーフで金髪は地毛らしい。
「いや、ちょっとお兄ちゃんのことを考えてただけ。」
あっと口を塞ぐ美華
「ごめんね。そうだよね…悪気があったわけじゃないの」
いや気にしなくて大丈夫だよ。異世界で生きてるらしいから。
そう言えたらいいけど、そんなことを言ったら精神科直行だろう。
「大丈夫!気にしないで。」
二人の間に沈黙が流れる。
いつも仲良く話しているだけに、この時間が非常に苦しい。
そのまま学校に着いてしまった。
学校に着いても皆から避けられている気がする。
そりゃあ、あんな奇怪な事件が起こったのだから触れづらいだろう。
それから、誰とも話さずに昼休みになった。
校舎裏で一人弁当を食べる。
「はぁ、辛いなぁ」
嫌な気分を消そうとご飯をかき込む。
「なんで誰とも話さないのかしら?」
視界の隅に見えるレースのスカート
「セファー!居たの!?」
突然セファーは目の前に来て顔を近づけた。
「で?どうなの?」
同じ質問を繰り返す。
私が話そうとしないんじゃなくて周りが避けていくから仕方ないじゃない。
「話しかけて来ないのが悪いとか思ってるんでしょ?鏡を見てご覧なさい。そんな顔してたらそりゃあ誰も話しかけないわよ。」
手鏡を出して自分の顔を見る。
なるほど、これは酷い。
「いろいろ大変な事が続いて精神的にも参っちゃってるんでしょう。私も考えてあげればよかったわね。ごめんなさいね。」
なんていい子なんだこの子は。
そもそも、私も兄を助けたい気持ちがあってやったことだ。
別にセファーが悪いだなんて1ミリも思ってない。
「それを言うためだけに来てくれたの?」
首を振るセファー
「本当の目的は違うわ。この近くに守護具があるようだから、それを紗奈に回収してほしいの。下手な人間が持ったら何をしでかすかわからないから早急に探さなければならないわ。」
さっき言ったこと覚えてるのかな?
色々あって大変だからって謝ってくれたと思ったのに色々が今増えたよ?
「守護具って何?」
「守護具っていうのは、私達『守護者』になる前の存在ね。つまり、意志はないけど力はある状態のことよ。」
また情報量が増えた。
とりあえず昼休みが終わるから放課後に探すか。
なんでこんなに時間がなくなって行くんだろう。
とりあえず走って教室に戻った。
「なんか顔色良くなった?」
教室に戻るとすぐ友達から声をかけられた。
なんだ、こんなことだったのか。
「うん!色々あってスッキリしたから!」
そんな感じで他愛もない雑談をする。
早く美華を見つけて朝のことを謝りたい。
しかし、次の授業、美華は帰ってこなかった。
そのまた次の授業も。
6限が終わり、終礼を終えた私は掃除を友達に任せて美華を探すことにした。
校門を出て学校周辺を探し回る。
「だめだ、見つからない。」
「紗奈!大変よ」
セファーも慌てた様子で私に話しかける。
「守護具が移動してるの!」
もしかして…もしかすると美華と守護具に何か関係があるかもしれない。
「分かった、案内して。」
セファーの案内で連れてこられたのは学校から数百メートル歩いたところにある廃ビル
「アタシは触れた相手の記憶を読む【記憶の書庫】では正確な情報を得ることができるけど、触れてない存在について調べる【世界の記録者】ではあまり正確な情報は得られないの。この周辺にあることだけは確かね。」
そんなセファーの説明よりも、私は地面に落ちているものに気を取られていた。
レースの付いた真っ赤なリボン
間違いなく美華の物だ。
「このビルに入ろう。」
ビルに足を踏み入れる。
地面には苔が生え、いつ崩れてもおかしくなさそうだ。
3階まで登った時、日光が当たって輝く金髪が見えた。
「美華!何してるの!?」
振り向く美華
いや、美華じゃない。見た目は美華なんだけど何かが違う。
「ケヒッ。お前、この女の知り合いかぁ?」
え、何、どういう事?美華が気持ち悪い。
「どういう事かしら?その子が付けている指輪の能力なの?」
笑い出す美華…いや、誰だ?
「この女、死んだ友達の兄貴についで酷い事言ったみたいでよぉ、謝りたいんだと。じゃあ、死んで謝るしかねぇってことで願いを受けた俺様が殺してやるのさ。」
は?何を言ってるの?
「じゃあ、あばよ!」
そう言ってビルの窓に走っていく美華
ここは3階だ。落ちたらひとたまりもない。
助けないと!
窓に駆け寄り、どうにか掴んで引っ張ろうとする。
だが、できなかった。
伸ばした手はあっけなく空を切った。
「そんな、美華!」
窓の下にゆっくりと落ちていく美華が見える。
練習中…というか一回も成功したことがないけどやるしか無い。
「は?どういうことだよ?」
後ろから美華の声が聞こえる。
いつの間にか美華が後ろに移動していたことに気がついた。
「まさか、この土壇場で空間魔術を成功させるなんてね。」
セファーが驚いている。
私もびっくりだ。
それ以上に驚いているのは美華についている悪霊だった。
はっと気がついて美華の指に付いている指輪を外す。
「悪霊、美華から出てけ!」
「あ、くそぅ!」
間抜けな声を出して悪霊は消えた。
糸が切れた操り人形のように崩れ落ちる美華
「あれ、私どうしてこんなとこに?」
意識を取り戻した美華はあたりを見渡している。
「あ、紗奈!私、紗奈に謝りたくて…」
立ち上がろうとする美華を抱きしめる。
「美華、無事で良かった。」
困惑した様子の美華
「お兄ちゃんは生きてるから大丈夫だよ!」
なぜか、今はそう言ったほうがいい気がした。
混乱している美華を勢いで押し切り、家まで送り届けた。
帰宅後、私とセファーは今日の指輪を眺めていた。
「この指輪、霊を人間にとりつかせることも可能となると扱いが難しいわね」
セファーはすごく悩んでいる様子だ。
まぁ、持ってたら使えるタイミングがあるでしょ。
そう簡単じゃないのは分かってるけど。
それよりも、私はさっき成功した空間魔術のほうが気になっている。
頑張ればお兄ちゃんのとこと繋げないかな?
そんなことを考えながら魔術を使う。
「え、嘘でしょ!?」
まさかのまさかで普通につながってしまった。
と思ったが、何故か触れない。
人が通るのは不可能そうだ。
「もう向こうの景色が見えるまでになったの!?」
セファーが驚いてる。
それ以上に驚いてるのは私だ。
「で、何が見えたの?」
兄と飛んでいるショートヘアの女の子が見える。
おそらくあの子がセファーの妹だろう。
二人がやってるのは…
「二人共、座禅を組んでるんだけど?」